絶対零度(EXE)
2013/05/18 21:11
「えーっと、そのー……ライカ、さん?」
切り出そうとする熱斗の声は酷く震えていて、恐怖を多分に孕んだ言葉はそれ以上紡がれることもなかった。
怯える少年に相対するのは、凍てついた無表情に多大な怒りを纏わせる少年――ライカ。その肩には、彼のナビが端正な面差しに困惑を湛えながらホログラムとして顕現している。
「……熱斗」
「は、はひぃ!!」
「さっきの任務では、よくもやってくれたな」
先程の任務 、とはコピーロイドを利用した連続銀行襲撃犯の確保のことである。
たまたまニホンを訪れていたライカが熱斗とペアを組んで従事ることになったのだが、その時(元気が取り柄の彼としては)多分に身体の調子を悪くしていた熱斗が散々足を引っ張ってしまったのだ。
結果、下手をすれば今も犯人は悠々自適と逃亡劇を繰り出しかねないところまで事態が悪化したのである。
尻拭いをさせられる羽目に会ったライカが自分を怒るのは仕方ない――それは分かっていたが、よもやここまでとは思っていなかった。どうなるんだろう、俺。
「大体、お前は自分の体調管理も出来ないのか?」
「……へ?」
それは全く予想していない言葉だった。
「調子が良くないんだったらとっとと申告しろ。そうすれば別の作戦に切り換えるなり伊集院に代理を頼むなり出来たんだ」
ということは、足を引っ張ったことにではなく、調子が悪いのに無理して任務を受けたこと自体に怒っているのか。
「お前はもっと自分の身体と相談しろ。無理を重ねて使い物にならなくなったら余計に困る」
「……ごめん」
こうなってはもう平謝りするしかない。へこへこと頭を下げる様で溜飲を下げたのか、少年軍人の表情がようやく和らぐ。
と、それまで一切口を挟もうとはしなかったサーチマンが主の耳元に囁き始めた。
『ライカ様』
「どうした、サーチマン」
『本当はもっと、別のことを指摘するべきだったのでは?』
「別に構わないだろう。どうせ次の日には忘れているんだろうし」
『はあ』
それはいささか甘すぎるのではないでしょうか、とは決して言わず、サーチマンはただ慎ましやかに沈黙することを選んだ。
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久々のノーマルなEXE。多分自分の部下にはもっと盛大に怒るのだろうが相手が相手なのでお手柔らかなライカの図。
お題配布元→
空をとぶ5つの方法
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