5-0・帰ってきた北の神様



いい加減、百花は怒っていた。というより、困っていた。


「まったく、何処に行ってんのよ・・・。」


深夜、ちょっと夜更かしして満月を眺める百花。

今日はおそらく彼が帰ってくるはず。

コタンコロカムイ。

シマフクロウの姿をした北海道の森の神様が、ここへ帰ってくるのだ。



「家賃3ヶ月滞納したままだし・・・!」


落ち着くため庭のバラを一本、剪定ばさみで摘んだ。
上質のワインのように、かぐだけで酔いそうな強いかおりが鼻腔をくすぐる。

そうやって満月を眺めていたらバサバサと羽ばたきの音がした。

「やぁやぁ!久しぶりだな百花。大きくなったんじゃないかい?」

「おかげさまで、神威(カムイ)。家賃滞納してるぶん、さっさと払いなさい!」

二階五号室の住人、島野 神威(シマノ カムイ)はクスクスと笑った。
「無粋だねぇ。せっかく再会出来たのに、君のバラも泣いてるよ。」

「気障が。家賃払いなさいよ!」

「はー。」
やれやれと神威が肩をすくめたときだった。
「うっ!?」

いきなり百花の身体が重くなる。

「家賃は置いとくとして・・・神威、あんたどこにいってたの。」 




ニコニコと笑ってごまかす神威と、にらめっこする百花の間を冷たい風が吹いた。


「・・・いやぁ、ちょっと森に入って瞑想をね。」


「何その間は。まさか・・・まさか・・・。」


「富士の樹海。」


もう立っていられなかった。 

「こんなっ沢山連れて来てぇ〜〜〜・・・!」


富士の樹海といえば、自殺の名所。浮かばれない『彼ら』が着いてきたらしい。

「もうお前なんか出ていけ〜!!!なんで母さんこいつうちの店子にするわけ!?うぇえ。」

負の気にあてられぐるぐると目が回る。

百花は耐えきれずに倒れていく。
「やれやれ、まだ破魔の力を使い切れんのか。」

神威は土に倒れる前に抱き上げる。 

そんな二人を薔薇の香が包み、満月が照らしていた。

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