削がれる
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世の中には不思議な事もあるものだ。ナビが何の媒体も無しに実体化するとは…

「なあ、カーネル。お前も同じ事は出来ないか?」

『無茶を言わないで下さい』

三秒の間もない即答。…まあ、それは分かっていたことだ。

今現在、バレルとカーネル、それにイリヤという珍妙な取り合わせの三人は、たった一人の怒れるナビに殺されかけている。何が恐ろしいって、相手に退く気が全く無いという事実だ。自分達の死体が出来上がるその時まで、彼は攻撃を仕掛けつづけるだろう。

その暴走同然の殺戮劇を繰り広げようとしているのは、これ以上無い程にキレているサーチマンだった。

「サーチマン、話を聞いてってば!!」

「問答無用だっ!!貴様等全員殺す!」

深紅の瞳はぎらついていて、本当に話を聞きそうに無い上、明確過ぎる程明確な殺人宣言までされてしまった。ヤバい。

飛んできた手榴弾を、たまたまあった雪だるまを盾にしてかわす。作っていた青年兵達(恐らくは休日なのだろう)が見知った顔であるイリヤに文句を言おうとしたが、様々な武器を持って彼を追い掛けて、今や生きた鬼神と化しているシャーロ軍ネットワーク部隊最強のナビを見て固まってしまった。百戦錬磨の彼等でも、確かにこれは恐いだろう。

足を止めてしまった二人目掛けて、サーチマンが背に負う小型衛星からレーザーを放つ。

気付いた瞬間、バレルとイリヤはほぼ同時に左右に飛び、ぎりぎりで回避した。レーザーが直撃したもう一体の雪だるまは弾け飛び、そのままどろどろに溶けていく。もしこれを避けれなかったら、今頃この地は惨劇の舞台と化していたに違い無い。

「ちょ、これどうします、大佐」

「逃げ続けるだけでは埒があかない。…ここは一つ、専門家に聞こう」

「専門家って……」

誰ですか、と聞く前に、空中に3Dモニターが展開した。

そこに映っているのは−

『どしたのー、バレルさんにイリヤ』

「熱斗君!?…あ、そうか」

熱斗は現在、ナビの実体化技術を研究しているのである。

『バレルさんから俺にかけてくるなんて珍しー……あ、後ろにいるのサーチマンじゃん。何だ、サーチマンも実体化出来るようになったんだ、じゃあ実体化に究極プログラムは関係してないのかなー…』

「熱斗君、今はそういう分析をしてもらいたい訳じゃなくてね」

『じゃあ、何?』

「実体化を外部から強制解除する方法は無いだろうか」

『実体化の強制解除?そんなの簡単だよ、PETの電源切るだけ』

「…そ、それだけ?」

『うん』

あんまりにも簡単なその方法に拍子抜けしてしまう。……簡単?

「大佐。ライカのPETって今、何処にありましたっけ?」

「ライカ君の部屋、だな」

「兵舎に行くには…」

「……そういうこと、だな」

結局、サーチマンというデカすぎる壁が立ち塞がるのである。

『てゆーかさ、何であんなにサーチマン怒ってんの?』

「そ、それはー…」

『…大佐がな、ライカが楽しみにしていた本日新発売のデザートをそうとは知らずに食べてしまったんだ。その様をイリヤが目撃し、更にはライカがこの事態を知ってしまって……』

その時のライカの落ち込み振りは半端ではなかった。しかも、二人がライカの存在に気付かずに楽しげにデザートの感想を話していた為、混ざれない事に寂しさも覚えた。そして、そのままふて腐れて部屋のベッドに座り込んでしまったのだ。

そこに、月一のメンテナンスが終わったサーチマンが戻ってきた。長年付き合っていた主の様子に不審を覚えた彼はバレルのPETを訪ね、そして事を知り…

ライカ様至上主義の彼は元々、二人の度重なる主への不埒な行為を腹にすえかねていた。それが遂に爆発したのである。

『それってさあ……二人が悪いんじゃない?』

『私もそう思っているのだが』

「いーや、絶っ対にサーチマンもライカに執着し過ぎだと思うね!」

「デザート一つぐらいであそこまで怒るとは…」

『……絶対に今回の件だけが原因ではありませんよ、大佐』

「そうだろうか。……まあ、何にせよどうにかしなければならないのは確かだな。名人にディメンショナルエリアを要請するか…」

『……それは自分も賛成ですね。このまま放っておいたらどうなるか…』

想像に難く無い。

『じゃあ、出来るだけ早くした方が良いって。もうすぐ最大出力のサテライトレイが飛んでくるだろうし』

「「『え゛…』」」

「滅べクソ共っ!!サテライトレイ!!」

ドォォン!





その後バレルとイリヤはシャーロ軍部の医務室に搬納され、サーチマンとカーネルはメンテナンス行きになったとか…。



10/05/09
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下らない理由で命懸け鬼ごっこをする軍人ズを書いてみたかったのです。熱斗君は友情出演。
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