2-06
広がる赤い大地。
夕陽に照らされる渓谷。
「あれは・・・」
「コスモキャニオン。ここならあまり神羅は来ないと思う。大切な星命学の学者さん達が沢山いる上に、ここでは神羅は嫌われ者だからね」
「へぇ・・・」
ニブルヘイムを出発してから一週間。
やっとの思いで私たちはコスモキャニオンにたどり着いた。と言っても、まだ集落前の岩場に身を隠している状態だ。
一週間前、ニブルエリアから必死に逃げだした私たち。
夜に歩を進め、日中は物陰に身を隠しひたすら闇を待つ。そして闇が私たちの姿を覆い隠す頃に再び進み始め・・・と、それでここまで進んで来た。
まぁ、歩みを進めると言ってもチョコボと一緒なのでさほど苦労はしなかったが。
兎に角、見つからないのが最優先事項であり、幸いにも時間は沢山ある。ザックスにそれを説明し、慎重に歩んできたのだ。
「それにしても・・・」
「ん?」
「本当に知ってるんだな、ここの事。知識も予想も全部ドンピシャだぞ」
「えへへ、それだけが長所だったしね!」
「んじゃあ今度、大穴チョコボ当てて見せてくれよ!」
「チョコボ頭のチョコボレーサーだって!」
「それこないだも言ってたよな」
私たちのチョコボは、というと
街中まで山川チョコボを2羽連れていると目立ってしまうため、移動の時以外は別の場所にいてもらっている。
2羽ともしっかり自立しているので、今のところ問題ないようだ。
今も、足場の悪い岩山を自力で登っているためスピードが遅い。
ザックスは片手でクラウドを背負い直し、岩場をどんどん登って行く。そしてもう片方の手で私の腕を引いてくれていた。
そのおかげか、遂に私達は集落の入口までたどり着く事が出来た。
「はぁー・・・もうちょっと身体鍛えておけばよかった・・・」
「女の子にしちゃあ、良く鍛えてあると思うぞ?」
「でもやっぱ、ベヒーモスくらい1人で倒せるようになりたいじゃん」
「そんな女の子は俺が許しません。・・・まぁでも、強くなりたいなら本格的に見てやるよ」
クラウドを地面に下ろして岩に凭れさせ、ザックスが笑いながらそう言った。
今まで何度か、アドバイスを貰いながらのトレーニングはあったが、本格的なものではなかった。
ジェノバ細胞や魔晄のおかげで身体能力が著しく上がってるとはいえ、基礎となる戦闘テクニックなどは彼自身が身に付けたものだ。
きっと部下や後輩にも、沢山教えていたのだろう。
「じゃ、じゃあ、ベヒーモスは諦めるから・・・目標はモルボルで!」
「・・・んー、まぁ、よし、俺が面倒みてやる!」
「きゃーありがとう師匠!!だいすきー!!」
「よーしよし弟子よ。抱きつくのは良いけど集落の人が変な目で見てるぞー。」
「え!?あ、ほんとだ。すみませーん!コスモキャニオンの方ですかー?」
階段を上った先にいた、門兵のような人に声をかけてから入り口前まで駆けて行くと、見張りの人は微妙な顔をして私たちを迎え入れてくれた。
「ようこそ、コスモキャニオンへ」
「こんにちは!あの、私たちニブルヘイムから来たんです。しばらく宿をお借りできませんか?」
「宿ですか・・・」
「連れの1人が病を患わってしまって・・・少し休みを取らせてあげたいんです!」
(魔晄中毒も立派な病気だし、嘘は言ってないよね)
内心舌を出しながら事情を説明するわたしは、言うなればいけしゃあしゃあ。
ザックスが見張りさんの死角になる角度で苦笑いをしている。
すると、ぐったりとザックスに凭れかかっているクラウドに目を向けた見張りさんが、顔色を変えて私たちを集落の中へと招き入れてくれた。
「そういう事でしたらどうぞお立ち寄りください」
「ありがとうございます!あの、後でご挨拶に伺おうと思っているんですけど、ブーゲンハーゲン様はどちらにいらっしゃいますか?」
「ああ、ブーゲンハーゲン様を御存知でしたか。きっとご自宅にいらっしゃると思いますよ。そこの洞穴をずっと上に登って行った所です。宿は向こうの梯子を上った先です」
「わかりました、重ね重ねすみません」
「いえ、貴方方に星の御加護があらんことを」
見張りさんは持っていた棒の先をコツンと一回地面にぶつけると、コスモキャンドルの方へと小さく礼をした。
これがコスモキャニオン流の祈り方、なんだろうか。
しかし、星のエネルギーであるライフストリームに侵された彼に対して"星の加護"とは、何とも皮肉なものだと思ってしまう私はひねくれているのだろう。
私たちは温かなキャンドルの光に吸い寄せられるかのように集落内へ入った。
とりあえず、クラウドを宿内のベッドに寝かせてから私は単独でブーゲンハーゲン様の元へと向かった。
ザックスはやっと安心して眠れる場所についたからか、倒れこむようにベッドに沈んでしまった。
まぁ、ここまでクラウドを背負って殆どの敵をほぼ1人で倒しきっていたし、休憩をとる時も、神羅兵を警戒していて全く眠れなかったようだ。
私も睡眠時間に関しては似たようなものだが、ザックスという大きな存在が傍にいてくれて、尚且つ戦闘でもほとんど役に立っていない。
しかも足場の悪い場所ではザックスに引き摺ってもらっていたのだ。彼の負担が大きいのは当たり前だ。
「その分、こういうところでしっかり役にたたなきゃ」
改めてそう胸に刻んでから、ブーゲンハーゲン宅の扉を叩いた。
***
ザックスside
「ん・・・・・・」
ぼんやり、蝋燭の優しい光が眼に映って、ゆっくり意識が覚醒していく。
俺はすぐにクラウドの事を思い出し、焦って辺りを見回す。
そこは岩の洞窟をけずって作ったような部屋で、クラウドは隣のベッドに横たわっている。
ああ・・・思い出した。俺たちはコスモキャニオンにたどり着いたんだ。ほう、と一息つくとベッドから起き上がって伸びをした。
あの子が、ここまで俺たちを連れてきてくれたんだ。
当の本人は、クラウドのむこう側にあるベッドで規則正しい寝息を立てていた。
何の関係も無いのに俺たちを必死に匿ってくれている女の子。少女というには大人っぽく、女性と言うには少々幼さが目立つ。
そんな不思議な雰囲気・・・少しエアリスと似ているからだろうか、疑う気にもならなかった。
「これで神羅の回しモンとかだったら、どうすんだよ俺」
万が一そうなっても、俺は彼女を除けて自分の目的を果たすなど出来ないだろう。
知り合って間も無いのにクラウドと同等程に、彼女の事も守りたいと思っている。
「こんな間抜けな寝顔で寝てる奴が・・・絶対ありえないって」
誰に言うわけでもなく、そう呟いて一人で笑う。
奈々は気持ちよさそうに目を閉じて枕に抱きついている。口元は半開きで涎までたれて・・・誰がこんな子を疑えようか。
自分のベッドに再び座り、腕の中に顔をうずめて目を閉じる。一週間前・・・ニブルヘイムでの事が瞼の裏に浮かんでは消えた。
カプセルの中に閉じ込められて、いざ逃げ出そうとした時もあの子がキーを奪って俺らを出してくれた。
神羅屋敷から出る時も、的確な道案内があったからこそ、あんなにも静かに抜け出す事が出来た。
約一週間の道のりで、食糧や物資が尽きなかったのだって、奈々が事前にしっかり非常用の準備をしていたからだ。
ここまで来て、安心して眠る事が出来るのも・・・ミッドガルに戻ろうとする俺を、必死に引き止めてくれたのも・・・俺の手が回らない時にクラウドの世話が滞らなかったのも・・・
全部、あの子のおかげだ。
目を開いて立ちあがると、奈々の眠っているベッドへ近づいてこちらに腰を下ろす。
ベッドの揺れで目が覚めてしまったのか、奈々がもぞもぞと動き出す。
「むー・・・」
「起きちゃったか?ごめんな。」
「ざっくす・・・ごめんね」
「ん?」
目を閉じたまま俺に謝る奈々の頭を撫でながら、彼女の次の言葉を待つ。
「私がもっと強くて・・・頼りになれば、ザックスがこんなに、疲れないですんだのに・・・」
「何言ってんだよ。守るのは、俺の仕事だろ?」
「私も、ね・・・2人を守りたいの・・・・・・」
「・・・そっか」
頭を撫でられる事が心地いいのか、再び夢の世界へ落ちた奈々。
さっきまであんなに悩んでいた事が、嘘のように消え失せる。
彼女は懸命に、俺たちを助け出す事だけを考えている。
神羅の回し者なんて、愚問以外の何物でもなかったようだ。
この小さな背中にどれだけ大きいものを背負い、細い腕でどれだけのものを守ろうとしているのか。
俺には予想もつかないほど大きなものかもしれない。そのせいで、この子は無茶をするかもしれない。
もっと強くなるべきなのは俺だ。
彼女が困った時、助けが欲しい時、すぐに助け出してあげられるように・・・
俺の一生をかけて恩返しをしよう、そう思った。
「クラウド、お前もちゃんと元気になって、奈々を笑顔にしてやれよ。んで、あの子をしっかり守る!お前ならできるよ」
安らかに眠る2人を後に、ブーゲンハーゲンとやらに挨拶しに行くため、梯子を下り始めた。
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