なんやかんやで付き合い始めて1ヶ月。レオナルド・ウォッチは焦れていた。
付き合うに至るまでも、それはもう紆余曲折いろんなことがあったわけだが。
年齢だの性別だのといった壁を越えてやっと結ばれることができたのだ。
それなのにスティーブン・A・スターフェイズという男は、1ヶ月が経とうと言うのに一向にレオナルドに手を出してこないのである。
「僕に、魅力が、ない、のかー!?」
キィンと金属のぶつかる高めの音が鳴り、放物線を描きながら白球が空を横切っていく。
「スティーブンさんの、意気地、なしーーー!!!」
フルスイングの勢いはそのままにバックネットに突き刺さる。すごーいと隣のバッターボックスにいた女性が手を叩いて喜んだ。
どうも…と会釈をして、少しばかり気持ちがスッキリしたレオナルドはすっかり常連となってしまったバッティングセンターを後にした。
順調にデートは重ねている。手を繋いだり抱き合ったりもした。愛しい気持ちが高ぶってもっと、もっととレオナルドは思うのだが、なかなかどうしてスティーブンには伝わらない。
以前、どうにもこうにもモヤモヤが収まらなくなった時、SS先輩に相談したことがある。普段なら絶っ対に相談したくない相手なのだが、それだけ切羽詰まっていたのである。
「付き合っていよーがなかろーが、愛があろーがなかろーが、セックスは最高だぜぇ?童貞くん」
「アンタに聞いた僕が馬鹿だった」
「んだとてめぇぇ?性の大先輩様のありがたーいお言葉、しかと聞きやがれ!」
そこから先のえげつないエピソードに完全に耳を塞ぎ、やはり相談相手を間違えたと嘆くことしかレオナルドには出来なかった。
「はぁ…」
本日何度目かのため息をついてとぼとぼと歩くレオナルドの前に、今まさに悩みの中心人物が現れた。
***
スティーブン・A・スターフェイズは悩んでいた。
兼ねてより晴れて恋人同士になることができた、レオナルド・ウォッチのことが寝ても覚めても離れないのである。
女性遍歴は、プライベートは元より仕事も加えると、ザップとは違う意味で人並み以上に派手な遍歴の持ち主であった。
しかし本人も自覚している。後にも先にも本当に愛しているのはレオナルドただ一人であることを。
「全うな恋愛なんて初めてでね、どうしたらいいか分からないんだ」
そう呟き、クイっとシャンパンを飲み干したスティーブンをドン引きな目でK・Kが見やる。
「大事にしたい。ゆっくりとお互いの気持ちを確認していきたいんだ。でも今までが今までの人間だから、時々抑えがきかなくなりそうになるんだ。僕の気持ちが暴走してしまったら、彼を傷つけてしまったら、そう考えるととても怖くなるんだ」
「っとに聞いてて吐き気がするわ。アンタの今までなんて興味もないしこれからだってない。アンタ今気持ちを確認していきたいっていったわね?そんなの話さなきゃ分かるわけないじゃない!傷つけるのが怖いとかいって、本当は自分が嫌われるのが怖いだけなんでしょーが!」
こんな当たり前のこともわからないなんて!これだからいろいろすっ飛ばしてる奴は!、と人差し指を鼻先まで持っていきK・Kがまくし立てる。
その勢いに驚きながらも、スティーブンはほぼほぼ図星をつかれ、苦笑する。
「…ありがとう。K・Kの言うとおりだな。僕は自分のことばっかりでレオの気持ちをちっとも考えていなかった」
「お礼を言われる筋合いなんてないわ。私はレオっちの為に言ったんだから。…くぅっ…!なんでレオっちはこんな男のことを…!スティーブン!レオっちを泣かせたらタダじゃおかないからね!?こめかみに風穴があくと思いなさい!」
「心得たよ」
K・Kに相談してよかったよ。
嫌な顔をされると分かっていながらスティーブンはそう告げ、バーを後にした。
正直、どこからどこまで踏み込んでいいものか、このひと月、スティーブンは真剣に悩んでいた。
そして今日、K・Kに話したことでやっと決心がついた。スティーブンは今すぐにレオナルドに会いたい、とはやる気持ちを抑え、足早に人ごみを掻き分けて歩いた。
***
「スティーブンさん?」
「レオ、今帰りか?」
「あっ、はい。スティーブンさんもですか?」
「ああ。ははっ、すごい偶然だな。」
「僕も驚いてます」
笑いあいながら自然に横に並んで歩く。1ヶ月の付き合いは決して無駄ではない。確かに蓄積されているものがあるのだ。
スティーブンは浮かれていた。
今日はもう遅いから会えるのは明日になるだろうと思っていた。指を絡め、愛する人の体温を感じ、最高に幸せな気分になっていた。
「レオ、この後、もしよかったらうちに来ないか?」
「え?」
「話したいことがあるんだ」
「……」
すると、先ほどまでの和やかな空気が明らかに変わった。
俯き加減のレオナルドの表情はスティーブンからは見えず、おかしい、と感じたスティーブンがレオナルドに問いかける。
「レオ?」
「っ……」
「!?レオ、どうしたんだ!?」
見るとレオナルドは泣いていた。
眉間に皺を寄せ堪えようとしているのだが、その目からはあとからあとから涙の粒がころころと零れ落ちるばかりである。
うろたえたスティーブンはショックのあまり一瞬言葉を失いかけたが、それでもレオナルドに問いかけた。
「レオ、どうしたんだ?俺がなにかしてしまったのか?泣かないでおくれ、レオ…」
「っ…すみませ…!…僕、こんなにも、弱い奴だったなんてっ…っく!…」
「とりあえず、あっちのベンチへ行こう。俺はいつまでも待つから。ゆっくりでいいから。なにがあったか教えてくれ」
肩を抱き、表通りから離れると人通りの少ない公園にきた。
スティーブンから渡されたハンカチで涙を拭きながらレオナルドはしゃくりあげたせいで上がった呼吸を整えていた。
「大丈夫?」
「はい…。突然すみませんでした。」
大きく深呼吸してレオナルドは覚悟を決めた。どうせ引き伸ばしても分かることだ。でも、ああ、やっぱり自分はこの人のことを愛しているのだな。
また涙が滲みそうになるのを鼻をすすり上げてごまかし、ゆっくりと話しはじめた。
「僕たち、もう付き合い始めて一ヶ月になるじゃないですか」
「うん」
「デートも結構な回数したし、スキンシップも増えたと思うんすよ。」
「うん」
「でも、一ヶ月も経つのに、それ以上が、ないじゃないですか。」
「っ…レオ、それは」
「僕が、こんなだから、魅力が、ないのかなー、なんて…、本当は、僕に合わせてくれているだけで、無理に付き合ってくれてるのかなー、なんていろんなこと、考えちゃって、」
「レオ、そんなことはない!」
やばい、また泣きそう。そう思いながらも震える声で必死に続ける。
「だから僕、あーやっぱり飽きられちゃったのかなって。っ……スティーブンさんの家にいったら、全て、…終わってしまうような、気が、っ…!」
涙が零れるよりも先に、唇が塞がれた。
突然のことにレオナルドは目を見開き眼前にスティーブンの顔があること、そして唇に確かに感じるやわらかい感触に、初めて自分がキスされていることに気がついた。
「っんぅ…!」
息が苦しくなって開きかけた唇に生暖かいものが入ってくる。
それはスティーブンの舌で、口内を好き勝手に動き回る。レオナルドの腰が驚いて引きそうになるのをスティーブンの手ががっしりと抑えてそれを阻止した。
ジュッと音を立ててレオナルドの舌を吸い上げると、ようやくスティーブンは唇を離した。
まだ驚いて放心状態のレオナルドが戸惑いがちにスティーブンを見上げると、熱を持った眼差しで見つめ返されて、ドキリと心臓が跳ねた。
息も荒く、ギラつく、欲望に濡れた目。こんなスティーブンははじめて見る。
「魅力がないなんてそんなことを言うな。俺はいつだってレオにこういうことをしたいと思っている」
肩を引かれ、痛いほどに抱きしめられる。レオナルドの中にスティーブンから愛されているという実感が急激に溢れてきた。
「ご、ごめんなさいぃ…」
「いや、謝るのは俺の方だ。レオを不安にさせていたことに気づけなかったなんて」
きつく抱きしめ合い顔を見合わせる。
二度目のキスは、息が止まってしまうくらいに長い口付けだった。
END.
いつもだったらあとがきなんて書かないけど言わせて下さい。
もーリア充爆発しろーい!笑
何度も砂糖吐きそうになりながらやっと書いた。
ラブラブ慣れない。
読み返すたびにK・Kさんに泣かせるな言われておきながら速攻泣かせてるのおかしい。なにが「心得たよ」(笑)だwwってめっちゃ面白かった。
相談相手のお二人は悩みはセックスにふみこめないことだと思ってますが、実際はキスできてないこと、ってのも…。
ピュアか!!!
それだけは言いたかった…。
もっと文章うまくなりたい…
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