恋は盲目 | ナノ







恋は盲目という言葉がある。意味はそのまま。恋をすると目が見えなくなり、他のことが頭に入ってこないという意味だ。あまりいい意味では使われない言葉。そして今の俺にお似合いな言葉かもしれない。




海底を船で滑ること数日。ここ最近、一度もあの男の顔を見ていない。それもそうだ。俺たちは最近、地上に出ていないからだ。潜水艦を船としている俺たちは、陸に上がる以外あまり海上に姿を現さないからだ。もちろん浮上することもあるが、それでも最近は海中を漂うことが多かった。


自室のベッドの上で、ゴロンと仰向けになれば視界は天井のみが映る。それを眺めながら、頭ではあの男の顔が浮かび上がっていた。
ユースタス・キャプテン・キッド。億超えルーキーの中でも賞金額はトップ、そして危険度マックスの男。歳は若いが、若さゆえに溢れ出るパワーに人々は圧倒されるのだろう。まぁ年齢でいけば俺より3つ下で、あまり俺とは大差ない。そしてまた俺も驚かされた内の一人ではあった。あの男の戦闘能力は非常に高く、そしてなにより危険性も大きい。横暴な性格ゆえに、とても荒々しい戦闘スタイルで民間人にも多大な被害を与えている。そんなヤツに最近、俺の頭の中は浸食され続けていたのだった。
どんな時でも頭から離れない。アイツの顔が。赤い奇抜な色をした髪。どんな敵でもにらみ返す鋭い瞳。まるで強さを表すような大きな身体。数々の悪行を繰り出す腕。どれもこれも覚えている。我ながら、結構知りつくしているものだなと改めて思い知らされる。まぁ誰もが知っているであろう事ばかりだ。誰もがその姿を見れば、決して忘れることはできないはずだ。あんな男を見てしまえば。



(忘れることはできない、か。まるで恋のようだな。)




恋。こい。 俺には不釣り合いな1文字である。

男が女に恋をする。女が男に恋をする。それが人が人に対して向ける恋、だ。しかし、男である俺が男であるユースタス屋に恋をするのは少し、いや、かなりおかしい。同性愛なんて今どき流行るものなんだろうか。いやでも海賊と言えば同性愛ってのはよくあることらしいが。だからと言って俺がそういうわけではない。





恋をすれば、その人しか考えられない。

恋は盲目。そういえば、そんな言葉もあったなと、ふと思う。



恋は盲目、とはよく言ったものだ。

この言葉を生んだ人を、俺は一生恨むだろう。





ーーーーーーーーーーーー
20130312
それが恋だということに気づくのだろうか。