微睡に誘われて | ナノ


(学パロ)








キーン コーン カーン コーン . . . . .


四時間目の終了を告げる鐘が校舎に響き渡る。
その音は校庭にも、別館の校舎にも、屋上にもだ。


屋上にある高台の上で、徐倫は眠っていた。
いや、正しくいえば授業をサボっていた。無断欠席というやつだ。


「…ぅ、」

喉の奥が詰まったような声を上げた。まだ眠気が消えないようだ。

9月の心地の良い気温が徐倫の眠気を一層強くさせる。
耳の奥では、うっすらの鐘の音が響いていた。

「もう終わったの…?」

気のせいかと思ったが、やはり思ったとおりだった。
どうやら自分は、朝から昼までずっと眠っていたらしい。

「ふぁ…ねみぃ…、」

徐倫が授業をサボるのはいつものこのだ。
まぁ授業を受けることもあるが、度々こうして屋上や、または保健室や図書館なんかを使ってフケたりなんかしている。
別にクラスのヤツらは何も言ってこないし、徐倫がサボるのはいつものことだから慣れているし、それにこんな徐倫と仲良くしてくれていたので、まわりは特に気にはならなかった。

ただ母には、よく怒られていた。担任の女教師に説教はされるも、いつものことだからあっちもかなり呆れている様子だった。
父には…特に何もいわれない。いや、何も言われていないわけではなく、叱られることがないのだ。
前に父が部屋に急に来たから説教されるかと思ったが、その口からは「退学とか留学しなけりゃあ好きなことしておけ」と言われた。

父もきっと学生時代を真面目に送っていなかったのだと、その時徐倫は思った。
きっと私の不良気質なところは、父さんに似てしまったのだと。



そんなことはさておき、徐倫は起きられずにいた。
起きられないのは態勢が、というわけでなく、眠気に勝てなかったから。

暑くも寒くもない、ちょうどよい日の光が徐倫を眠りの世界に誘う。
腹は減っていたが、このまま寝るのも悪くはない。そう思うと徐倫は再び瞼を閉じた。



何秒後か何分後か分からないが、徐倫が瞼を閉じてからいくらか時間が経ったときだった。
誰かが高台に上ってくる足音が聞こえる。錆びた鉄の梯子を一歩ずつのぼってくる足音が。一歩ずつ体重を掛けて、上へ上へと昇ってくる。

徐倫はその足音が誰なのか、なんとなく予想できていた。この歩き方、このリズム、目を閉じていても分かる。だれなのか。



足音の主は徐倫の目の前に来ると動きを止めた。


目を瞑りながら徐倫は今か今かと待ち構える。

しかし物音は一切聞こえてこない。足音の主はそのまま動かない。


(…あれ?どうしたの…?)


(一体なにをしているの…………?)




不思議に思ったが、徐倫は目を開けるわけにはいかなかった。
別に目を開けてもよかったが、今更目を開けるのもなんだか気まづいからだ。
相手から声をかけてきたら起きようかと思っていたのだ。

しかしその相手は、一向に動く気配がない。音がしない。動作もわからない。
一体なにをしているのか、それすらわからない。

(は、はやくしてよ…!なにやってるの!?)




ふわっ と誰かが触れてきた。

徐倫の頬をやさしく撫でる感触。



徐倫はハッ、となって勢いよく起き上った。

目の前には見覚えのある男の顔があった。想像していた、あの人だった。



徐倫は目の前の男を確認すると、思わず腕を振り上げた。

そしてそのまま、男の胸をたたいて押し返そうとした。

しかし男は徐倫の腕の力に負けず、押し返されなかった。
それどころか徐倫の腕の力なんかこれっぽっちも苦にならないようだ。



「徐倫」

「…もう、なんですぐ起こしてくれないのよ」

徐倫は恥ずかしかった。どうして恥ずかしいのかは自分でもよくわからない。

目の前にきたのに起こしてくれなかったからなのか。それとも自分の寝顔を見られたからなのか。  それとも、顔を触られたからなのか。



「………なんかぼーっとしてた」

「嘘つくな。ホントのこと言ってよ…」


なんでだろう。どうしてアタシは今恥ずかしいのだろう。きっと顔も赤い。耳まで赤いだろう。
こんな顔、本当は見られたくない。でも目の前にいるし、距離も近いから絶対見られてる。





「…徐倫の寝顔見てた」

「はぁ!?」



思わず声を荒げてしまった。大声を上げた自分に徐倫はビックリしていた。

本当のことを言えと言ったのは自分だが、まさかの回答が帰ってきたため自分でも困惑していた。よりによって、自分の寝顔を見られていたなんて………、



(いともたやすく嘘つくなんて………)

徐倫はとにかく驚くしかなかった。
自分の寝顔を見られていたからなのもあるが、目の前の男が躊躇なく嘘をついたという行為に驚きを感じてもいた。とにかくこの男の考えることは謎である。いつも一緒に徐倫にもよくわからない。


(あぁ恥ずかしい…恥ずかしすぎて顔が沸騰しそうだ…。穴があったら入りたい…)





「それとも…キスでもすればよかった?」

「は、はぁっ!?」




日差しは今もかわりなく照らし続けている。







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微睡みはこわいこわい
20121231