仮面の下を知るのは | ナノ


(学パロ)




トラファルガーが淋しがり屋なのはよく知っている。



今日もアイツは一人で過ごす。誰かに声をかけられることもないし、自分から声をかけることもない。自分の席で本を読むか、または窓の外を眺めるか、ぼーっとしているかのどれかだろう。

あ、またアイツ、ぼーっとしてる。端から見ればその程度にしか見えないんだ。たとえそれが、アイツの心の寂しさを隠す行為だったとしても。赤の他人からすれば、それは想像できない事実であり、正直どうでもいい事実かもしれない。




移動教室の時、廊下からトラファルガーの教室を覗いてみた。覗いたと言っても一瞬だけ。チラっとしか見ていない。そしてその見えた先には、窓側席で窓の桟に肘をついて外を覗いているトラファルガーの姿。うん、暇そうだ。

しかし声をかけるわけにもいかなくて、残り数分で授業が始まりそうだから俺は急いで走っていくしかなかった。





いつもなら楽しいはずの体育の授業すらうんざり感じる。それはきっとさっきから俺がトラファルガーを心配してるせいなのだろう。







体育館を男女で二つに分け、バスケの試合が行われている。ちなみに俺は見学中。だって試合にでるのダルいし。

でも俺は一応バスケはできる方だから、嫌でも男子たちに引っ張られる。損で試合に参加する。こんなのいつものことだ。まぁ、別にバスケは嫌いじゃないからいいけど。





二つのチームが笛の合図で一斉に散らばった。そしてサーブボールが、高く舞い上がる。


ジャンプボールを取るのは俺の仕事。理由は簡単。デカイからだ。

ゼッケンをつけた俺たちのチームが上手くパスを回していき、スパスパとシュートを決めていく。面白いくらい得点は増えていき、試合終了時には俺たちのチームが圧倒的に点数を上回っていた。

ハイタッチや肩を組んで大はしゃぎする皆すら、俺の視界からは外れていた。













放課後を知らせる鐘が校舎に鳴り響いてる中、俺は目を覚ました。
場所は自分の机。いつの間に眠ってしまっていたのだろう。そういえば、HRが終わった後、ふと眠くなって机に突っ伏してたら、そのまま寝てしまったのだ。
ふと、目の前には見覚えのある男が。椅子に座って、こちらをじっと眺めてきた。

「おい…いつまで寝てる気だ…ユースタス屋」
「…お前いたのかよ。てか今何時?」
「6時半。」
「まじかよ、けっこう寝ちまったな。起こせばよかったじゃねえかよ」

少しの会話をしながら、俺は座ったまま伸びをした。大分、身体が固まっていたようだ。背中からパキパキと骨の鳴る音がする。


「ユースタス屋が気持ちよさそうに眠ってたから、つい…な?」
「意味分かんね…っておい、まさかっ…!」

あることが脳想像され、急いで自分の顔を触ってみる。特に異変はない。
鏡でもあれば見たいくらいだが、生憎持ち合わせていない。

俺が焦った様子を見て、ソイツはくつくつと笑った。誰にも見せることはないであろう、屈託のない自然な笑顔。性悪そうな、いたずらっ子の企み顔。


「安心しろよ。何もしてねぇからさ」
「本当かよ。だったら鏡貸せ」
「悪い、そんなもん持ってねぇわ。」
「だったらケータイで俺の顔、写真に撮れ。確認すっから」
「そんなことしなくてもいいだろ。だからなにもしてねぇって」

どんだけ心配性なんだお前は。笑いながら言葉をもらすソイツは、むかつくことに腹を抱えて笑っている。俺の心配性なところがそんなに面白いかよ。大体、俺は心配性なわけではない。コイツ相手だから心配しなくてはならないのだ。何を企んでるか分かんねーし嘘か本当か、真か偽か、全くもって判断できないからだ。
とりあえず、本人がかなり否定してるから、俺は何も悪戯されていないのだろう。そう思うことにした。


「んじゃ、そろそろ帰るか?」
「おう」

そのまま俺達は教室を後にした。俺達しかいなかった教室は非常にがらんとしている。








「…なぁ」
「ん?」
「お前ってさ…だれかと話したりしねぇの?」
「…は?」


隣でもぐもぐとガムを噛んでいる男は、俺より少し背が低いから丁度見上げる形になる。ソイツは俺の顔を見上げてきて、まるでその表情から『今の言葉の意味がわからない』という心境が伺えた気がした。
ずっと俺の顔を見つめてくるから、なんとなく顔を逸らしてしまった。いつものことだけど。


「お前さ、いっつも教室で1人じゃねぇかよ…誰とも話してるとこ見たことねぇし…いっつも本読んでるし…外見たりしてるし…。」
「へぇ…ユースタス屋って、俺のことストーカーしてたの?」
「はぁ!?…て、テメェなぁ…っ!」
「ハハハ!冗談だっつーの」

また腹抱えて笑ってやがるコイツ。おまけに涙まで滲ませて。コイツが笑いすぎて涙を溜めるのはいつものこと。しかし、俺と会話してる時だけ。
俺が心配してかけた言葉は、どうやらコイツには逆効果だったようだ。俺の気遣いが無駄になってしまったようだ。


「ユースタス屋…そんなに俺のこと見てたの?いつ?移動授業の時?それとも便所に行く時?それとも昼飯買いに行く時とか?」

どれもこれも当たっている…。反抗しようにも言葉が出ない。コイツの言う『どんな時か』が、全て当たっているからだ。返す言葉もないなんて割れながら情けない。それから格好悪い…。今、俺の顔はどんな表情なのだろう。焦った顔?不安そうな顔?

「何?ユースタス屋、図星なのか?」
「…あぁ。」

そうだよ。図星だっつーの。


「…ふーん。そうなのか。」

何を承知したんだコイツは?まぁ別になんでも良いんだけど。
足元にあった小さな石ころを蹴ると、俺の隣から、急に俺の前を歩きはじめた。足早にあるくから何かしたのかと思うと、ソイツは急に振り返った。
その表情はどこか嬉しそうな、切なそうな、そんな顔。口元が少し緩んでて、瞳もどこか優しい。いつもの悪戯な顔じゃない。
そうだ俺、コイツのこういう顔が好きなんだった。


「俺を心配してくれる、ユースタス屋」


一歩一歩、近づいて来てくる。俺は立ち止まった。


「心配症なのか、ストーカーまでしてくるし」


別にストーカーじゃねぇっつってんのに。


「挙句の果てに、友達はいるか?なんて言ってくるし」


改めて聞いてみると、すごく失礼な質問だったと思う。




「…俺のことが、そんなに心配?」
「…あぁ。悪いか?」


「いいや。全然…。」



どこか嬉しそうなソイツの表情に、俺の心が静かに脈を打ってるのが耳に聞こえてくる。
でもこの音が聞こえるのは俺だけ。コイツには聞こえないだけ、ある意味幸せかもしれない。

俺は今すごく、心臓がドクドクしている。トラファルガーの笑顔は狂気だった。俺にしか見せないその笑顔は、誰かに見せるのがもったいなかった。

まるで仮面をかぶった男。その素顔を知ってるのは俺だけ。






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20130227
サイト初キドロで…まさかの学パロって…。