※「i」の化身(EXE:パラレル)
2011/07/12 16:53
かつては「削除」する対象であったあの方は、俺に人間として生きる為の知識と術、そして名前を下さった。
それまでは人を「削除」する為の兵器に過ぎなかった俺を、何故だか拾い上げて、人間に変えたのだ。素晴らしい方だと思う。
けれどそれを正直に申し上げた時、あの方は淋しげな笑みを浮かべて「大したことじゃない」、そう言い放った。
意図は分からない。だが、あの方がそう言うのなら、そうなのだろう。
そんな風に納得して。俺は書架の整理に取り掛かる。古い本の匂いは嫌いではない、が、鼻が効きにくくなることは問題だ−…
「……?」
何気無く抜き出した一冊の本。酷く埃を被っている。
このままはあんまりだと感じたから、埃をはたくと、何やら走り書きの痕が見えた。恐らくはこの本のタイトル、なのだろう。
埃を被る程に放置されていたこの本。中身が気になるので開いた。別に良いだろう、…多分。
「……これは…」
ベッドの上で、弱々しく微笑む少女が写されたセピア色の写真が幾枚か。それだけ。後は何も無い。
「…?」
何なのだ、これは。分からない。分からないということは、知らないモノ。
あの方に聞きに行こうか。思って、止めた。…あの方はこの本に触れられたくない、何と無くそう感じたから。
パタリ、本を閉じて書架に戻す。そして埃を叩く作業を再開する。
物言わない本は代わりに、じぃっと俺を見詰めている、そんな気が、した。
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パラレル設定は一人称が多くなりそう。
今回はサーチ。彼はまだアルバムも知らないのである…
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