※響く鐘の音は遠く、別れは近い(EXE:FE的パロ)
2012/10/03 00:32
密やかな逢瀬。とでも言えば、少しは蜜的で華やかなのだろうか。
近衛兵と皇帝。彼等の普段の関係性。その立場故、公式の場では、彼等はお互いに必要以上には干渉しなかった。
だけれども、今はプライベート。皇帝の私室にて、ほんの少しだけ。
「帰れ」
「開口一番それはねえだろ!」
「帰れ」
「えー……」
「帰れ」
「………」
ないわー。心中で熱斗は呟く。ライカは顔もこちらに向けないで、執務室から持ち帰った書類をずーっと処理し続けている。何だか、アレだ。情緒ってなんだろう。
形だけのお飾り皇帝。だけれども、国を上げた神事の取り仕切りや書類の最終処理(文章確認して判子を押すだけ)は彼のやらなければならないことだ。そして、書類は彼の元にまで上奏された時点で、処理期限が迫っていたりすることがしばしばなのである。
従って、残った書類処理を自室に持ち帰ってでも終わらせたい、というのは理解出来る。終わるまで待った方が良い、というのも分かっている。だがそれで放って置かれるのも何だか腹が立つ。こっちだって、自由な時間はそう多くは無いのだ。
「なあ、ライカ〜」
「……」
遂に観念したのか、それともうっとうしくなったのだろうか。判子の動きがピタリ、と止まる。朱肉の上に置かれる。
仕方ない、とでもいうかのように振り返ったライカの表情は、我が儘な子供を諌める大人のそれだった。
「時間が無いんだ。戻った方が良い」
自分にとっても、お前にとっても。そう言いたいのだろうか。
やっと相手にしてもらえると思ったら、これだ。溜まった不満は更に積もって、それを吐き出そうとした時−−
……ゴーン、ゴーン……
(あ……)
黄昏を告げる鐘の音、そして。
いつの間にか−−きっと、鐘の音に気を取られた時だ−−近付いていたライカに、お気に入りのバンダナを解かれて。
解放された額に、彼の唇が触れた。
「〜〜、なっ、ちょっ……」
「満足したなら、さっさと自分の部屋に戻るんだな」
一転して甘やかな表情と声。−−ああ、卑怯だ。そんなのされたら、大人しく引き下がるしかないじゃん。
(鐘さえ鳴らなきゃ、意地でも傍にいれたのに)
ポッキリ折れたことを、定期的に時を告げるだけの鐘のせいにしながら。熱斗はすごすごと部屋を出て行った。
−−−−−−−−−−−−−−−−
鐘は正真正銘無実である。構って欲しい熱斗と一枚上手なライカ
お題配布元→
空をとぶ5つの方法
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