※御曹司と御令嬢(EXE)
2012/02/10 16:03
幾度も幾度も、ノートパソコンのキーを叩く音が静かな部屋に響く。
科学省は宿直室。普段は科学者達しか使わないこの部屋に、今は二人の子供の姿があった。
一人はニホンが誇る大企業IPCの御曹司にして副社長、伊集院炎山。一人はシャーロでも五指に入る名家の御令嬢であり軍少尉、ライカ。
身分を隠して入軍し、経験を積んでネットセイバーとなり、そして諸々の事情で刺客に狙われている彼女を、炎山と熱斗が交互に護衛しているのだ。彼女は護衛なんて要らないと言い張っていたが、今ではもう諦めて受け入れているようだった。
「そういえば、お前は何で家出なんかしてるんだ?」
「………」
「答えたくない、か」
最も、自分の身の安全と共に御家の行く末も守ろうとしている辺り、家が嫌いで出て行った訳では無いようだ。
名家と大企業という違いは有れ、自分達は跡目を継ぐという立場に変わりは無い。出ていくことは許されない。それを理解しているのだ。半分ぐらい。
「いずれは家に戻らないといけないんじゃないか?」
「……家督なら兄さんが継ぐ。女で下の子の俺は何処かに嫁がされるだけだ」
一昔前のような風潮よりも、いきなり吐かれた事実に驚いた。
「お前、兄なんていたのか?」
「いる。二卵性双生児。今は俺と同じで家を出ている筈だ」
淀みの無いその答えに、目眩がしそうになった。
「……事情といい家族構成といい、何で言わない」
「聞かれないことを話すつもりは無い」
「っ…」
大体自分もそうだから、反論出来ない。出来ないんだが、文句ぐらいは言いたくなる。
単純に跡継ぎを狙っているのだと考えていた。いや狙いはそうだろう。問題は対象が二人いるということだ。
身近なライカなら、常に張り付いて守れる。しかし何処ぞにいるのかも知れない兄までは守りようがない!
(ったく、何でこんなに振り回されなきゃいけないんだ!)
光のところと言い、ライカのところと言い、自分は双子に振り回される宿命なのだろうか。
PETからの気遣わしい視線には気付かないふりをしながら、炎山は一人頭を抱えた。
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久々SSS。
「Suspense Days」とは特に関係無いです。強いていうなら派生ネタ。
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