FF夢


 3-09






アイシクルロッジに戻ってからの生活は、平和そのものだった。


ダリアさんと朝までガールズトークをしたり、ロッジに住む子供たちと仲良くなって雪合戦したり、本場のスノーボードを体験したり、ザックスと雪山へ修行に行ったり。
美女の形をしたモンスター、スノウに見惚れていたザックスの後頭部にファイアを飛ばしたり、ささみとクジャのカップリング相手を探したり・・・

ささみもクジャも、新しくAランクのチョコボとつがいになれたようで、最近は2組のチョコボカップルが顔を見せに来ることも少なくない。
そのうち、待望の海チョコボが生まれてきてくれるであろう。

勿論、ゼイオの実をザックスに預けておいたのでその辺は抜かりない。

・・・やっぱり、平穏と言い切れるような生活ではなかったかもしれないが、少なくとも私にとっては心休まる毎日であった。


そんな日常が終わる時が、とうとう来てしまったようだ。





[ν]εγλ‐0007年 12月01日

これから落ち着くまでは、日記は書きません。
とりあえずミッドガルに着いて、身を隠すまでは。




アイシクルロッジを出る日の朝。
宿の前にはザックス、ささみ、クジャ。それからバイクに跨ったクラウドと私がいた。
クラウドは相変わらずうつろな目をしているが、この表情にも慣れてきてしまった。


「もう出発か・・・早かったな」
「あっという間だったねー」
「奈々、クラウドを任せたぞ。まぁ、俺が2ヶ月間ずーっと修行してやったから大丈夫だろうけどよ」
「あのトレーニング、絶対女の子向けじゃないよね」
「まぁな。俺からの愛の鞭だと思ってくれ!」
「わかってる、大丈夫だよ。クラウドは私が守る」

そう言い切るとザックスは、私の頭をポンポン、と軽く撫でた。

「今度はお前から連絡入れろよ?あんまり音信不通だったら俺から会いに行くからな」
「んじゃあザックスが来ないように連絡いれますよー」

ザックスは、これからクラウドの記憶が混乱する事を知っている。
その記憶が元に戻るまでは、クラウドの前には姿を現さないようにと伝えてある。
彼は私のいう事を全て理解してくれて、その上で頷いてくれたのだ。

クラウドは絶対に守って見せる、と心の中で唱えていると、ザックスがクラウドの元まで歩み寄り、自分の担いでいたバスターソードをクラウドに託した。


「なぁクラウド・・・俺の大切な剣、お前に貸してやるよ。お前、力弱えーからさ。デッカイ剣で奈々のこと、守ってやれよ。な?」
「ザックス・・・」
「その代わり、それ持って必ずここに来い!大事なんだからな。んで、俺に直接返せよ!・・・約束だ」

クラウドを見て優しく笑うザックスは、バスターソードを括り付けると立ち上がって私のすぐ前に立った。

餞別に、というわけではないがザックスに一台の携帯電話を手渡す。
私の名義で契約した、新しいものだ。
それに入っているのは、私と、ザックスの実家と、エアリスの番号。


「これ・・・」
「ザックスん家の番号。手紙を受け取った時に連絡先聞いておいたんだ。手紙の返事、まだしてないでしょ?」
「・・・ありがとうな、奈々。」
「ううん。携帯電話の契約にちょっと手間取っちゃって・・・渡すの遅れてごめんね。その携帯なら探知されることも無いし、電話してあげなよ。ご両親と、エアリスにも」
「おう! ありがとうな」

ニカッ、と笑ったザックス。この笑顔も、またしばらく見れなくなると思うと寂しい。
だが今更泣き言を言ってはいられない。

ザックスに向かって笑顔を見せたあと、ハッキリと言った。


「行ってきます」
「気をつけろよ」


それだけ言い交して、出発する。
バイクのバックミラーには、こちらを見るザックスと2匹の黒いチョコボが写っている。


彼らは姿が見えなくなるまで、その場を動かずに私たちを見送ってくれていた。

これから私とクラウドはミッドガルに向かい、FF7本編のストーリーを歩み始めなければならない。
ザックスの死という切欠が無い状態では、当然クラウドの自我も戻っていないが、本筋が始まるまでにはどうにかなってくれるだろうという、浅はかな希望を抱いている。

根拠も実績もない願望だが、私は妙な確信を持っている。
私が介入した事によって捻じ曲がったこの世界の物語は、元々のものへ直ろうとしている。
その力をうまく利用できれば良いのだが・・・そこはまぁ、なるように成れ、だ。

どうにもできないことは気にしない。
それは私がこの世界で学んだうちの一つだった。

自分の力が及ばない所を見たところで何も変わりはしない。
それだったら、自分の両腕が届く範囲をしっかり見つめよう。


半分、開き直りに近い心情だった。

とにかく、これからできる限り動かなければ。
私にできることを、精一杯やらなければいけない。






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