俺は、アイツに何もかも見透かされているのだろうか。
俺達は出会ってからそんなに長く一緒にはいない。俺はアイツの知らないことはたくさんあるし、アイツにだって俺の知らないことがたくさんあるはずだ。
それなのにアイツは、俺のことを何でも知っているかのように振る舞う。振る舞うといっても、他人に俺のことをベラベラ話したりするわけではない。俺と会話するときに、なんかよくわからんが俺のことをなんでも知っているかのように話を進めていくんだ。
「承太郎だからね」
「承太郎だもんね。しょうがないよ」
「さすが承太郎。君ならそう言うと思ってたよ」
全部に俺の名前が出てくる。そしてあたかも、俺のことを把握しているような発言をするんだ。
どうでもいいし気にするまでもないと思っていたが、やはり段々気にはなっていった。
なんなんだ。コイツは。俺の何を知っているというのだ。俺は足元に転がる小石を力一杯に蹴った。
「おい」
夕日を背に、声をかけてみた。アイツは声に気づくと振り返り、爽やかな笑みを浮かべてこちらに振り向いた。
「なんだい?どうしたの?」
「お前に聞きたいことがある。」
「な、なんだい、突然…?」
ソイツは少し困ったような表情をしていた。
なんでお前が困ったような顔してんだよ。俺なんか、この間からお前の言葉に悩まされているというのに。
「お前…一体なんなんだ?何様なんだ?」
「な、なんのことだい…君は一体なんの話を…」
あーイライラする。なにを惚けてやがんだコイツ…今さら白々しい!!
俺は力一杯に拳を握りしめる。歯に力が入って、加えていた煙草がぐにゃっと曲がってしまったが、そんなことば今はどうでもいい。
「惚けんじゃねぇ!!てめぇ最近、妙なことばっかり言ってきやがって!こっちはイライラしてんだよ!!」
俺がデカイ声を出すと、アイツは驚いた表情をしていた。例えるなら鳩が豆鉄砲を食らったような、そんな顔。いや、目が点になる、も相応しいだろうか。
俺は間髪いれずにアイツに話しかけた。
「まるでてめぇは…俺のことをなんでも知ってるみてぇな、そんなことを言ってきやがる…」
「…え?」
「お前は、まるで俺のことをなんでも理解してるみたいなことを言ってきて…、まるで全部見透かされてるみてぇで…」
あぁもぅ意味がわからねぇ。なんと言ったらいいんだ?俺は何を言いたいんだ?俺は何を言えばいいんだ?
「…あぁ。もしかして、僕が言っていたこと?」
あぁ?なんだって?
「もしかして、迷惑だった?…ごめんね。」
そう言っていたアイツの表情はどこか寂しそうで。でもどこか嬉しそうでもあった。きっと自分の発言が俺に響いていたことに喜んでいるんだろう。冗談じゃねぇ。何考えてやがんだコイツは。
「たしかに僕は、なんでも君のことを知っているような、そんな発言をしたね。」
何を開き直っているんだコイツは。
「でもね、本当は君のことなんて全然知らない。いや、全くといって知らないね。出会ってから日も浅いしね。」
目の前のソイツは自分がした発言に対して淡々と説明を繰り広げている。
「だからね。僕、君のことを知りたいんだ。」
その発言を聞いて、俺の思考は停止した。身体が動かなくなったんだ。
今コイツは、なんと言ったんだ?
「僕、君のこと好きなんだ。だから、君のことを、よく知りたいんだ。」
目の前のソイツは、満面の笑みをこちらに向けた。ふざけたことを抜かしてやがると思ったが、その笑顔が全てをかっさらっていくようで。まるで全てを許してしまいような、そんな笑顔で。あまりに眩しい笑顔で、俺は思わず眩みそうになった。
「ということで、改めて自己紹介を。」
一歩、一歩と、ソイツは近づいて、歩みよってくる。軽い足取りで、どこか楽しそうに、愉快そうに。
「はじめまして。僕は花京院典明といいます。よろしくおねがいします。」
そう言って花京院は、深々と一例をした。出来れば俺は、そのまま顔を上げてほしくなかった。
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承太郎はきっとよくわかっていない。
そして私もよくわかっていない。
20121227
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