頬を撫でるは | ナノ


(現パロ)


冬の冷気は、家の中で想像してた寒さとは桁違いだった。一応寒さ凌ぎにコートなんぞ着ては来たが、やはり肩の震えは止まらない。まぁそんなに気にすることではない、と男はその場で問題を解決した。

頭上で舞う雪の粒たちは、まるで寒さなんか気にするなとでも言っているようだ。静かに、無音で落ちてくる。立ち止まった男の黒髪には、小さな雪の粒たちが積もっていた。

男の鼻に、瞼に、頬に、雪はぶつかっては数秒で溶けてしまう。





「もしもしユースタス屋…」
「ん?どうした?こんな時間に電話なんかしてきやがって」
「あー…なんとなく?」
「はぁ?」


柄にもなく電話なんかしてしまった、と男は後から後悔する。しかし今更悔やんでも遅かった。仕方ないからそのまま会話を続けてみる。言葉なんか出てこないが。

「ユースタス屋…今ひま?」
「…まぁ、暇だけど…どうしたんだよ?」
「今からお前ん家に行ってもいい?てか行くわ」
「お、おぃっ」


ブツリ、と迷いなく通話終了のボタンを押した俺って、酷いやつだろうか?
まさか相手が出てくるとは思わず、適当に言葉を返して、いそいで電話を切った。慌てているところなんて感じ取られたら嫌だし。別にいいけど。


(電話するのも、ユースタス屋に会うのも久しぶりかも…)
嬉しいような、どこか気恥ずかしいような。よくわからない感情が頭の中をあっち行ったりこっち行ったり。ユースタス屋に会えるのは間違いなく嬉しいが。
手が冷たくなってきて、だんだん赤くなっていく。寒さで指が全く動かない。自由が効かない。俺は呪われた。冬に。雪に。冷たさに。


(ユースタス屋になんか買っていこ…何がいいかな…おでんとか?肉まん?)

どっちがいいか決められない俺は、たぶんコンビニに行って両方買うんだろう。なんかそんな気がする。



舞う雪の行く先なんか分からない。ただふらふらと漂う白い粒を、俺は黙って見つめる。
気がついたら、頬にひんやりとした感触が。なんだ雪か。どうってことない、こんな粒。俺の体温が溶かしてしまうさ。








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20130307
肉まん食いたいです。