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カノンが皆からのプレゼントに感動している頃、友人達も彼女からのプレゼントを開封していた。






【ドラコside】


朝、規則正しく早起きしたドラコは、自室のソファに座っていた。

彼の自室はスリザリン寮の談話室よりも広く、そこらへんのリビングルームのようだった。
モスグリーンと白、灰色などを基調にした部屋は上品で落ち着きがあり、何よりスリザリン生らしい。
調度品の数々からにじみ出るセンスの良さは、きっと彼や彼の両親が生まれ持ったものなのだろう。

そんなドラコが、珍しくうきうきした表情で持っているのは、先学期にカノンから手渡された水色と金色の包み。
彼はカノンとの約束通り、クリスマス当日まで包みを開けずに取っておいたようだ。
ドラコは包み紙を破かないようにそっと開き、中にあった物を見て嬉しそうに笑った。

カノンがドラコに贈ったものは、写真のアルバムだった。
黒く艶がある皮張りの表紙は、きっと上等なものだろう。
金色の文字で『Draco』と書いてあり、彼専用だということを示している。
そのアルバムは分厚く、沢山の――きっと、ホグワーツ7年間の写真が入りそうだ。
7年といっても、残りは4年半だが。それでもドラコは残りの学校生活の中で、このアルバムを満タンにしようと思った。

アルバムを開こうとすると何故かページが開かず、不思議に感じたドラコはとりあえずクリスマスカードを読む事を選んだ。

メリークリスマス、ドラコ

 素敵な休暇を過ごしていますか?
 君へのプレゼントは実用性のある物を・・・と思っていたんだけれど
 きっと君は既に質の良いものをつかっているだろうと思って
 君が必要と感じなさそうな写真アルバムを選びました。
 このアルバムは特殊なもので、表紙に刻まれた名前の人しか開けません。
 ・・・まぁ、どこかにドラコさんがいたら開けちゃうんだけどね。
 君は恥ずかしがり屋だから、アルバムを持ち歩く事はしないでしょう。
 でもこれなら、誰にも見られる心配はないよ
 今のところ、ホグワーツに"ドラコ"は1人しかいないからね。
 開き方は、自分の名前をアルバムに言えばいいんだ。
 パカッと開くから、落とさないように気をつけてね。

 カノン・マルディーニ


カノンのいつもの口調で綴られたメッセージは、まるで彼女と会話をしているようだった。
ドラコはカードに微笑みながら言われた通り、アルバムに向かって名前を言った。


「ドラコ・マルフォイ」

すると、今までピッタリ閉じて開く気配の無かったアルバムが、いきなり力を失ったようにパクン、と開いた。
真新しいページには"写真限定粘着呪文"が掛かっていて、写真をページに乗せるとその場所にくっつくらしい。
魔法界のアルバムは便利だ!とカノンは驚いていたが、魔法界育ちのドラコにとっては当たり前だろう。


まっさらなページをパラパラめくって、一番最初のページに辿りつくと、ドラコはそこに一枚の写真が入っているのを見つけた。

それは、カノンとドラコが知り合ったばかりの時、上級生に撮ってもらったものだった。
ヒッポグリフ事件の前だったので、ドラコも包帯を巻いておらず、カノンはその隣で大人しい微笑みを浮かべていた。

「なんだこれ、カノンって最初はこんなにおとなしかったのか」

今とは全然違う表情に、笑いをこらえながら写真を眺める。
だが、ドラコは今のあっけらかんとしたカノンの方が好きだった。
彼女が自分を信用して、素顔で接してくれる。それが何より幸せだと思えた。


「メリークリスマス。早く会いたいな・・・」

ドラコは他のプレゼントをほったらかしたまま、アルバムの表紙を撫でていた。













【ホグワーツ獅子寮 男子部屋side】


「ハリー! プレゼントが届いてるぞ!!」
「うわぁ、ほんとに?」

クリスマスの朝、ロンの声で目を覚ましたハリーは寝ぼけ眼をこすりながら、温かく魅力的なベッドから抜け出した。
いつも以上にボサボサの髪だったが、休日にそんな事を気にするような性格ではない。
眼鏡をかけたハリーは、ロンの元まで急ぎ足で駆け寄った。


「これはママから・・・君にも来てるよ。これは、ハーマイオニーか。手渡せばいいのに。んで、これは・・・・・・あっ! ハリー、これ、誰だと思う?」

ガサガサと包装紙を破りながらプレゼントを開封するロン。
そんな彼が不思議そうに掲げたのは、茶色に金のラインが入ったいかにも"高級"そうな箱だった。
もちろんハリーにも、プレゼントの差出人の心当たりなんてない。
訝しんだロンは、一番最初にその包みを開ける事にしたらしい。

ハリーはロンが自身のプレゼントに夢中になっている間に自分の分を開けてしまおうと思い、開封作業にとりかかった。
いつも通り、ウィーズリーおばさん、ロン、ハーマイオニー、それと差出人不明のプレゼントが2つ。
1つは細長く平べったい包みで、もう1つは黒く、ピカピカ光る四角い箱だった。
先程のロンと同じ状態で、ハリーもまた、その黒い箱から開ける事にした。

すると、先にカードを確認したロンが声を上げた。

「ワーオ、これカノンからだ!」
「本当に?じゃあ僕のもそうかも・・・」
「マジかよ! 見ろよハリー、これ!」

興奮した様子のロンが箱の中から取り出したのは、真新しいオレンジ色のマフラーだった。
近くで見ると質の良さがよくわかる。
触り心地はふわふわしているが、毛糸のチクチクがまったく無く、首元に巻いても滑らかでとても心地よい。
だがふんわりした感触からは予想できないほど保温性がよく、首に巻いているとすぐに全身がぽかぽか温まってくる。

「これ、高いんじゃない?」
「高いどころじゃないよ!あの"ヴィーラ&ウィズ"だよ。」
「何それ?」
「こっちの世界の最高級洋服ブランドさ! ビルがここのジャケットを買うためだけに1年半も貯金してたんだ・・・そんだけ高い」
「へぇ・・・カノンってセンスがいいな、君にすごく似合ってる」
「ママはこのブランドの広告が入ると、全部取っておくんだよ。眺めてるだけでも幸せだって。きっと羨ましがるだろうな・・・」

ハリーが言うように、暗めのオレンジ色のマフラーはロンの髪の色によく合っていた。
茶色に近い色なので煩過ぎず、かといって地味でもない。

ロンは何か、恐ろしいものでも見るような目でマフラーを眺めたが、カードのメッセージを読みなおして感嘆の息を漏らした。


「カノンのやつ、僕が前に"今使ってるマフラーは毛玉だらけで首が痒くてしょうがない"って言ったのを覚えてたらしい。みんなコレを見たらビックリするだろうな! 早く休暇が終わればいいのに!」
「僕のは何が入ってるんだろう」

ハリーは自分の黒い箱を開くと、中に入っている物を持ち上げてよく見た。

「うわぁ、これクィディッチ競技用のゴーグルだ! カッコイイ!」
「これ、確か最新のヤツだよな・・・凄く使いやすいらしいぞ」

ハリーの手にあるのは、新品のクィディッチ競技用ゴーグル。
茶色い良質な皮でできたバンド部分は、顔に当たっても擦れないし、ゴーグルのレンズ部分には、ハリーが使っているのと同じ度数の眼鏡のレンズが嵌まっていた。
さらに入っていた説明書を読むと、レンズ部分はあらゆる汚れ、水、湿気などにも関係なくクリアな状態をキープする優れものらしい。

「すごい、これなら嵐の中でもスイスイすすめるぞ!」
「やったな、後は箒だけだ。買いたいのは決まったか?」


クィディッチ談議に花を咲かせながら、ハリーはもう1つのプレゼントを引き寄せた。
彼ら2人が最高の幸せを味わうまで、あと僅か。













【ホグワーツ獅子寮 女子部屋side】


ふわふわ髪を何とか束ねたハーマイオニーは、寝室のベッドに腰かけてプレゼントを眺めていた。

両親から、友人から、おそらくハリーとロンは手渡しのつもりなのだろう。その二つは見当たらない。
すると、いくつかの箱の中からコロンと1つ、心当たりの無いものが出て来た。
不思議に思ったハーマイオニーは危険探知呪文で箱をつついてみるが、何も起きない。

まだ警戒を解かないまま、ゆっくり箱の蓋を開けるとそこには、大量の便箋とプレゼントらしき包みが入っていた。


「これ・・・カノンね! 驚いた、私が送ったのと同じくらい長い手紙」

もっさりとした紙束はまるで、何かの論文のようだ。
だが日頃カノンと話す機会がないハーマイオニーにはこの上ないプレゼントだったらしく、ものすごいスピードで手紙を読んでいた。

 メリークリスマス ハーマイオニー!
 ハーマイオニーは休暇の間、ホグワーツに残るそうだね。
 そっちでのクリスマスはどう?素敵?私も一緒に残れたらなぁ・・・
 きっと来年は私もホグワーツだし、そしたら沢山お喋りしよう。
 君へのプレゼントだけど、やっぱり実用性のあるものがいいかなと思って
 羽ペンと羊皮紙にしました。
 もちろん普通のじゃないから、早く開けてみて!
 そうだ、この間ね・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・

 ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・なの。
 ああ、もう便箋がなくなっちゃいそう。
 他の人の分も必要だから、今日はこれでおしまいにするね。
 では良いクリスマス休暇を。 カノン・マルディーニ



手紙を読み終えたハーマイオニーは、箱の中に入っていた包みを開く。
するとそれには可愛らしい桃色の羊皮紙と、オレンジ色のツヤツヤした羽ペンが入っていた。
羊皮紙からは薄くバラの香りがして、思わず深く息を吸い込んだ。
羽ペンは貴重な"スララ鳥"の羽で造られているもので、恐ろしく書き味が良いと評判のものだ。
ハーマイオニーは以前からこのペンを欲しがっていたが、完全予約制の上に生産数が限られていたため、入手できずにいたものだ。

あまりに的を得たプレゼントに、ビックリしたハーマイオニーだったが、ニッコリ笑うとピンク色の羊皮紙にペンを走らせた。

素敵なプレゼントをありがとう!
 手紙にあった本の話しなんだけど・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 









彼らのほかにもカノンは、セドリック、ルーピン、ダンブルドア、スネイプ、マクゴナガルの5人にもプレゼントを贈っていた。

セドリックには、ハリーにあげたものと同じブランドの競技用グローブ。
ルーピンには、ミノタウロス皮製の丈夫な鞄。
ダンブルドアには、手編みのふかふかしたマフラーと靴下。
マクゴナガルには、眼鏡をかけて可愛らしいスカートを履いた猫の置物。
スネイプには、"ドラゴンの炎にも、雪男の鼻息にも耐える魔法薬瓶セット"を。
そして以外にも、カノンはパンジー・パーキンソンに綺麗なブレスレットを贈っていた。

誰もが、彼女が一生懸命に考えて贈ったプレゼントに感動し、大切そうに眺めていた。


パンジー・パーキンソンだけは「呪いのブレスレットではないか」と戦々恐々だったようだ。





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