※カンタレラ(EXE:パラレル)
2011/07/02 13:42
ポタリ。「それ」が一滴落ちた途端、じっくり時間をかけて作り上げたコンソメスープが薄い紫色に染まった。
「この間の仕返しか?」
問い掛けながらも脳内で否定する。果物ナイフを突き付けられたぐらいで仕返しを企てる程、この女はちゃっちい器の持ち主ではない筈だ。買い被りでなければ、だが。
「それ」で満たされた小瓶を持った女−−炎山は質問には答えず、変わり果てたスープを見て首を傾げた。
「無味無臭、色も無しで見た目では判断出来ない筈、なんだが……再現失敗、か?」
「何の話だ」
「カンタレラ」
あっさり吐かれたその名に眉をひそめる。カンタレラ。
それは彼のボルジア家に伝わっていたとされる毒薬の名だ。秘されていただけあって成分などは殆ど分かっていない。俺の知る限りでは。生家はボルジア家に睨まれるようなことはしていないし。大体ボルジア家がそれを使わなければ保て無い程の隆盛を誇ったのは三、四百年ぐらい前……ん?
この女、一体何時から生きているんだ?内心でそう思い……考えるのを止める。気付いたら存在していた、とかに違いない。
「貴様は死ぬことは無いから実験台に最適だと思ってやったんだが」
「今すぐ失せろ」
死ななくても痛覚とかは有るんだ、無意味な苦痛は遠慮願いたい。
人間の姿をした「世界」は何度か瞬くと、俺の言葉はスルーしてカンタレラ再現失敗作をぼたぼたスープに注ぐ。どんどん毒々しく塗り替えられる俺の夕ご飯。ああ、もったいない…
彼女の行動原理はおおよそ二つで構成されている。一つは「次元の狭間」を保つこと。
一つは、……好奇心。
(……面倒臭い)
根本から人間ではない彼女は、それゆえに人間の生き様へ、凄まじいまでの興味が湧くらしい。今回もそれの一環か。
何にせよ、俺を巻き込むのは止めて欲しい。溜め息をつきながら、窓の外を眺める。猫の爪のごとき三日月が、俺を嘲笑うように藍空に浮かんでいた。
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「カンタレラ」には三日月より新月の方が合いそうだけど。
今回もボカロが元ネタ。ミュージカルおめでとうございます(この場で言うのも変か)。
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