「はい、承太郎の分。」
汗が流れる頬にあたった、ヒンヤリした冷たさ。それがアイスだと分かると承太郎は「サンキュ。」と言って花京院から受け取った。
季節は夏。汗が止めどなく流れる真夏。避けるのが不可能な暑さ。今日も昨日も流れる汗は、明日も流れるぞと言わんばかりの量だ。汗が滴る良い男なんて言うけれど、そんなの迷惑なだけだ。少なくとも今は。
だからこそ、この一時の冷たさが至福の時に感じるのかもしれない。
シャリ、とした感触が旨味と潤いをくれる。
口の中に広がる、飽きのこないソーダ味。
「あぁ、やっぱうめぇ」
「そう?よかった。」
感動の声を漏らすと、花京院は返事をくれた。
俺が暑い暑いと言っていたら、いきなりコソコソとどっかに行き、しばらくしたらアイスを2本もって帰ってきた。コイツは本当に気が利くヤツだ。
元々、買ってきてもらおうとか、これっぽっちも考えていなかったから、まるで俺が無理やりいかせたみたいで少し尺にさわる部分もあるが、まぁこれはこれでいいだろう。
今日は学校が早く終わった。だからこうして真っ昼間から高校生が二人、公園のベンチでアイスを食っているわけだ。
エジプトから帰ってきて、早くも半年が経とうとしていた。月日が経つのは早いものだ。俺はそれを深く深く感じた。
花京院とは今も友達として仲良くしている。コイツは本当に良いヤツだ。誰にでって分け隔てなく接するこてができるし、誰にだって優しい。俺からしたらそれはなよなよした優男にすら見えるが、それはそれでコイツの良いところなんだろうと、勝手に自己解決させた。
真夏の太陽が、酷く目に痛い。
眩しくて、熱くて、視界がくらむ。
「ねぇ」
花京院が急に口を開いた。
「どうした?」
俺は視線だけを花京院に向ける。
花京院はどこか寂しそうな表情をしていた。
「僕ね、この前」
一つずつ単語を区切っていく。
ゆっくりと、ゆっくりと。
「告白されたんだ」
花京院の一言に、その場の空気が静まり返った。
相変わらず煩い、車が通行する音。
しつこいくらい蒸し暑い、気温と日の光。
蝉が忙しなく鳴く声。
これらは相変わらずうるさく煩わしいが、俺たちの二人の間は言葉もなかった。
「…そ、そうなのか。」
かける言葉が見つからず、とりあえず合図地は打った。なんなのだろう。この空気。いや、この気持ち。
花京院が告白されたくらいで、俺はどうして動揺しているんだ?別にいいじゃないか。コイツは誰にだって優しいから女子には一応人気はあるし、それに想いを寄せる人だって少なくないだろう。
「この前、一つ後輩の女子に…」
相手は後輩らしい。
「昼休み、なんか呼び出されて」
そうなのか…全く知らなかった。
胸の辺りがモヤモヤする。沸々と沸き上がるこの気持ちは一体なんなのだろうか。
花京院は、その女子に、なんと返事をしたのだろう。
断ったのだろうか。はたまたそうでないのか。
気になるが、聞く気にもなれない。
「僕ね…付き合おうと思うんだ。」
その言葉に、嘘偽りはなかった。声色からして。
このもやもやした、心臓の辺りにある意味不明の邪魔なものに、もしも意味があるとしたら。
これが、ある感情だったとしたら
俺は、もうコイツを友達として見ることが出来ないかもしれない。
俺の中の友情が、壊れてしまうかもしれない。
未だに辺りの騒音が消えない。
さっきから続く、胸の高鳴りも。
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季節感なくてすみません
20130106
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