らん らん らん
ここは箱庭の世界。
僕と兄さんしかいない、しあわせな世界。
誰にも邪魔はさせないんだ。僕たちはそれでしあわせなのだから。 なのに時折耳障りな声がするんだ。はっきりと聞こえはしないけどざわざわ五月蝿いなぁ。 放っておいて欲しい。誰だか知らないけど関係ないでしょ? この中はとても居心地がいいんだ。隣には兄さんがいていつだってやさしく笑ってそこにいる。「僕の律」「かわいいかわいい僕の律」唇から零れる聞き親しんだ兄さんの声に堪らなく身震いする。ああそうだよ兄さん。もっと呼んで。 兄さんさえいれば、他には何もいらない。 兄さんをぎゅっと抱きしめる。あまり強く抱きしめると潰れてしまうかもしれない。それくらい兄さんの背中は薄く、儚げだ。 僕が傍にいるよ。僕がいつまでもずっと一緒にいるから大丈夫。ここにいればいいんだよ兄さん。何も怖いことなんてない。何も起こりはしない。誰も兄さんを傷つけられない。僕が守る。一歩だってここから出させはしない。 兄さんが僕の全てで僕の全ては兄さんのものだ。 誰かに解ってもらうつもりなんてないよ。いいんだ、そっとしておいて。僕たちのしあわせを壊さないでよ。
おかしいな。 前より耳鳴りが酷くなった気がする。五月蝿い黙れ。いい加減にしろ。 そこから一歩でも踏み込んでくるんじゃない。 ひどく頭が痛い。脳がぐらぐらと揺れている気がする。気持ちわるい。たすけて。たすけてにいさん。 「律、律しっかりして。僕が傍にいるから」ああ兄さん、ありがとう兄さん。兄さんがいてくれるならこんな痛み、なんてことはない。大丈夫、しばらく我慢すれば治まるから。こんなのどうってことない。いつものこと。
そうしてまたもとどうり。
「それじゃ駄目だよ、律」
は?今何か聞こえた?そんな馬鹿なありえない。だってここには僕と兄さんしかいないんだから。他の誰かが入り込める隙間なんてひとつもない。 完璧な箱庭なんだから。 やめてやめて、入ってこないで。どんな手を使ったか知らないけどあなたに関係ないでしょ。ここがいいんだ。僕たちが選んでここにいることを決めたんだから。お願い。お願いします。これ以上邪魔をしないで。
不安になったぼくは隣にいる兄さんの手をぎゅっと握った。見れば兄さんも表情が硬い。兄さんにも、この声が聞こえているというの?そんなの、そんなの駄目だ。許さない。兄さんの耳に入る声は僕だけのものじゃないといけない。兄さんに触れていいのは僕だけ。大事な兄さん僕だけの兄さん大好きな兄さん、兄さんは兄さんが兄さんの兄さんに兄さんへ兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さ兄さ兄さ兄さ兄さ兄さ兄さ兄さ兄さ兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄兄
「に い さ ん」 「なに?律」
あ あああ あ 僕は安堵した。とてつもなく安堵した。この上なく満ち足りた気分だ。名を呼んでくれる。傍にいてくれる。僕だけの兄さん。よかった。本当によかった。それだけで僕はもう。 僕はもう大丈夫。
「今回も駄目でしたね」 苦々しげに顔を歪めてやり場のない怒りを壁にぶつける。 ぶつけたところで傷のひとつもつけられはしないのだけど。
茂夫は先ほどから涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったままの顔をその胸に何度も押しつけては肩を揺らしている。震えがとまらない。 霊幻が眉間に皺を寄せたままポツリとつぶやく。
「匙を投げるにはまだ早い。何度だって呼びかけてやるぞ、お前がこっちに帰ってくるまではな。なぁ律よ。」
エクボが視線を向ける。
「あたりまえじゃないか。なにがなんでもひっつかんで連れ戻してやる。本当の僕のいる場所へ。」
ろうそくの炎のようにゆらめくことしかできなくなった律のかけらがしっかりと答えた。
ら らら ら
ここは 箱庭の 世界
ぼく と にいさんしか しか いない
しあわせな せかい
誰にも そう だれにも じゃま は させない
それがた とえ
ぼ
く
じ
し ん だ と し て も
END.
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お題「もつれ合うように転がり落ちる/恋は盲目/逃げ場なんてどこにもない 」
診断メーカーのお題を参考に書いてみました。一度は書いてみたかった病み律。 勢いで書き始めてなんか自分でもわけわかんなくなったのでおかしいとこいろいろありますがご容赦ください。
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