鈍感少年の朝 | ナノ





朝起きて、君の背中に見えた細い傷

それはたくさんあって

僕は最初、なにがなんだかわからなかった。







「…どうした?」

「あ…いや…ちょっとね…、」


特に気にもとめず、僕はそのままぼーっと眺めていた。

承太郎の背中の傷は、何度も何度も引っかかれたようで、赤くなり、無造作に痕がついていた。
最初は猫にでも引っ掻かれたのかとでも思ったが、そもそも承太郎は猫なんて飼っていないし、それ以前に動物すらかっていない。だから引っ掻かれるなんてそもそもありえない。
そもそも服の上から引っ掻いて、これほどに痕を残す動物なんているものだろうか?



「ねぇ承太郎、君って猫飼ってたっけ?」
「はぁ?…飼ってねぇけど」
「だ、だよね…」

分かってはいたけど一応訊いてみる。
しかし、やはり予想通りの回答だったわけで。
承太郎は不思議そうな顔をして僕の方をみている。頭上に?マークが浮かんでいるのが僕には見える。

(…じゃあ一体、なんなんだろう…?)


気にはなるけど、本人に直接きく勇気は無かった。
別に僕に心当たりはないけれど、それでもなんか訊くのが照れくさいというか、気が進まないというか…。
どうやって訊いたらいいのだろうか。


…考えてはみたものの、さっぱりわからない。
とりあえず僕は歯磨きをするため洗面台に向かおうと、ベッドから立ち上がった。
そういえば昨日は上半身裸のままで寝てしまった。いつもは上下着るんだけど、隣で寝てる承太郎が温かいものだから、半裸でもいいかと思ってそのまま寝てしまった。
別に寒くなかったし、風邪はひいていないから大丈夫だろう。


洗面台までくると、鏡に映っている自分を見つめる。
寝起きだから目は眠そうだ。寝ぐせも酷い。おまけにまぶたも腫れている。

(どうして瞼が腫れているんだっけ………………あ。)
















そうだ。昨日は…承太郎と…

久しぶりに承太郎の家に泊って、夕飯も頂いてしまって、それから部屋で2人で寝転がってたら、承太郎が…
承太郎が、「ひさしぶりにやりたい」っていって、がっついてきて、
僕はちょっと戸惑ったんだけど、それでも許可をして…、


あ、ぼく…そういえばたくさん泣いてたなぁ…。

というか泣かされてたなぁ。














(…だからこんなに、腫れてるのかなぁ?)



冷静に思いだしてはいたが、だんだん恥ずかしくなってきた。

鏡に映る自分の顔が、みるみる赤くなっていくのが分かる。
われながら不細工な顔だと思った。

(こんな顔で僕は泣いていたのかな…。だとしたらすっごく恥ずかしいぞ…)

今更後悔したって、もう見られたものだからしょうがない。

でも見せた相手は承太郎だったし、別にいいか。他の人だったら死ぬほど恥ずかしいかもしれないが。
いや、でも承太郎でもやっぱり恥ずかしいかもしれない。いややっぱ恥ずかしい。
そもそも他のだれかとあんなことするわけないから…あぁなんか頭がこんがらがってきた。もうどうでもいいや。



僕は歯磨きと洗顔を終えると、ベッドにもどってきた。

昨晩投げ捨てられた僕の衣類を見つけ、それを身につけていく。
Tシャツを着て、ジーンズを履いて、靴下を履こうと辺りを見回すがどこにもない。
仕方ないから裸足のまま、その部屋をあとにした。





朝のコーヒーをすすりながら、ふと自分の指を見た。最近切っていないからよく伸びてしまった爪。
思ったよりも長かった。




………………あ。





花京院は思わず赤面したのだった。








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僕の仕業じゃないか!
20121231