2-1・寄るな



「ももちゃーん!」 
『大家さ〜ん!』

車の通りが多い道を挟み、二人の男が私の2つの呼び名を大声で叫んでいた。


一時停止


再生。私は見なかったことにして歩きだす。


『あっちょっ!大家さんってば!』

ひゅんっ!と風が起きて、紺が通りの車を踏み台にして私の方にむかってくる。
後ろでは矢田鴉丸がホスト全開で車を止めていた。


よし。


私はカバンからハリセンをすかさず取り出し、紺が道に着地する前に顔を目がけてフルスイング。


ばちぃいいいん!!?
ヒット!


紺は痛みに道路に倒れるが、鴉丸が車を止めていたので問題なし。


「何やってんだか・・・、ねえももちゃ」
ばしぃいん! 

私は鴉丸にもハリセンをお見舞いした。ホストなので流石にお尻にしたが。

「あっで!ちょ、えっち・・・ごめん!嘘嘘!」

今度は急所を狙おうと構えていたが、先に謝ったので許してやる。

私はため息をつき印字を組んで自分達の周りに結界をはり、話している内容が聞こえないようにした。

周りから見れば二人の男性の後ろに私が黙って歩いているように見えるだろう。

「あのさぁ、前にも言ったよね!?外にいる時は話し掛けないでって!」

ちら、と紺が後ろを見た。

『えー、やだ。だってなかなか会えないんだもん。』

「私は構わないんですのー。」

『冷たい・・・。』


「まあまあ、僕達は正体を知ってる人間がいるのが嬉しいんだよ。」


「鴉丸、縞(しま)に聞いたよ。私の気はおいしいって言ってたそうだな。」

「あの化け猫が〜!」

「はいはい。どーせ、私は力垂れ流しですよ〜。タバコ吸わない、酒飲まない、健康的な生活してるから純度高いらしいね。縞もおいしいって言ってた。」

「『あげたの!?』」

二人が振り向く。私は気にせず二人の間を割って進む。

「ああ。もったいないって言ってたから。縞体調崩してたし。」


『「ずるい!」』

「もちろん勝手にはあげないよ。ただでさえ結界にまわしてるんだから。」

アパートにつくと、印字を解いて二人を振りかえる。
「いい?どうせ縞には勝てないんだから、二人共私が気をあげたことで喧嘩売るんじゃねーわよ?」


鬼のような顔で念を押すとむすーっとした顔で二人は頷いた。


縞を怒らせると怖い。何がって、普段は少し嫌味っぽいくらいでおとなしいタイプだが猫のたたりは7代先までって言われるほどなだけある。


鴉丸は二階へ、私と紺が一階の部屋に戻ろうとしたとき

「お帰り〜。」

アパートの柱を蛇の姿で護が降りてきた。

「ただいま。何してたの?」
「渡り鳥と話してた。今年は暖かいから沢山虫が出てくるって。

そしたら蛙も増える?」


「そうだね。今年もたんぼに遊びに行こうか。」

その会話を聞いていた紺が口を開く。
『・・・食べるの?』 

「はあ?なわけないじゃん。馬鹿?飼うんだよ。」

良かった。と紺は思ったとか。


「あとね、鴉が大発生して、餌がなくなったってさ。狐も生ゴミ漁りだしたらしいよ。」

「へえ。」


『何その目!?僕何もしてないんだけど!』

「「・・・何も。」」

『うわぁああん!』 

と半泣きで紺は自室に戻っていく。


その後ろ姿を見て、私と護はクスクスと笑っていた。

「(くわばらくわばら・・・)」
二階の渡り廊下では、鴉丸が一部始終を聞いていたとさ。

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