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「……っん、はぁ…、」
「むぞらしか、名…、っ」

荒い息と息が交ざって、12月末のとても冷たい空気を目の前だけ白くする。もういくつ寝たらお正月、年が明けてしまうのね。たったそれだけのことがどことなく寂しい今日この頃、今夜もわたしは千歳とセックスをしている。

「…っはぁ、ん…」
「名、よだれ」
「ぁ、…舐め、て?」
「よかよ」

ベッドを軋ませて屈んだ千歳はちゅうっ、わたしの口端に吸い付いて私のよだれを舐め取った。そこはさらに唾液に塗れてスースー冷たい。

「やらしかねえ」

へら、と笑った千歳は背中に季節外れのたんぽぽを背負っているようだ。いや、ふわふわ遠くへ飛んでいってしまうわたげかもしれない。なんて呑気なことを考えていたら急に奥まで千歳のが入ってきてそんな思考はぶっ飛んだ。

「あっ!」
「何考えとると…?」
「や、そこ、っ!、あ…!」

下を見ると太いのがずぷずぷ出し入れされて、奥を突かれる度に大きな声が出てしまう。膝裏から持ち上げられた両足は膝が肩につきそうで、前のめりになった千歳はがつがつと貪るように腰を打ち付けてくる。肉のぶつかる音と、にちゃにちゃいやらしい音が余計に興奮をかき立てた。

「ど?名…」
「ふ、ぁっ、き、きもち…ぃ…っああ!」
「ん、よかった…っ」

逞しい腕が首の後ろに回ってきてぎゅっとされて、千歳の体温が直に伝わる。すごくあったかい。気持ち良さと温かさに徐々に頭がぽーっとしてきて、千歳に焦点が合わなくなってきた。あ、これ、きもちいい。さっきとは違った意味で。
ぐちゅ、ぐちゅ、と音を立ててゆっくりした動きになったのも重なって、身体からは完全に力が抜けてしまった。今のわたしはまさに骨抜きな状態。

「ふ、ぁ…っ」
「はぁ…ずっとずーっとこうして、名と一緒におれたら…」
「ちとせ…?」
「幸せやったかな、」
「…」
「ごめんね…」

その時、いままでの雰囲気をぶち壊すかのように場違いな音楽が携帯から部屋に鳴り響いた。

「!…なんね!?」
「あっ!アラーム!」

仕掛けておいた私本人までもが今の今まですっかり忘れてびっくりしてしまったそれは31日の00:00を知らせるものだったことをたった今思い出した。

「どうしてアラームば仕掛けとったと?」
「あ、これ、千歳に一番におめでとうて言おうと思って。誕生日おめでとう」
「…案外あっさり言うんやね」

そんなことを言ったって、べつにこれが初めて二人で迎える誕生日なわけではないし、今更どう言ったらいいかなんて深く考えるはずがない。それならおこぞかに言ってほしかった?なんて聞いたら千歳は「いや、そのままでよか」って言ったからやっぱりそうじゃん。なんて。

「あ、ちょっと萎えてしまったばい…」
「うわ…、ふにゃふにゃする」
「うわとか言わんといて…」

そう言いながら千歳はコンドームを引っ張って抜いて、結ばずそのままごみ箱に投げ捨てた。いつもティッシュにくるんでって言ってるのに。

「続きはまた今度ね」
「えー、やだ」
「我が儘言わんと」

千歳は少し悲しそうな顔をしてわたしの頬を撫でた。ちがうのに。そんなつもりで言ったんじゃないのに。わたしは千歳の手を払って軽く睨みつけた。心の奥の方から黒いものが別の感情すべてを押しのけながら身体を満たしていく感覚。わたしって嫌な子。私は千歳の下からすり抜けて、千歳に背を向けてベッドに座った。

「最後くらい…いいじゃん…」
「最後じゃなかよ、まだ日はあるったい。それにまたここに必ず帰るから、また…」
「そういう最後じゃない!」

思わず近くにあった枕を掴んで、咄嗟にそれを千歳に投げ付けた。

「ばか!大阪でもなんでも勝手に行けば!知らない…!わたし知らない!ばか!!」
「名…」
「ばか…っ」

なんで泣きたいときって鼻水まで出ちゃうんだろう。こんな時くらい千歳を引き止められるきらいにいい女っぽく美しく泣きなさいよ。なんでできないのわたしの馬鹿。

「うぅ…うえええぇ…っ、ふ、ちとせ、ばかああ、うえ…っえく、ふええぇぁぁ!!!」

理不尽だって分かってる。千歳を困らせたってどうにもならないことは分かってる。分かってるのに涙も鼻水も声も何もかも止まらないよ。素っ裸で泣きわめいて、子どもかわたしは。

「名…名ごめんね」
「ちがうのお…っ!ふ、うう…うあああぁぁー…!」
「名…」
「ふえ…うぅ…っ」
「名!」

千歳は自分の肩でわたしの口を塞ぐように抱きしめた。

「辛か…」

一瞬骨が折れるんじゃないかってくらいに強く抱きしめられて、すぐに緩む。わたしはゆっくり千歳から離れて暗がりの中の千歳を見つめた。

「千歳…?」
「…」
「千歳顔あげて…」
「…」
「……泣いてるの…?」
「泣いてなかよ」

下から千歳を覗き込んだら、千歳は言う通り全然泣いてなくて、ただ真剣な顔をして俯いていた。

「…名にプレゼントがあるばい」

急に何を言い出すかと思ったら予想外の台詞が千歳から飛び出して、おかげで涙が止まってくれた。なんで、今日は千歳の誕生日だから千歳がプレゼントを貰う日のはずなのに。わたしがあれこれ考えている間に千歳はがさごそとベッド横の引き出しを漁ってすごく小さな可愛い封筒を取り出した。

「お揃いのピアス」

千歳はにこにこしながら自分のピアスを外してわたしに持たせると、新しい方のピアスを自分の耳に着けた。え?自分へのプレゼント?なんて呆気に取られていたら今度は千歳はわたしの左耳に着けていたピアスを勝手に外すとさっきまで自分のしていたものを着ける。「ね、お揃い」と千歳はわたしの顔を見て嬉しそうに笑った。

「必ず帰るからそれまで名には待っててほしか」
「…っ」
「好いとうよ名、ずっとばい」
「千歳…っ」
「だからもう泣かんといてね」
「ん…っ」

今度は涙を噛み殺して、わたしは千歳を見た。

「がんばる…」
「いい子いい子ばい」

「ふえっくしょい!」
「あぁー、ほら名、早く布団の中おいで」
「ううー…」

ずるずると鼻を啜りながらすぐに布団に潜り込むと、泣き疲れたわたしは暖かい千歳の腕の中で猛烈な眠気に襲われた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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