不良少年だね | ナノ





屋上から見る景色はいつも同じだった。

校庭では男子たちが野球をする姿。
花壇の周辺では女子たちが水やりをする姿。
遠くの道路で白い宅配トラックが走る姿。
近くの公園でブランコに乗る子供の姿。
校門付近の販売機から飲み物を買う男女。
近所の友達を集めてこれから何時間も立ち話をするであろう奥さん達。

全部、いつもと変わりない風景だ。

月曜から金曜。

僕が昼休みにこの屋上から何度も見ている風景。何度も見たことのある風景。



毎日同じことの繰り返しだ。こんな変化のない日常はつまらない。退屈だ。たまには違うことが起きてもいいんじゃないかな。
僕は去っていく宅配トラックの後ろ姿を追いながら思った。

けど、こんな変化のない日常を退屈だと思っても嫌いだとは思わない。
なぜなら大好きな彼とこうして一緒にいられる。
いつも、この誰もいない屋上で君と二人で昼休みをすごすのは嫌いじゃないから。いや、むしろ僕が好きでやっていることだから。


時計を見ると、あと10分で昼休みが終わろうとしていた。


「ねぇ見て承太郎、昨日見たカップルがまた学校サボってデートしてる」
「あぁ、そうだな」

僕はフェンス越しに外を眺めていた。いつも僕はこの場所からこの町の風景を眺める。この位置から町をよく眺めることが出来る。
承太郎は近くのフェンスに寄り掛かり、煙草をふかしていた。
絶え間なく白く煙い息を吐き出している。


「もう…そんな姿、先生たちに見られたらまた怒られるよ?」
「別に。大丈夫だろ」
「だいたい、高校生は煙草吸っちゃダメなんだよ?」

いつものように僕は煙草の注意をする。そしていつものように承太郎は僕の言葉を無視していた。彼は僕の言葉を気にすることなく、相変わらず煙草を吸っている。
本当に君は、不良少年だね。

(でもそんな不良を、僕は好きなんだけど…)

付き合ってるのだから、多少は多めには見てあげるけどね。



「…なぁ花京院。次って何だ?」
「えーっと…たしか論理だったっけ?」
「論理か…面倒くせぇな、」

そういうと承太郎はバッと立ちあがった。承太郎の長い制服がバッとなびいた。
いきなり勢いよく立ちあがったため僕は驚く。肩がビクッと大きく震えてしまった。

「ど、どうしたの?もう行く?」
「いや、サボる。」
「え!?またサボるの?」

承太郎が授業をサボるのはよくあることだ。学校はサボってばっかで、たまに学校に来たと思えば授業を抜け出すこともしばしば。僕が授業にちゃんと出るように促せば嫌だとか面倒くさいとか言ってサボるし。たまにきちんと授業は受けるけど…。
このままじゃ進級できないんじゃないか?僕は君と一緒に卒業したいのに。


僕がうつむいて下をむいていると、急に腕をつかまれた。


(え?)


状況を把握するのに、少し時間がかかった。見ると、手をとっていたのは、まぎれもなく彼で。気がついた時にはすでに遅くて、そのまま腕を引っ張られ屋上のドアに向かって引っ張って行かれた。

「え、うそ、承太郎!どうしたの?」
「お前がスネた顔してっから、連れ出そうと思って」
「つ、連れ出すって…どこに!?てか授業は!?やっぱりサボるの!!?」
「授業は受けねえって。お前もサボれ。」
「えええ!?」

いつものことなんだけど、承太郎の強引すぎる行動にはついていけないよ。
彼は僕のことなんて屁でもないように、その手を引っ張っていくんだ。
気がつけば階段を駆け下りていた。生徒玄関まで来ると、ためらいもなく承太郎は靴をぬいだ。そして外靴に履き替える。
本当は授業に出て欲しいけど…なんだか説得するのも疲れたし面倒くさいから、僕も靴を履き替えてそのまま外に飛び出した。
外は10月の秋とは思えないくらい暑い日差しで、僕は思わず腕で目を隠した。なんて眩しい空だろう。まるで太陽が授業をサボる僕たちを外へと導いているようだ。

(さすがにそれは考え過ぎだろうか)

承太郎の方を向くと、なぜか僕のことを見つめていた。


「どうした?機嫌直ったか?」
「あのねぇ…それどういう意味?逆にこれだと逆に機嫌が悪くなるよ…」
「だろーな、」

だろうなって…君ってヤツは…。
なんだか怒る気にもなれないよ。馬鹿らしい。

「どうせお前のことだから、俺と一緒に授業受けたいんだろ?」
「…そ、そりゃあそうだよ」
「そんでサボってばっかの俺を見て、留年するとか思ったんだろ?」
「…うん、」
「一緒に進級したい…とかって思ったんだろ?」
「…うん。」

どこまでお見通しなんだ君は。どうしてそこまで分かるんだ?君はすべてお見通しなのか?

「…でもさ、承太郎。こうやって君がまたサボれば、さらに成績下がるんじゃないの…?このままだと留年しちゃうよ?」
「大丈夫だって、心配するな。」

…怖いものなしだな君は。それとも、ただ単に呑気なだけなの?それとも本当は心配で心配でしょうがなくてビビってるとか?表にそれを出してないだけとか?
何も分からない。何も予知できない。君は本当に変な男だ。

ふぅ、と僕は大きくため息をついた。そりゃあそうだよ。こんな状況に立たされたらため息の一つや二つくらい出るもんじゃないか。そう思わないかい?

僕は地面をボーっと見つめていた。そしたら、





承太郎が、僕の手を、握ってきた。


「!?」


承太郎の大きな手の中に、僕の手が包まれる。

「大丈夫だろ。誰も見てねぇ」
「そ、そういう問題じゃないだろ!?」

僕は反論した。腕を振り払おうとしたけど、そうはいかず、結局僕の手は握られたままだった。

「言っておくけどここは学校の敷地内であって…っ」
「だから、先生も清掃員も誰もいねぇって…」

それは辺りを見た限りの話であって、もし僕等の見えないところから誰か見ていたらどうするのさ…っ!!


「俺はお前を連れ出せたから、それでいい」
「いやいや、僕はよくないよ!」
「いいじゃねえか。お前も授業サボって不良になって、俺と留年すりゃあいいじゃねぇか」
「え、ええええっ!?」


なんて自分勝手な男なんだ…君ってヤツは…。
僕のことは考えてくれないの?僕の意見は?どうして無視するのさ…
あーあ、なんだか全部が面倒くさくなってきたよ。なんかだるいな。もうどうでもいいや。
せっかく授業サボったんだから…思いっきり楽しんでやるか。

「じゃあせっかくだから、どこかおもしろいところ連れて行ってよ」
「お、なんだお前も不良になるか?」
「ばーか、不良は君だけで十分だよ。せっかくサボるんだから僕を楽しませてくれよ?」
「おう、」


僕はギュッと手を握りしめた。承太郎は僕の手をその大きな手で握り返した。

「ホント僕たちって、不良少年だね。」











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やっと書けた…先月くらいから放置してました(-_-;)
真面目な花京院を不良少年承太郎が連れ出して授業サボってたらいいよね
承太郎はサボりまくってるけど進級しそうですね笑
なんだかんだいってやる男だとおもってます。

20121002