「いいか少年、世の中には二種類の人間しかいない」 「はぁ」 「愛する人間と愛される人間だ」 「はぁ」 「少年はどっちがいい?僕に愛されるのと愛すのと」 「二択!!!!」 「あ、もう僕が愛してるから一択だったね。少年ん〜愛してるよ〜」 「誰だ!3徹明けのスティーブンさんを飲み会に連れてきたのは!!!!!」
首に腕を回されてガッチリホールド。 頬には何度目かのキスを受けレオナルドはぐったりしていた。 周りにはライブラメンバーもいるものの、皆スティーブンの乱れっぷりにある程度の距離を置いていた。 レオナルドを生贄にして。
「あーんレオっちごめんねぇ、こうなったらこの男は本当に厄介だから。でも安心して!万が一の時は助けるからー!」 「もうすでに万が一が起きてるよ!!K・Kさんん!!声がするのに見当たらないってどういうことですかああああ!!!」
大きな山が解決してどんちゃん騒ぎをするのはわかるが。この人は寝かせなきゃだめでしょ!? レオナルドは常日頃、スーツをキチッと着こなし、冷静に物事を判断し、皆に的確な指示を与える、ザ・仕事が出来る男なスティーブンを見慣れているだけに、このギャップには参った。 本当に何で来たのこの人??その疑問の答えは実にシンプルである。仲間はずれは寂しかったのだ。 そんなスティーブンの心の内など解るはずもなく、レオナルドはしかしなんとかこの状況を打破しようともがいていた。
「ほら、スティーブンさんロレツ回らなくなってるじゃないっすか!潮時っすよさすがに」 「ん〜?いやいや何を馬鹿なことを。それとも何かい?誘っているのかい?少年がお相手してくれるのなら僕は大歓迎だよ。二人でパーティーを抜け出そうか…?」 「無駄にいい声!!そういうのは女性相手にやってくださいよもー!」 「レオナルド君」 「え、なんですかクラウスさん」
気がつけば横には図体の大きな男クラウスが立っており、ちょいちょいと遠慮がちにレオナルドの服の裾を引いていた。
「スティーブンも皆と充分楽しめたと思う。だがこれ以上は私も心配だ。すまないが一足先にスティーブンを家に送り届けてやってくれないか」 「そういうことなら、この人もなんでか僕から離れてくれないし。わかりました!速やかにスティーブンさんを連れて帰ります!」 「ありがとうレオナルド君。タクシーは呼んであるから表で待とう」 「なんだなんだクラウス、心配は無用だよ俺はまだまだいける」 「はいはいスティーブンさん、お望みの二人でパーティーを抜け出しますよ。立てますか?」 「ああ、そういうことか。さあ少年、エスコートしよう」 「はーい前の机蹴り飛ばさないでくださーい。ゆっくりでいいんで右の方から出ますよー、はい、みなさんちょいと失礼、スティーブンさんがお帰りでーす」
また飲もうぜーおつかれおつかれーなどと声が飛び交う中、スティーブンの両脇をクラウスとレオナルドで支え、なんとか入り口にたどり着いた。タクシーの天井縁に頭をぶつけないように気をつけながらスティーブンを奥に詰め込むとレオナルドも乗車した。 そして、クラウスの見送りに後部窓ガラスから見えなくなるまで手を振り終えたレオナルドは、ようやく一息つくことが出来た。 横を見やるとスティーブンが目を閉じて座席にもたれかかっていた。この人もあんな風に羽目をはずすことがあるんだなぁ。 びっくりしたけど意外な一面を垣間見れたな、とレオナルドは一人思い出し笑いをした。窓には明るいネオンの光がきらりきらりと反射し、いつしかそれは遠くなっていった。
部屋の鍵を開けてもらい中に入る。正直自分よりでかい男をさてどうやって担いで連れて行こうかと悩んでいたのだが、意外にもスティーブンはふらつきながらも自分の足で歩き、レオナルドは腰に纏わりついて支えるだけですんだ。 鼻歌交じりに上機嫌なスティーブンをベッドルームへ連れて行き、スプリングを鳴らしてベッドに座らせる。
「それじゃあスティーブンさん、ゆっくり休んで下さいね。僕はもう帰りますので」
やれやれこれでお役御免、とレオナルドは立ち上がりかけたはずだったのだが、首に再びスティーブンの腕が巻きつく。そのまま一緒にベットに横たわる形になりレオナルドはヤバイ。と思った。このまま、また絡まれ続けたら今度こそ帰れなくなる!
「つれないな、少年。もうちょっとゆっくりしていけよ」 「いやいやいやこれ以上は!僕がいてもお邪魔でしょうし!帰ります!帰らせてください!つか近い!顔ちっかい!酒臭い!」
ぐぐぐとスティーブンの顔面を押して少しでも離れようと試みた。が、スティーブンはかまわれて嬉しそうに笑うばかりで逆効果だ。
「少年は、パーティーを抜け出した二人がその後なにをするか、知らないわけじゃないだろ?」 「それは男女の話であって僕らは対象外です!!っつかその話まだ続いてたのかよ!?メンドクセー!」 「少年、名をレオナルドと言ったか。いい名だ…」 「茶番はじまった!変なスイッチ入っちゃった!もういい加減にしてください!…うわ!っちょ!キスも駄目!」
ちゅっちゅっと音を立ててレオナルドの顔にキスの雨を降らす。知らなかったわースティーブンさんって酔うとキス魔になるんだー。学習した。飲む時はこの人に近づかない。絶対にだ!半ば諦めてされるがままになりながら、レオナルドは次回の飲み会のシミュレーションという名の現実逃避に入っていた。
「!?」
が、すぐに現実に引き戻された。耳にぬめりを感じ、全身が硬直する。少し遅れてスティーブンの舌がレオナルドの耳を這うように舐めたことを理解した。
「ちょっと!ふざけすぎっ…っ!うぁっ…!」
ピチャリと音を立てて耳の内側を舐められ、思わず変な声が出た。ぞわぞわと背筋から何かが這い上がってくるような初めての感覚にレオナルドは混乱した。 逃れようともがくもののがっちりと抱きしめられていて身動きが出来ない。
「…いっ!…やだ!…はなせ!……んん!」
いやいやとかぶりを振るものの、余計に耳のあらゆるところに舌があたり、逆効果でしかない。
「…ふぁ!…もっ…やめっ……っ……ぁ!」
くちゅくちゅと唾液がいやらしい音を立てる。ざらりとした舌の感触に肌があわ立つ。 レオナルドは口から漏れている甘い声は本当に自分のものなのかと、どこか客観的に思いながら、たまらず目を閉じた。
スーーー。
「……え?」
それは唐突に終わった。 レオナルドを抱えたままスティーブンは寝落ちたのだ。残されたレオナルドはまだ心臓の早鐘が納まらない。荒くなった呼吸を静かに整えてからゆっくりと頭を抱えた。
「…少年、その、すまない」 「覚えていますか昨日のことを」 「確か、タクシーに乗った、と、思う。」 「そうです。めっちゃ一部分じゃねーか」 「う…俺は少年になにかしてしまったのか…?」 「覚えてないとか酷いです!あんな辱めを受けたのに!!」 「!!!」
翌朝、結局そのままベッドを共にし(添い寝)、目覚めたスティーブンは寝心地のいい抱き枕だと思っていたものが、自分の部下だったことに飛び上がることになった。 レオナルドは散々誇張して昨夜のことを話し、スティーブンは二日酔いでガンガンする頭を押さえながらそれを正座で聞き、平謝りするばかりであった。
レオナルドは内心、あの時ちょっとでも気持ちいいと感じてしまった後ろめたさにこっそり蓋をして、後日、お詫びにご飯を奢ってもらう約束を取り付けることに成功したのだった。
END.
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