そこでの俺は
『っ、たった、大変!由良さんがおかしい!』
川原さんが三味線を抱えてドン引きして。
『なん、だって?由良が頭下げて挨拶した!?』
良は目を見開いてこちらを見ている。
「由良って奴、どんな無作法な奴かわかったから。とにかく落ち着いてくれ。」
じゃないと当たり前のことをした俺が泣きそうだ。
『と、とにかく群青の間へ。』
良が手ぬぐいを渡してきたので草履を脱いで丁寧にふきあげる。なんか綺麗な店なんだよ。上がるの気が引けるんだよなぁ。
川原『なっ!由良さんが、由良さんが!』
言葉にできないらしい。
「あぁああん、もう!俺は由良じゃなくて京介って言います、由良とは別人ですから!初めましてですから!」
川原『はぁ?由良さんいよいよ頭が…。』
可哀相な目で見られたし。
『足はもう良いから!こっちだ。』
良に手を引かれ、あわあわと廊下に上がる。
川原さんに軽く会釈して立ち去るが、川原さんが(可哀相に…)と呟いていたのは聞かなかったことにしようと思う。
夜。俺が可哀相になってきた。
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