※ころころ(EXE:パラレル)
2011/07/05 13:03

目の前をころころ、こ汚いサッカーボールが通り過ぎていく。追い掛けるはつい最近下働きに迎えた青年。

下働きとしてはてんで役に立たないが身体能力は無駄に高いから、面倒なことこの上ない。昨日は皿洗いを教えたのだが、任せた分の皿を握力で全て割る、というある意味ベタなことを見事やってのけてみせてくれた。

元々人を殺す術以外の知識や技術は与えられず、自分の意思や感情も封じられていたようだから、人間らしさが欠片も無いのは仕方ない。そこは最初から諦めているし、今から教えれば良い。そんなことは分かっている。

問題は好奇心の強さだ。動くものは何でも追い掛けるし、食べれそうなものとあらば何でも口にしようとする。デカすぎる赤子。同じ好奇心旺盛でも、番人の方はかろうじて節制がある分マシ、かもしれない。

(疲れた…)

気まぐれに拾い上げて二週間。何でこんなに疲れているんだ、俺。

ころころころころ、転がるボールを掴み上げた青年が無表情で近付いてきた。潰さない程度の力加減は出来るようになったらしい。昨日までならもうパーン、だ。

「ラいカ、サま」

片言ながらも喋れるようになった彼は、いちいち色んなことを俺に報告してくる。こんなものを見つけました、とかあれは何ですか、とかとにかく色々。

「コレはなニトいうノですカ?」

ほら来た。このパターン。

「…サッカーボールだ」

「どうイったヨウとがアルのデスか?」

「蹴っ飛ばしたり転がしたり、だな」

自分自身サッカーなんてしないし出来ないから、適当に答えた。

青年はしげしげと手の中のサッカーボールを見詰める。それからころころ、転がした。そして追い掛け始める。

そんな様を眺めながら、……ふと、気付いた。

(……まだ、アイツの名前をつけていないな)

二週間も前に拾ったのに。保留し続けていたのだ。何しているんだ、俺。

名前の無い淋しさは、知ってる筈、なのに…

「…らイカ、サマ?」

「…何でも、無い」

またこう言って。

まだ、引き延ばす。ころころ、名残惜し気に転がるボールのように。



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まだ名前の無いサーチ。にしても片言って難しい!


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