生クリームと友情 | ナノ








それは、とても甘ったるくて。
友達と呼ぶには少し甘すぎる関係で。




「ねぇミスタ」


シャーペンを手で回しながら相手に声をかける。一見、暇そうに見えて実はそうでもなかった。受験を控えている身であるトリッシュにとって、今まさに勉強に勤しまなくてはいかない時。しかし、そんな順調に勉強が進むわけがなく、今こうして呑気にペン回しなんかやっている。


その姿を見て呆れたミスたは、大きく息を吐いた。

「まったくよぉ…溜め息しか出ねぇぜ。呑気にペン回しなんかやりやがって、随分余裕なんですね。」


頭をガシガシと掻くと、バンッと机に突っ伏した。ミスたのノートや教科書が下敷き代わりに成っていた。



「ミスタこそ、さっきから全然勉強が進んでないじゃない?そっちこそ余裕で入試合格なんですか?」
「馬鹿野郎!!俺はお前のせいで勉強が進まねんだよ!!」


(お前が、まさか勉強教えてほしいなんて言うと思わなかったから…俺は今すごく緊張してんだよ…)


そのせいで勉強が進まないなんて言える訳がなく。
今、目の前にいるのは只今想いを寄せてる相手であって、同時に自分に勉強をせがむケツの青い女子中学生でもあった。

(どうして俺は…こんなガキんちょに恋なんてしてしまったんだろう…)



ピンクの髪の毛に胸元まで開けたシャツ。パンツが見えるか見えないかくらいの短いスカートが、今時の若者を象徴するものばかり。最近の中学生身なりが悪いったらありゃしない。ある意味不良なのか?トリッシュが不良?ナイナイ。




「…なによ、ジロジロ見ちゃってさ」
「べ、別に?」


いけないいけない。動揺しているのを勘付けられては困る。
中学生相手にろくに言葉も交わせない高校生なんて…なんて惨めなんだろうか。



「………ていうかよ。勉強きょう教えてほしいなら俺じゃなくてブチャラティにしろよ。」

ちょっと意地悪っぽく言ってみる。それもそうだ。勉強を教わりたいなら、どうせなら頭の良い大学生に聞くべきなはず。
(そして何よりも…アイツはブチャラティが…好きなんだろ…。)

どうして想い人のところにいかないんだよ。どうしてわざわざ俺のところに来るんだよ。ミスタは頭をガシガシと掻き、手元にあったパラパラと教科書を捲った。なにも頭に入らない。数字の羅列がまるで見たことない国の言葉のよう。全くわからない。いや、ただ単に俺が勉強が分からないだけかもしれない。俺が馬鹿なだけなのかもしれない。でも、今この状況で勉強が頭に入らないのは確かだ。


トリッシュの方を見ると、はぁとため息をついていた。

「な、なんだよ…」
「せっかくさ!可愛い可愛い中学生が、先輩に勉強教えてくださいって言ってるのに…」
「そういう問題じゃねーだろ……よりによって受験生に世話になりにくるお前もどうかしてるってことよ…」
「…でもさ、」


コトリ、とシャーペンを机に置いた。その姿を見ていると、トリッシュはいきなり俺の目の前に顔を近づけた。
ビックリして、俺も少し仰け反る。



「なんだかんだ言って、ミスタは優しいから。教えてくれるじゃない?」


ニコっとほほ笑むその姿に、俺の心臓はドクンと脈打つ。
こんなにドキドキさせられる俺も、一体どうかしている。たかが顔を近づけられただけなのに。
いや、それだけではない。それだけじゃないんだ。


『ミスタは優しいから』



そうか…俺って優しいのか。優しかったのか…。へぇ…知らなかった。そんなこと微塵にも思ったことないし、誰かにそうしようとも思ったことはない。誰かにそう言われたこともあまりなかった。

(へぇ…俺ってトリッシュには優しかったんだな…。へぇ…。)



「だからアタシ、そんなミスタが好きよ。」
「えっ!?」
「そんな優しいミスタが好きだから、わざわざ勉強教えてもらいにきたの」


好きって、そういう意味の好きじゃなくて。
そんなの、わかってる。自分でも、わかってるさ。でもな、少しくらい期待してしまってもよいのではないだろうか?

こんな俺が優しくて、そんな俺が好きだから、わざわざ俺のところにきてくれるだって?
俺は今、その言葉がどれだけ嬉しいことか。好きな人から、たとえ違う意味で好きと言われたとしても、それでも嬉しいではないか。


「ちょっとくらい…良いでしょ?」
「良いけどよ…。なんでブチャラティのところ行かねーんだよ?」
「だって…ブチャラティ人気じゃない?さっきだってクラスの女子たちが群がってたわよ…」
「…だからって俺のところくるのか」
「良いじゃない!」



本命のところに行けないから俺のところに来たってか…。なんだよそれ…。
まぁ、それはそれで嬉しいと思う自分もいるのだが。


良いじゃないか。結果オーライじゃないか。うん。
本命に直接アタック出来ないのは俺も同じじゃないか。

まぁ、いっか。うん。








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ミスタ可愛そう…
だけどそんな恋も好きかな〜
20130304