3-1・猫と男の子



夕方、会社の帰り道


縞は家から5分のコンビニに寄ろうとしていた。


本来なら帰り道にある商店街の魚屋が良かったのだが、朝方御主人が腰を痛めて救急車で運ばれたらしい。シャッターが閉まり、貼り紙がしてあった。

「跡取りは東京で音楽活動・・・。馬鹿め、店が潰れたらどうしてくれよう。」

商店街の魚屋は縞がまだ普通の猫の時からお世話になっている老舗で、今の御主人で三代目になる。贔屓の縞が招き猫となり今でも商売繁盛だ。

コンビニの焼魚は味が濃いし、小さい。

しかし、何故か酒の揃えかたがマニアックで、仕入れたらすぐになくなってしまうようなレア酒を取り扱うので家に酒がなくなったら来ている。


やれやれ、とコンビニに入ろうとしていたら、中から学生服の少年がでてきた。

妙に緊張した顔だ。

ははん、こいつは・・・。

わざとパンプスのヒールによろけたフリをし、ぶつかる。


「あ・・・、すみませぇん。」

艶っぽく言えば、幼気な高校生は真っ赤になって去っていった。


やっぱり。


ぶつかった瞬間に掠め取ったのは消しゴム。

縞は何事もなかったように戻し、弁当コーナーに向かった。

鮭か、鯖か・・・しばらく悩んでいるうちに、先程の少年が焦ったように入ってきた。少年は文具のところで立ち止まり、消しゴムを凝視する。箱のなかにはぎっしり二十個。開けたばかりの様だ。

先程少年はそこから一個、確かに盗んだはずだった。

なのに・・・。

「ぼん、ふりむきなや・・・黙って外で待ってな。逃げたら、分かるよな?」

低い声が耳元で囁く。
後ろからあまりの殺気に瞬きもままならない金縛りにあう。


かっかっという、ハイヒールの音とともにふっと緊張が解けた。


音の源を見ると、真っ黒な長い髪をべっ甲のかんざしでまとめているOLがレジに向かっている。


先程入り口でぶつかってきた女性だ。


まさか。


ぞわりと鳥肌がたった。

そんなまさか・・・。

少年はアイスを掴むと、隣のレジに行き、お金を払い、外に出た。


そして、



ダッシュ!


「ぜってーやべえ!ぜってーやべえ!ぜってーやべえ!」

もはやこれしか言えない。
万引きした噂とかたっても未遂におわったんだ。

何かあっても両親に頼んで逆に訴えれば・・・!

頭がぐるぐる働いているうちに、だいぶ走った。相手が何者かは知らないが、ハイヒールの女性だ。追い付けるはずが無い。

「知ってるかえ?『猫のたたりは七代先まで』という言葉を・・・。」

あっ、と気付けば、辺りは薄暗く、人気が無くなっている。

そして、背骨にそって汗が流れた。


動けない!



少年は叫ぶことも出来ず、目を見開いて固まった。

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