セドリック生存IF






※セドリックと恋人→結婚エンド

カノンはホグワーツ7年生で首席、セドリックは社会人2年目の魔法省勤務
闇祓い本部に勤めはじめ、まだ新米なので来年の資格取得に向けて毎日訓練課程をこなしている。

2人は4年生の終わりに付き合い始め、ここまで順風満帆に来た。
そんな2人が久々に再会した、イースター休暇のおはなし。









もしも、例のあの人が蘇ることなく三校対抗試合が終わっていたら。
もしも、彼が彼女の心を射止めていたのなら。


物語は別の結末を迎えていたのかもしれない。







***








「カノン!」


春の日差しが降り注ぐ、うららかな午前。

マルディーニ邸の庭で薬草の採取をしていたカノンを呼ぶ声が響いた。


「セド?」

呼び声に顔を上げたカノン。
その姿は大人びていて、しばらく見ないうちに少女から女性へと変貌を遂げていることが伺える。
彼女はさらりと風になびく髪を手で押さえ、遠くから駆け寄ってくる青年へと手を振った。

「はぁ…やっぱり君の家、入り口からここまで、遠いな…」

軽く息を切らせながら喋る青年――セドリック・ディゴリーが額の汗をぬぐった。

2年前にホグワーツを卒業した彼は、魔法省の闇祓い本部へと就職した。
限られた者のみが通れる狭き門だが、セドリックは見事採用試験に合格したのだ。
今は一人前の闇祓いとして働くために、日々訓練課程をこなしているらしい。
その成果か、彼の体は以前よりもずっと引き締まった肉体になっていた。


「おつかれさま、そんなに私に会いたかった?」
「もちろんだよ。久しぶりに、恋人に会えるんだからね」

からかうように微笑んだカノンに、セドリックは笑いながらそう答えた。

「君はどう? いつも通りクールだけど」
「私も会いたかったよ。待ちきれなくて、庭で薬草を採ってたの。セドが来たらすぐにわかるように」

照れる素振りも無く、さらりと答えたカノンがセドリックの手を取る。
彼の手は細かい傷だらけで、毎日厳しい訓練を受けている事がわかった。
三校対抗試合で優勝を勝ち取った彼の事だ、きっと周囲からも期待されているのだろう。
その傷を慈しむように撫でるカノンに、微笑みを浮かべるセドリック。


「嬉しいな」

幸せそうにそう呟いて、セドリックは彼女と共に庭に備え付けられているベンチに腰かけた。





「そういえば、もうすぐN.E.W.Tの時期だね。試験の対策は大丈夫?」
「私を誰だと思ってるの? 問題は、ハーマイオニーに勝てるかどうかだよ」

学年切っての秀才であるカノンは、全ての教科で"優"評価を取ることなど造作もないのだろう。
彼女と唯一競り合える存在、ハーマイオニーとの点差だけが気になるところだった。

「どちらにせよ、マクゴナガル先生は喜ばれるんじゃないかな?」
「ふふふ、嬉しそうだったよ。片や自分の寮生で、片や娘同然の生徒だったから」
「その姿、是非見てみたかったよ」

楽しげに笑いながら話すカノンと、優しい眼差しを浮かべて話を聞くセドリック。
ベンチの前にある小さなテーブルの上には、いつの間にか氷の入ったグラスが2つ置かれていた。
飴色のアイスティーと氷が、涼しげな"からん"という音を立てる。


「セドは、イースター休暇の間どうするの?」
「休暇の間は訓練時間が午前だけになるから、午後はこっちに帰ってこようかな。短い休暇期間だし、君と少しでも長く一緒に居たいんだ」

セドリックはそう言いながら、カノンの頬に手を滑らせる。柔らかく滑らかな白い頬を撫でて、そのまま指先で彼女の左耳に触れた。
グレー色に輝く石が付いたピアス…その存在を確認するように動く指。
カノンはくすぐったそうに笑いながら、同じようにセドリックの左耳へと指を這わせた。
彼の耳にひとつだけ空いたピアスホール、そこにはカノンの瞳と同じ色の赤い石が嵌っている。

「お互いの瞳の色を身に付けるって、やっぱり少し恥ずかしいね」
「セドが言い出したのに?」
「うん、でも、こうやって触れるたびに幸せになる」


お互いの頬に手を添えていた2人は、ゆっくりとした動きで唇を重ねた。
優しく触れるだけのキスを交わして、鼻先がくっついてしまいそうなほど間近で見つめ合う。
カノンのルビーのような目がキラキラと光って、次の瞬間には幸せそうに細められた。
可愛らしいカノンの反応に、セドリックは思いきり彼女を抱きしめる。

「セド、苦しいよ」
「うん、ごめん。でもちょっと、緩められそうにない」

セドリックもカノンも、眩しいほどの笑顔でじゃれあった。
落ち着いた大人の恋もいいけれど、時には若い学生同士のような青春くさい恋愛もいいだろう。


セドリックの長い腕の中にカノンがすっぽり収まると、彼はぽつりと話し出した。

「もうすぐ、君は卒業する」
「ん?」
「僕は一人前の闇払いになって、働き始める」
「うん」

カノンは目を閉じて、すぐ横から聞こえる声に耳を傾けた。

「僕が居る限り、命に代えてでも君を守るから。卒業したら…僕と結婚してほしい」
「セド…」

意を決したようなセドリックに対して、カノンはその言葉を予想していたようだ。
嬉しそうに口元を緩め、綺麗な微笑みを浮かべた。

「幸せにしてください、なんて人任せな事は言わない。一緒に幸せになろうね、セドリック」
「君らしいよ、その言葉」

セドリックは幸せそうに頬を赤らめて、カノンの髪にキスをした。
シャンプーの甘くて爽やかな香りが、彼の胸の中に漂った。


「結婚式はどこで挙げようか?」
「カノンと一緒ならどこでもいいよ。ドレス姿の君は、きっと綺麗だろうな。」
「一回、見た事あるでしょ?」
「うん、すごく綺麗でドキドキした。今度のドレスも、僕に選ばせてくれる?」
「セドはセンスが良いから、安心して頼めるよ」

カノンの言葉に、セドリックは空中に指でドレスの形を描き出した。

「身体にフィットしたのも綺麗だったけど、今度はふわっとしたのがいいな。真っ白で、沢山レースとフリルが付いた…」
「お姫様みたいな? 私に似合うかな」
「きっと似合うよ。肩と首のラインが綺麗だから、襟はすこし深めで」

セドリックはふざけながら、カノンの鎖骨辺りを指でつつっとなぞる。

「このくらいが綺麗かな。」
「ふっ…あはは、くすぐったい!」

身をよじって笑うカノンを、再び腕の中に閉じ込めたセドリック。
カノンもセドリックの胸に頭をあずけて、寄りかかった。


「セド」
「うん?」
「私、今まで生きてきた中で、きっと今が一番幸せだよ」
「じゃあ、僕がもっと幸せにするから」

カノンの白い手に、己の手を重ねながら言うセドリック。
誓いをたてるかのように、彼はカノンの指に口付けをした。








***








平穏で静かな"非日常"。どこを探しても見つからない、平和な未来。


無数に枝分かれした先の光景ならば、これも一つの真実なのかもしれない。






prev * 115/115 * next