2-2・夜鴉と黒い娘
矢田鴉丸は二階の1号室に住んでいる。つまりは大家の真上。
普段から身軽だし、煩いのは嫌いだから下に響くことはない。
が、臭いものが好きだったりする。
ブルーチーズに、くさや、ドリアンなど。たまにアパート中臭くなって騒動を起こす。
そんな鴉のお仕事はホストである。
昼から日本有数の歓楽街へと彼はくりだし、夕方は彼目当ての女性でお店を一杯にする。
「(お酒)大好きです。」
と言えば、軽くドンペリ三本は開く。
妖怪だから酒などは水と同じでガンガン飲んで、いつまでもトップ。そろそろ店持とうかな・・・と考えてはいるけれど。
(まだしばらくは満月荘でのんびりしていたいし?)
下に住む大家が無意識に垂れ流している力が心地よい。疲れていても、絶対家に帰ろうと思う。まぁ、なかなか会えないし力の残骸しか味わえないから偶然会ったら構ってほしいよね。
話しているだけで癒されているんだよ。僕ら。
それにしても、縞のやろう・・・。
「・・・け猫が・・・。」
「夜鴉?猫がどうしたの?」
常連が怪訝そうに話かけてきた。どうやら口に出していたらしい。
「いんや〜?可愛い子猫ちゃんに嫉妬してたのさ。今、新人見てただろ〜?」
「んもうっそんなわけないって!」
ああ、今日も夜が更けていく…。
お客様を見送って仕事が終わり、香水臭いジャケットを着替えて外に出る。
深夜、草木も眠る丑三つ時。
「っかぁ〜。つっかれた!てか、雨かよ。」
「鴉が鳴くから帰りましょ。」
後ろから女の子の声がきこえ、急いで振り向く。
そこには闇に紛れて黒い傘を持った桃がいた。
「お嬢様、こんな時間にこんな場所にいたら危ないでしょー。」
「あはは。誰も私を見つけるなんて無理。あなたもね。」
確かに、気配に気付かなかった。
「はいはい。さあ、帰りましょ。お嬢様。」
桃はもう一本の黒い傘を鴉丸に渡す。その傘は渡した瞬間、ピンクになった。
「・・・。かわいいですね。」
「ええ。似合いますよ。」
嘘だ。本当は自分が使いたいはず。傘を見つめて寂しく笑っている。
ついでに僕に対しての嫌がらせも少し含まれているのは確かだが。仕方ない、ピンクの傘を桃に見せるために我慢しますか。
そして雨のなか、黒い少女とピンクのホストは家に帰っていったのだった。
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