2-3・狐の巣
ある休日のこと。
いきなり隣の紺が倒れた。
妖怪のくせに、病で倒れるとはどういう事だ。
ともかく、嫌がる護は家においてきて私は今見舞いに来ている。
「どうだ?」
『ヴー。』
「そうか。ほら、小さいお稲荷さん作ってきたぞ。食べるか?」
『キュゥ。』
今、紺は金色のふっさふさな毛並みを持った妖狐の姿をしている。人型になれないほど衰弱しているらしい。こちらとしては好都合だ。
それにしても。
部屋中あちこちに半紙に目やら耳やら口やらの、文字と絵が貼られていてそこから思念が飛んでくる。
前にも来たことがあったが、やかましい。(護が嫌がるのも無理はない。)
目をつぶれば壮大な景色。
耳をすませば外国語。
「なあ、紺はこれで休まるのか?」
気になってお稲荷さんをほうばる紺に聞いてみた。
『ぁあー・・・。やっと声が出る。ええ、昔からこうしてますから。』
「ふーん。」
『仕事もありますからね。』
「次の仕事はいつ終わりそう?」
『後少しですよ。』
「なら、終わったらこれ外せ。やかましい。」
『嫌ですよ。商売道具なんですよ?』
「このアパートの主、つまり紺の契約者の命令でも?」
『・・・。』
「すまない。ちょっといじめすぎた。気にしないで。」
『外したら、もっとここにいてくれますか?』
「さあ、どうだろうねぇ。護は遊びに来るかもね。」
『いやですよ。煩いのが来るなんて。』
「お前の部屋には負けるよ。」
布団に包まる紺を撫で、感触を楽しむ。静かに撫でていると、中国の古代楽器の優しい調べが聞こえる。
『好きなんですか?』
「ん?あぁ、まあね。」
じゃあしばらくはこれにしておこう、と紺はつぶやいた。
ラジオかよ、と突っ込もうとしたがきつそうだったからやめておく。
段々眠くなってきた。
慣れてくると、とても居心地が良くて、目を閉じれば古代中国の宮廷で二胡を聴きながらくつろぐお妃様がほほえんでいる。
「・・・・・・。」
何?なんて言ったの?
しかし、彼女の声は届かなかった。
少し寂しそうなお妃様に申し訳ないな・・・と思う。
そこで目が覚めた。
気付けば人型の紺が私を抱き締めて寝ていた。
油 断 し た。
ぐいぐいと押し退けるが、そこは普通の(?)女子高校生。さすがに適わない。
困ったな、とため息をついたら
『いい夢見れたでしょ?』
と紺が囁く。
不覚にもびくっとしたのが悔しかったので。
頭突きをお見舞いして、さっさと自室に戻ってしまった。
『ちぇ〜。せっかく同じ夢見れたのに〜?ねえ、お妃様。』
目を閉じれば先ほどの宮廷。
お妃様が口に扇子をあて、コロコロとわらう。
「あの娘娘がぬしの想い人かい?」
『ふふふ、秘密です。』
「おやおや・・・。」
さよなら、とお妃様に手を振り紺は目覚めた。
枕元にはお稲荷さんがまだ一つある。
『も〜ちょっとサービスしてほしかったなぁ。…なぁんてね。』
一人ごちながら最後のお稲荷さんをほうばり紺はまた布団へと戻っていったのだった。
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