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薄くあまくスプーンですくわれる恋


 笑みを浮かべる様に端を歪めた唇の隙間を割る様に、銀色に磨かれたスプーンの先が淡い乳白色の柔らかなゼリー状のそれを乗せたままなまえの咥内に吸い込まれていく。
 その様を凝視していた事にクラウスが気づいたのは、甘さを確かめるように隙間から這い出た赤い舌先が唇を舐めるのに鋭く小さい息を飲んだ己の呼吸の音だった。


薄くあまくスプーンですくわれる恋


 耳のすぐ傍で木材が軋んだ音を立てまるでそれを合図とするかのようになまえはゆっくりと長く垂れた前髪を耳にかけ直しながら、頭をもたげた。
 ぴっちりと隙間を嫌うように柔らかく閉じた唇から唾液を纏った赤黒く腫れ上がり凶悪と言っていい見た目に育ちきった性器が姿を現し、粘液が引く細い液体の糸を切るように舌が上唇を舐める。
 鷲色の瞳が横目に見た1人掛け用のカウチの肘置きに置かれた大きく岩のように厳めしい手は、表面に血管や筋肉の筋を浮き立たせる程に力が入り握り込まれた飴色のそこが悲鳴のように軋んでいた。
 まるで質の良い靴屋に置かれているような、座面が前に広く深く腰掛ければ自然と膝が伸びた座面に乗り上げて足の伸びるボルドー色の革で覆われたカウチに、深く座らされたクラウスの下半身になまえは床に膝をついた状態で上半身を乗り上げている。
 クラウスの着衣に一切の乱れはなく、ただ、スラックスのジッパーを降ろされ下着から取り出された性器がなまえの唇と咥内に嬲られていた。
 ライブラ事務所の執務室から続く隣室は資料が詰め込まれた本棚が並び立ち、奥の角に簡易的な筆記机と椅子とカウチが一組ずつ置かれている。
 常にスモッグのような霧が立ち込めているHLでは紫外線といったものを気にする必要がないために、部屋の窓は高く細く壁の面積にして大きく取られているために室内は本棚とそこに収まりきらなかった本が床に積み上がって空間を圧迫しているが暗さは薄い。
 空気を吸えば紙とインクの匂いに少しの埃っぽさを混ぜたような匂いが鼻先を満たす中で、視線の先、まるでそこから青く苦い性の匂いが立ち上っているかのような錯覚にクラウスは陥る。
 常は顔面の半分を覆う長く黒い前髪を耳にかけた姿は眉の動きひとつ、瞬いた瞬間に頬にかかる睫毛の影すらも見えるほど露わにされ、唾液と己の先走りで濡れた色を放つ薄い色の唇が対比のように赤黒く育った性器の先端を戯れに食んでいた。
 咥内を満たす唾液を全体にまぶすように舌で塗り広げたかと思えば、浮き出た裏筋を舐められて滲む先走りを喉の奥で音を立てて啜り上げる。
 呼吸のたびに鼻先から漏れ聞こえる音が艶めかしく、情事の時のそれに似て、クラウスは音が立つ程に奥歯を噛み締めて下腹部に力を込めた。
 乗り上げてくる上半身の下で柔らかく潰された足先が感じる腹の皮膚の柔らかさにさえ興奮するようで、意識しないように見下ろしたなまえの後頭部の先、襟足の短い髪の隙間から覗いた項の表面にびっしりと黒い刺青が走っているのにさえ熱があがる。
 その先はどう繋がりどこに至ってどう歪み痙攣して色づき震える皮膚の様を知っている。
 淫奔の神が居たとすれば彼の姿を模しているかもしれない、鋼の理性が獣の皮を被っているような男は揶揄でも皮肉でもなく内部で渦巻く熱に炙られ続ける頭の中で真実そう思う。
 柔らかく濡れて指よりも巧みに繊細に動く舌先がはっきりと鋭利に張り出した雁首をぐるりと円を描くように舐めて、絶えず滴るような量の先走りを吐き出す鈴口をくじる。
 それが弱いと知っている動きに抗えず喉の奥を絞る様な呻きを頭上で漏らした男になまえは楽しげに口を歪めた。
 絶頂に追い上げるつもりはなく、子供がお気に入りの玩具で飽きなく遊び続けるように濡れた舌と唇が固く腹につくのではと思わせる程、反り返る性器を食んでしゃぶり続ける。
 クラウスが己が尽くせるあらゆる手段を講じてその手の中に収めた目の前の男が、開いて全てを暴いて見せた腹の中は、世に生まれ落ちて得られる法悦の全てを手に入れたかのような有様だった。
 深層で拒まれ続けた反動などという陳腐な理由はとうの昔に吹き飛んで久しい、全てにおいて盤石で全てにおいて完璧たれと在り続けた連綿と続く滅獄の血族であるラインヘルツに連なるものであるクラウスの人間たらんとする理性と倫理を、なまえという男は堕落する人間を慈しみながら嘲笑う悪魔のように剥ぎ引き千切り捨てた。
 彼の手の内ではまるでミルクとクッキーをねだって泣き喚く幼子のような心地を味わう。
 浅はかで無遠慮な己の欲望を裸にされ、到底人にぶつけてはいけないはずの身勝手さを彼は好む。

 額から頬に、頬から顎先を伝って緋色のジレの上にぽたりと一滴汗が落ちる。
 もはや閉じる事も出来なくなった鋭い犬歯の覗く唇から全力を出し切って掠れたような呼吸が荒く喉を幾度も通り抜けていく。
 太い丸太のような太腿に頬を預けて頭を傾げ健気に脈打つ肉の幹を唇で挟んで弄んでいたなまえの見つめる先、幾度も食いしばり溢れる吐息と唾液を発しようとした声と共に飲み込んで赤くなった男の唇から、か細く、寒さに震える子供のような頼りなさでひとつの単語が零れ落ちた。

Please…

 鼻に抜け今にも泣きだしてしまいそうな、大きな体とは裏腹に幼い物言いに、熱で潤んだ鷲色の瞳が柔らかく甘く微笑んで堪え切れず滲み出るような情愛のままに濡れた唇が熱を深く飲み込んだ。



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