FF夢


 9-08



ヴィンセントと共にクラウドの救出に向かった私は、窮地に陥ったクラウドを連れ去るヴィンセントの姿をただぼうっと見ている事しかできなかった。だって、あのアドベントチルドレンのシーンが目の前でそのまま再生されているのだから。

「クーちゃん…すごいド迫力だったよ…クラウド、よくあの三人組相手に一人で戦ってたよね…」
「クェ?」
「こんなのアドベントチルドレンVRじゃん…FF7ACCVRじゃん…やばっ…」

興奮のあまりバクバクと脈動する胸を押さえ、私はひそひそとクーちゃんに語り掛ける。クーちゃんは私の意味不明な言葉にも愛想よく「クエェ」と鳴き返してくれた。
ヴィンセントがクラウドを連れて行ってくれたことだし、私もさっさと離脱せねば。そう思った私はクーちゃんと共に踵を返そうかと思ったが、少し離れた場所で子供たちと共に引き返して行くカダージュたちの中にマリンがいるのに気付いた。
おかしい、マリンはこの混乱に乗じてうまく逃げているはずだというのに。クラウドが撤退した今、マリンが彼らの元から逃げ出す手段は無いに等しいのではないだろうか。

そして、私のこめかみから冷や汗が一筋流れる。
これって…私が助けに行かないと、マリンが危ないのでは。

本心を言うのならば、カダージュに追い掛け回された時の嫌な記憶が蘇って来るので一刻も早くこの場から逃げ出したい。しかしマリンを置いてはいけない。
三人の不意を突かねば、私に勝機は無い。私はカダージュから鬼のような追跡をされた時の嫌な記憶に心を揺さぶられながらも、マリンを見据えて魔法を唱えた。

「まずはマリンに…リフレク!」

マリンの体の周りに緑色のシールドが浮かび上がったのを確認してから、私はありったけの魔力を込めてマリンを捕らえているロッズ目掛けてファイガを放った。とてつもない爆炎がロッズを襲うが、その炎がマリンに襲い掛かることは無い。少し驚かせてはしまうかもしれないが、奇襲攻撃以外に勝機は無いので許してほしいところだ。

混乱に乗じて煙の中に飛び込み、マリンを抱き上げてクーちゃんの背中に乗せる。

「クーちゃん頼んだ! クラウドたちの居る方まで送ってってあげて!」
「クェッ!」

マリンを乗せたクーちゃんはすぐに踵を返し、森の中へと消えていく。私は自身にヘイストをかけ、態とカダージュたちに姿を見せつけるように忘らるる都の中へと向かった。
身体能力からして彼らに追いつかれるのは時間の問題だろうが、私には一つだけアイデアがあった。

今の私はマテリアを持たずして魔法を使うことができるのだが、条件として今まで一度でも使ったことのある魔法に限定される。使ったことのない魔法は、一度で良いのでマテリアを介して詠唱しなければならない。
そして、私が今までに一度も使ったことのない魔法はいくつか存在する。その中の一つは、ロッズの手によってこの忘らるる都にマテリアが運び込まれているはずなのだ。

背後から迫り来る気配を感じながら、私は水の祭壇まで最短距離で向かう。途中でモンスターが出現しなかったのが幸いだった。
黒く染め上げられた泉の近くに捨て置かれた、茶色の大きな箱。…そう、クラウドが教会に置いていた、マテリアが山ほど入ったあの箱だ。開けっ放しになっていたその箱の中を両手で漁り、目当てのマテリアを探る。
そして、探していた魔法マテリアを握りしめた瞬間に一発の銃弾が私の髪を掠めていった。

「追跡スピード早すぎない!?」

急いで水の祭壇に繋がる巻貝の家の陰に隠れ、次々と放たれる銃弾をやり過ごす。
右手に握られた目当てのマテリアと、左手で無意識のうちに掴んでいたマテリア。赤く光るそれは、偶然にも召喚マテリアだ。
カダージュたちに距離を詰められる前に、私はそのマテリアに魔力を込めた。

「ええーい! 何の召喚マテリアか分からないけど…やったれー!」

マテリアから召喚陣が広がり、そしてどこからか現れたのは「クェッ!」と鳴き声を上げる可愛らしい金色のチョコボと白くてふわふわのモーグリだった。私はどうしてこう、チョコボ運があるのだろうか。
背にモーグリを乗せたチョコボは勢いよくカダージュたちに突進し、そして土煙を上げながら激突した。コミカルな動きでカダージュたちの足を止めたチョコボとモーグリは己の仕事を全うした、と言わんばかりに姿を消す。はず、なのだが。

「クェッ! クェーッ!」
「何で呼び出されたチョコボがクーちゃんなんですかねえ!」

どこかへ飛び去って行ったのはモーグリだけで、金色のチョコボ…クーちゃんはその場に残って私へとドヤ顔を向けている。おかしい、チョコボ&モーグリのマテリアって手持ちのチョコボを呼び出すマテリアだったっけ?

「てか、マリンは!?」
「クェ?」
「ヤバイ、早く離脱して探しに行かなくちゃ!」

クーちゃんに任せていたはずのマリンの行方が心配だ。一刻も早く戦闘から離脱して、彼女を探しに行かなくては。カダージュたちの手から逃れたとしても、どこでモンスターと遭遇するかわからない。
私はこの状況にピッタリの魔法マテリア「りだつ」のマテリアに魔力を込めた。

「母さんはどこに居る…!」
「残念だけど、教えてあげないよ」
「クェー」

憎悪の念がこもった視線を向けられるが、彼らに手間取ってクラウドとの再会を逃すような真似をするわけにはいかない。

「エスケプ!」

天高く手を挙げ、魔法を発動させる。ゲームにおいてイベントバトルでは使うことのできない魔法だが、実際のこの世界で戦闘にイベントもクソもないはずだ。私の読み通り、魔法は無事に発動して私とクーちゃんの体がふわりと宙に浮かんだ。
「やった」と思ったのも束の間。私の体はどんどん上昇して行き、やがて白い木の森を一望できるほどの高度に達した瞬間に勢い良くどこかへと吹き飛ばされたのだ。

「ぎゃあああ! エスケプってそういうシステムなのーっ!?」
「クエェー!」

上下感覚が分からなくなるくらい空中で転がされた私は打つ手も無く、ただひたすらに浮遊感に耐えるしか無かった。やがて体が徐々に下降しはじめ、落下の勢いが徐々に増して行っていることに気が付いた。あれ、これ、ヤバいんじゃない?

「お…落ちっ…ひゃああああ〜っ! エアロ! エアロ! エアローッ!」

何とか身を捻り、お決まりとなったエアロで体勢を整える。クーちゃんは羽をバタつかせて上手く風に乗っているようだが、私にそんな芸当はできない。
落下のスピードを殺すだけで精一杯だった私は、そこそこの勢いで地面に尻餅をつき「あだだ…」とうめき声を漏らした。

「なんなの、エスケプ使ってみたら…ただのぶっ飛びカードじゃん…」
「奈々…」

打ち付けたお尻をさすっていると、頭上からは私が世界で一番好きな声が響いた。まさかと思って顔を上げれば、そこには黒い衣服に身を包んだクラウドが唖然とした表情で私を見下ろしていた。
ずっと会いたかったクラウドとの再会に、私は地面から飛び上がるくらいの勢いで立ち上がる。
クラウドの隣にはマリンが居て、その後ろにはヴィンセントが立っている。誰にどう言葉を掛けようかと悩む暇もなく、私の口から出たのは「く、く…クラウド! うわーっ、クラウド! クラウドだー!」という、なんとも思考能力の感じられない名前の連呼だった。
私は衝動のままにクラウドに抱き着き、働かない頭で「会いたかった!」と告げる。本当に会いたかった、会えて嬉しい。アドベントチルドレンの物憂げなクラウドだ。と大興奮の私に、クラウドは「奈々、本当にお前なのか」と問いかけてきた。
私は大きく頷きながら「私です!」と応える。二年間もクラウドを一人にしてしまい、その間ずっと心配をかけていたことだろう。

クラウドは私のことをジッと見つめ、そして薄く笑いながら「奈々」と私の名前を呼んだ。

「うん?」
「俺も、会いたかった」

柔らかい表情のクラウドから放たれたその一言は、私の胸を打ち抜くには十分すぎる威力があった。心臓を握りつぶされたかと思うほどの息苦しさを感じた私は、顔を覆って「ヒャア…」とか細い叫び声を上げることしかできなかった。

「奈々、だいじょうぶ?」
「マリン…アッ、ハイ、ダイジョウブ…あ、怪我してない? ここまでよく頑張ったね」
「うん、奈々が助けてくれたから! でも、デンゼルとティファが…」

心配そうな顔で俯くマリン。すかさずクラウドが「ティファは無事だ」と教えてやれば、マリンは「ティファと話したい!」とクラウドにせがむ。
私が記憶している通り、クラウドは携帯電話を取り出そうと全てのポケットを探るが、逃げる最中に泉の中へと落としてしまった携帯電話が出てくることは無かった。
クラウドが携帯電話を無くしてしまったのだと察したマリンは、ヴィンセントの方を見て「持ってる?」と聞くが、そもそもヴィンセントは誰かと定期的に連絡を取ることも無い人物だ。所持していないことを表すために無言でマントを広げて見せるヴィンセントに、マリンからは鋭く尖ったナイフのような「信じられない」という一言が投げられた。

「ヴィンセント、奈々、マリンを店まで送ってくれないか。俺は神羅の連中に話を聞いてくる」
「…賛成しかねる」
「私は反対、大反対! ようやく会えたのに、またバラバラに行動しなきゃダメ?」

クラウドは何かに怯えているかのような目で私を見つめ、そして小さい声で「でも」と言う。その瞬間にクラウドに異を唱えたのはマリンだった。

「クラウド、どうしていつも私たちの話を聞いてくれないの?」
「マリン…」

泣きそうな顔をしたマリンはパタパタとヴィンセントの方まで走り、そして彼のマントの中に身を潜めた。か…かわいい…とってもかわいい…
つい頬が緩みそうになるのを必死に耐えながら、私は真剣な顔を何とかキープした。
クラウドがこうして行動を起こすことを怖がるようになってしまった原因は、自惚れでなければ私が姿を消したことである。ルーファウスの口ぶりからしてクラウドはかなりショックを受けていたようだったし、どうやって彼の不安を取り除けばいいのだろう…と、私は頭を抱えた。
クラウドはなんとかマリンのことを説き伏せようと説得を試みるも、マリンに「わかりません!」と一蹴されたことで言葉を失う。

「クラウド、これは戦いの話か?」

ヴィンセントのその問いかけにも答えられず、黙り込んでしまったクラウド。ヴィンセントは深いため息を吐き、そしてこう告げた。

「奈々、クラウドと話してこい」
「へ?」
「時間をやると言っている」

突然のヴィンセントの発言に驚いた私だったが、彼のマントの中からマリンの「奈々はね、ティファの次にクラウドの”けつ”を叩くのがうめえんだって、とうちゃん言ってたよ」というヒソヒソ声が聞こえてきた。大変だ、バレットの言葉遣いがマリンに移ってしまっている。
クラウドがふさぎ込んだ元凶である私が責任を持って彼の闘志に火を着けてこい、とヴィンセントは言いたいのだろう。私はヴィンセントに頷いてから、クラウドを引っ張って少し離れた場所へと移動した。


「で、クラウドはいつからそんなに怖がりになっちゃったの?」
「…知ってるだろ。俺はザックスみたいに勇敢な人間じゃない」

視線を斜め下に落としながら、どこかいじけた様に言うクラウド。なんだか、甘えられているような気になってしまって母性本能が擽られる。

「そりゃザックスと比べたら、誰だってそうだよ。ねぇクラウド、私のことを見て」

そう声を掛ければ、クラウドは視線を彷徨わせながらも私の目を見た。母親に怒られている子供のような表情をしたクラウドに、申し訳ないが笑みが漏れてしまう。

「クラウド、ずっと心配かけてごめんね。約束したのに、守れなかった」
「いや…違う、奈々に謝ってほしいんじゃないんだ。悪いのは俺だ」
「ううん、クラウドは何も悪くないよ。だから、自分を責めないで」

クラウドの手を握りながらそう告げれば、クラウドはグッと歯を噛み締めて何かに耐えるような表情をした。そして、あっという間に私の体がクラウドの腕の中に収納されてしまったのだ。
力いっぱいに抱きしめられるのはこれが初めてではないが、何度経験しても慣れない。火が付いたように熱くなっていく顔を見られまいと、クラウドの着ているニットに顔を埋めた。

「ずっと、自分を追い詰めてたんでしょ? 私がクラウドのこと、悪く思うはず無いのに」
「…うん」
「ごめんねクラウド。ずっと会いたかったよ。今度こそ、もう居なくならないから」
「本当か?」
「信じてもらえないかもしれないけど…今度はホント」

ベリルウェポンにはガン切れくらいの勢いで「もう二度と呼ぶな」と言ってあるし、捨て身で戦うことはもうしないと決めているし、きっと今度こそは彼との約束を果たせる筈だ。
羞恥心に耐えながらもクラウドを見上げれば、泣きそうに歪んだ青い瞳が縋りつくように私の事を見下ろしていた。

「お…恐ろしく顔が良い…」
「奈々は変わらないな」
「私は変わらないよ。クラウドのこと、死ぬまで好きでいると思う」

元々好きだったが、この世界に来てクラウドと出会ってからその気持ちは膨らみ続け、留まることを知らないくらいなのだ。今更この気持ちが変わることは、多分、無い。
クラウドはようやく安心したように微笑み、囁くような声で「…俺もだ」と言った。相変わらず自分の言葉で気持ちを伝えるのは苦手らしく、そんな所も可愛く思えてしまう。

「この戦いが終わってから、ちゃんと色々話すね」
「ああ、待ってる」
「その、星痕、大丈夫? 今は痛くない?」
「奈々に会えたからかな、痛くない」

本当に嬉しそうに言うクラウドに、私が平静を保てるはずもなく。叫んで五体投地したい気持ちを押さえつけ「ヴッ」という小さなうめき声を上げるだけに留めた私は本当にえらい。
本音を言えばこのまま永遠にこうしてイチャついていたい気持ちでいっぱいなのだが、私の中に僅かに残った理性が「はよエッジ向かえ」と急き立てる。分かってる、今すぐ出発するべきだというのは分かってる。頭ではね。
緩んだクラウドの腕から抜け出し、私はこの後の話を持ち掛けた。

「エッジに戻ったら、さっきの三人組との戦いになると思う」
「ああ…ヴィンセントから聞いた。リユニオンをするのが奴らの目的なんだろう」
「うん。そのリユニオンを防げるかどうかは分からないけど、とにかくデンゼルや、マリンや、街の人たちを守らなきゃ」
「デンゼルを知っているのか」

キョトンとした顔でそう問いかけて来るクラウドに、私は「そういえば言って無かったなぁ」とデンゼルとの出会いを端的に説明する。メテオ騒ぎの時に避難を手伝ったのだと告げればクラウドは「本当に…お前は知り合いが多いな」と笑ってくれた。ああ可愛い。

「デンゼルとね、約束したの。星痕の治療方法を見つけて持ち帰るって」
「…あれは、奈々のことだったのか」
「え?」
「デンゼルがティファに言っていたらしいんだ。『治療法を知っている友人が、それを探してきてくれると約束したから、それまで頑張るんだ』と」

デンゼルが私の言葉を支えにしていてくれたと知り、私は胸の内が暖かくなるのを感じた。
そして、肝心の治療法についてなのだが、こればかりは私にもどうなるか分からない。
エアリスが何らかの手がかりを握っていてくれれば良いのだが…という希望的観測しか無いのだ。

「そっか…あのね、治療法、多分だけど…この戦いが終わる頃には見つかると思う」
「奈々が言うなら、きっと大丈夫だろうな」
「うん。それに、みんなも一緒に戦ってくれるから。だから、クラウド、安心して」
「今度は手分けなんかしないからな」
「あは…そうだね、一緒に戦お」

メテオ騒ぎの時はどうしても時間と人手が足りずに別行動をしたが、今回はその必要もない。流石に神羅ビル跡地でのカダージュやセフィロスとの戦いはクラウドに一任することにはなるだろうが、それまでの戦いであれば共に居ることは出来るはずだ。
…私が全力を出し尽くして、自身のフィジカルの限界突破をすることができれば、だが。

そろそろ行かねば、マリンとヴィンセントが待ちくたびれている頃だろう。クラウドに「じゃあ行こうか」と声を掛けて踵を返せば、顔の両側からクラウドの腕がにゅっと伸びてくるのが見えた。
黒い手袋を嵌めた腕は私の前で交差され、背中一面にクラウドの体温が伝わって来る。

こ、これは、あの、例の、あ、ああああすなろ抱きというものではないだろうか。

激しく動揺した私は全身から汗がドッと噴き出してくるのを感じた。頭の中は真っ白で、もう大混乱スマッシュブラザーズ状態だ。何を言っているんだ私は。
右耳の近くで「奈々」とクラウドが私の名を呼ぶ声がする。まずいです! あーっ! 耳元にダイレクト櫻井はいけません! 脳細胞が破壊される!
クラウドはそれだけでは飽き足らず、よく懐いた猫のように私の肩に頭を擦り付ける。どこでそんな事を覚えたのだろうか。正直、カダージュに追いかけられた時よりも動悸息切れが激しい。

そろそろ叫び出しそうになってきたころ、私はようやくクラウドの拘束から解き放たれた。
このまま屍になるのではないかというくらい消耗しきった私に、クラウドは「悪いが、二年分を埋め合わせるとなるとこの程度では足りない」と何食わぬ顔で言った。

「はひ」
「残りは追々だな」
「よ…喜んで…」

多分、今ならばセルフでコンフュ状態になれる。そんな気がする。いや、バーサク状態かも。インフルエンザに罹った時よりも顔が熱い。
どきどき、なんて生易しいものではなく「ドコドコドコ」と胸の内側から小さいゴリラがドラミングをして来ているかのような鼓動のせいで息が苦しい。やばい、状態異常どころかこのまま死にそう。

手足を動かすことすら儘ならないほどのパニック状態に陥った私を引き摺り、ヴィンセントとマリン、クーちゃんの元へと戻るクラウド。さっきまであんなに焦燥していたというのに、彼のこの立ち直りの速さは何なのだろうか。
地面に座ったヴィンセントの足の間にちょこんと座ったマリンがこちらを見て「あ、クラウド! 奈々!」と私たちの名前を呼ぶ。
ヴィンセントに「お、お待たせしました」と言えば、彼は私の顔をジッと見た後に「フッ」と明らかなる嘲笑を浮かべた。全部お見通しということだろうか、ちくしょう。

「マリン、一緒に帰るぞ。奈々もだ」
「うん!」
「ヴィンセント、世話を掛けたな。また後で連絡する」

立ち止まることなくマリンの手を引いて帰ろうとするクラウドは、きっと素で「連絡する」と言ったのだろう。自分もヴィンセントも携帯電話を所持していないというのに。
私はクーちゃんの名前を呼び、一歩先を行くクラウドとマリンの事を追いかけた。

暗かった空は既に白んで来ており、もうすぐ夜明けが訪れるのだということを告げている。
日が昇る頃にはエッジでの戦いが幕を開けることだろう。シャドウクリーパーとバハムート震相手に自分がどれだけ戦えるか、全力を尽くしてやろうじゃないか。


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