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楽しかったクリスマス休暇も終わり、ホグワーツでは新学期が始まっていた。

休みの間に乱れた生活リズムに苦しむ者、未だクリスマス気分が抜けずに注意を受ける者。
それぞれ苦労しているが、やはり学友との生活は楽しいもので、皆生き生きとした表情で毎日を送っていた。


そんな中、カノンは珍しく授業以外でハーマイオニーと会い、空き部屋を陣取り会話をしていた。


「・・・それで、私マクゴナガル先生にお話ししたのよ! だって、もしハリーに何かあったら・・・あってからじゃあ遅いもの!そうでしょ?」
「うん、そうだね」

カノンの前には怒り狂った様子のハーマイオニーが、今にも立ちあがりそうな勢いでクリスマスの日の出来事を捲し立てていた。

なんでも、ハリーの元に差出人不明のプレゼントが届いて、それがあの有名なファイア・ボルトだったそうだ。
ハリーとロンはもちろん有頂天になったが、ハーマイオニーはその不審さに気付き、マクゴナガルに報告をしたところ、箒は没収。

検査をして、何も無ければ戻って来るそうだ。


「でも、その事をあの人たちは"気が狂ってる"とか"鬼のようだ"って言うのよ! もっと酷い言い方で! 私はハリーの事が心配なのに!」

ハーマイオニーには悪意などひとかけらも無い。

だがその善意が、多くのグリフィンドール生から批判されてしまっている。
確かに、世界最高峰の箒を手に入れればクィディッチの試合では大活躍だろう。
だが、親友を悲しませてまで欲しい名声なのだろうか。カノンは不思議に思い、ハリーの事を思い浮かべていた。


「そっか、大変だったね。私はハーマイオニーの意見に賛成だよ。スリザリン生としての意見を抜いてもね」
「でも皆、私に嫌な顔をするのよ! ハリーもロンも、クィディッチチームの皆も」
「皆、事の重大さが分かっていないのかな。私がハーマイオニーの立場であってもそうするよ」
「カノン・・・・・・」

とうとう、ハーマイオニーの瞳からぽろり、と涙がこぼれ落ち、彼女はその場でわんわん泣きだしてしまった。
カノンはただ、彼女の真面目さに疑問符を浮かべていた。

――何故後先考えずに、友の為に行動できるのか。
――自分が悪者になってまで守る価値のある友とは思えないのに。
――そんな友ならば、見捨ててさっさと別のグループを作れば良いのに。

そんな思いがぐるぐると頭を回るが、カノンは全てを押し込みハーマイオニーの背を撫でていた。


いつまでそうしていただろうか、どうにかおさまったハーマイオニーは、恥ずかしそうな顔でカノンに礼を述べた。
そして彼女が誘うままに、夕食の宴へと向かった。











「あれ、あそこにいるのってハリーとロンじゃない?」
「・・・・・・そうね」

大広間に向かう途中、カノンは噂の2人を見つけた。
ハーマイオニーは2人に声を掛けないまま、彼らの後ろを歩いている。

すると、ハーマイオニーがいきなりその場にしゃがみ込んで「チッ」と大きな舌打ちをした。
ぼーっと2人の後頭部を眺めていたカノンにはその舌打ちの理由は分からなかったが、どうやらハーマイオニーはハリーとロンの話の内容にいらついたらしい。

「おい、何で舌打ちなんかするんだよ!」
「別に、貴方には関係ないでしょ」
「大ありさ! また何か企んでるのか!?」

途端にハーマイオニーに牙を剥くロン。

だがハーマイオニーは反論することなく、そのまま1人で大広間に行ってしまった。
取り残されたカノンは、ふぅ、とため息をつくとハリーとロンに向き直った。


「あのさ、いきなり舌打ちされて腹が立つのはわかるけど、女の子に対してそこまで攻撃的な言い方はないんじゃないの?」
「君はわかってないんだよ、あいつが何をしたのか!」

ロンはかなりハーマイオニーにご立腹らしい。
だが驚く事に、ハリーさえも同じ意見らしく、ロンの言葉に頷いていた。

「それって例の箒の事?」
「そうさ! 知ってるんなら君だってわかるだろ?」
「わからないね。その箒って、友達よりも大切な物なの? クィディッチの優勝杯って、親友の女の子を悲しませてまで取らなきゃいけないもの?」

カノンがキッパリ聞き返すと、2人は言葉に詰まった。
だがロンは「どうせ君もあいつに言いくるめられたんだろ」と言うと、ハーマイオニーと同じように1人で大広間へと歩いて行ってしまった。

取り残されたハリーも、カノンに背を向けて歩きだした。が、カノンはそれを許さず、その背中に声を掛けた。


「ねぇ、ハリーはロンと同じ意見なの?」
「・・・そう、だよ」
「私、ハリーはもっと友達の気遣いを理解できる人だと思ってた。今回の事もちゃんと理解してると思っていたんだけど、私の見込み違いかな?」

カノンの言葉に何も返さないハリーだったが、しばらくして声を出した。


「僕も、わかってはいるよ。でもやっぱり許せないんだ」
「じゃあ、ちゃんと気持ちを整理して、ハーマイオニーへの接し方を考えてあげて。彼女は我が強くて一人で突っ走っちゃうけど、君を心配しているからこそ、先生に報告をしたんだ。何も無ければ、箒は無傷で返って来る。それでいいじゃない。君がもし、彼女よりもあの箒の方が大事だと言うなら無理にとは言わないけど」

カノンが最後にそう言い残して立ち去ると、最後に残ったハリーは1人で彼女の言葉を反芻して考え込んでいた。







***






箒騒動から1カ月が過ぎ、2月の冬空の下。
カノンは再びハリーと一緒に廊下を歩いていた。


「それじゃ、仲直りしたんだね?ハーマイオニーと」

白い息を吐きながら問いかけるカノンに、ハリーはこくりと頷いて応えた。

「確かに、ハーマイオニーは僕に嫌な思いをさせたくてマクゴナガルに言ったんじゃないって」
「分かってくれて嬉しいよ。あの時はキツイ言い方をしてごめんね」
「ううん、ハッキリ言ってくれて良かった」

そう言っておずおず笑いを浮かべるハリーに、カノンも笑顔を向ける。
そしてハリーは片手に持っていた箒を彼女に見せた。

「これがファイアボルトだよ」
「騒ぎの元凶だね。まったくどこの誰が送って来たんだか」
「ウーン・・・誰だろう。わかったらお礼を言わなくちゃ」

考え込むハリーをよそに、しげしげと箒を眺めるカノン。


「へぇ・・・箒って言ってもこんなに綺麗なものなんだね。枝は絵筆みたいに揃ってるし、柄の部分なんてツヤツヤしてる」
「うん、乗り心地もすごく良いんだ。そうだ、君も乗ってみなよ!」
「いいの?」
「きっとびっくりするよ!」
「でも、私多分下手くそだよ。箒なんて乗ったこと無いし」
「じゃあ、僕の後ろに乗りなよ」


カノンは少し驚いた顔をしたが、その提案を快く受けたようだ。
その後すぐに、校庭でスリザリン生とグリフィンドール生が仲良く箒に乗っていたという目撃情報がまたたく間に広がった。


















「カノン!! あのポッターの箒に乗ったって本当か!?」
「情報が早いね。うん、楽しかったよ。低いところをシューっと飛んでもらっただけだけどね」
「ポッターの癖に・・・・・・」

やけに楽しげなカノンを見て、ハリーへの怨念を更に募らせたドラコだった。








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