良薫 | ナノ







「大分、涼しくなってきたな」
汗を流すその男の頬には滴が垂れる。口からふう、と息を吐くと、やっと休憩モードに入れたのかどこかほっとした表情をしていた。
といっても、相変わらず細い目をしているため、表情なんてどれも同じに見えるのだが。


俺が差し出した水を、ありがとうと言って受け取った。ごくごくと飲むその姿はもう見慣れてしまったが、いつみても様になっていた。ただ水を飲むだけの姿に。俺もおかしいものだ。こんなにもこの男が俺の目に色濃く写るのは、きっと俺がこの男のことを相当惚れ込んでいるからだと思う。自分で言うのもなんなのだが。改めて気恥ずかしいものだ。しかし恥ずかしいものの、自信をもって言えることでもある。


「もう夏も終わりかもしれんな、」

そう言って、静かに地面に座った。あぐらをかいていると、足元を蟻達が列をなしていた。蟻達は男を避けるように長い行列を整列させていく。視力が皆無の割りに大したものだ。珍しく俺は蟻に感心していた。


『けど、まだ蝉の鳴き声は止まないぜ?まだまだ残暑は厳しいってことだろ?』
「そうかもしれないな。」

一体どっちなんだこの男は。簡単に自分の意見を変えるなんて、よくわからない男だ。しかしこんな性格だが、これでも俺の師匠だからあまり文句も言いづらい。というか言うのも面倒くさいのだが。


「キン肉マンたちはどうしているものかな」
『さぁなー?遊び耽ってたりして。特にキン肉マンはな』
「フフ、そうだな。夏だしお祭り騒ぎをしているかもしれんな。」



祭りか。修行ばかりで、祭りなんて全く頭をよぎっていなかった。別に行く用はないし、行く気もないし、あまり興味もないというか。

親の教育や家系の方針などもあってか、俺自信あまり祭りやうかれ行事には参加したことがなかった。家柄や位の高い家とはそういうものである。名誉ある我が一族に俺自身、誇りはもっていたものの、だからといって格別好きだと思ったことは無かった。祭りや行事に参加したいという子供心を、無理やり閉ざされて過ごしてきた人生だ。そこらへんの輩にはあまり分かってもらえないだろう。こんな俺でも子供心が存在していたというわけだ。



「なぁ、ブロッケンjr。」
『ん?』
「祭り、一緒にいくか?」
『え?』


ドン、ドン!遠くのほうで花火があがる音や、太鼓を叩く大きな音が聞こえてきた。
この男、計算していたのである。

頭のいい男であるのは重々承知していたつもりだが、やはり面と向かってされてしまうと嬉しい半面、照れるものだ。


『…アンタ、いきなこと、してくれるよな…』
「ん?何か言ったか?」


相手の顔なんか見ないで、俺は立ち上がり、そのまま駆けだした。

『…なんも言ってねーよ!はやくしろよ!』





風に運ばれて祭りの薫がしてくるのだった。










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13/9/3
久々に麺ブロ。テキトーネツゾーもいいところですね。


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