!小十(→)(←)佐
!幸村でません
!し、すでに死亡しております
!そして佐助死にます
!かなり注意












笑い声が止まることは今のところなかった。くすくすくす、と忍は小さく、しかし堪えようとはせずに遠慮なく笑う。
おかしいね、おかしいな、と自分をただただ抱きしめている男へと呟いた。しかし男はそれに答えない。答える代わりに、抱きすくめる力をさらに込めた。
男は笑えなかった。笑えないし、なぜこうも彼は笑うのだろうかと疑問に思いもしたが、いやはやそんな疑問など自身にとって今は必要がなく、考えは捨てることにした。
それと同時に拾ったものがある。それは今まで実行したことがなかった勇気である。今しかない、今じゃないとだめなのだ。そう感じれば、彼を抱きしめないはずがなかった。
「片倉の、だんな」
忍は言う。男を、呼んだ。
男は忍の、けしてたくましくはない、だけれども華奢なわけでもないその肩口に顎を乗せれば、眉間の皺をさらにいっそうふかくした。
「なんだ、」
ただ一言で応える男は、いつもらしくはあったが、それとは逆に「らしくないよ」なんて忍は笑いながら言った。
「どうして、泣いてるのさ...」
涙の音を耳のすぐ横で聞きながら忍は言う。たしかに、男は泣いていた。男が人前で泣くのは、記憶上初めてであり、そして、最後だろう。忍は正直にそう思い、やがてまた笑みを作った。
「どうして泣いてるの..」
静かに涙を流す男は、笑う忍をただただ抱きしめ、勇気を小さく告げた。
「好きだ...」
男は掠れた、しかしはっきりとした声でそう言う。
「...好きだっ、」
今度は少し力強くしながらもう一度言えば、顔を忍の骨ばった肩にぎゅう、とうずくめた。
愛おしくてたまらなかった。それ故に、離したくなかった。この胸にある、愛おしい存在を。
できれば、一生。
離したくない。
離したくはなかったのだ。


「......ふふっ」
それでもやはり忍は笑った。
「いまさら、遅いよ、片倉のだんな..」
そう言った忍の口は彼が大切であった主人の色と全く同じ色で染まっていた。
ごぷり、と音がする。忍は流す。目から出る透明な涙ではなく、刃物で切り裂いた彼の胸から腹まではしっている深い傷からの血を、だ。
男が先ほどから力強く忍を抱きしめていて、それはすごく傷にさわるはずなのだが、忍は一切抵抗も、はたまた文句も言わない。
なぜならば、これから先、自身がどうなるのか、なんて当に見据えているからだ。
「おかしいね、」
忍は、いつか言った言葉を、また口にした。おかしいな、おかしいね。彼はひらりと笑って言う。
「どうして泣くの。だって俺様を斬ったのは、まぎれもない、あんただよ。」
なら後悔しないでよ、泣かないで、だなんて優しく、だけども笑いが止まらないらしく笑ったまま忍は言った。
それに応えない自分は卑怯だと男は思った。なぜならば、斬ったそれは事実であるから、もちろん言い訳など見つからずに、でも後悔しなければ、彼に対する想いが嘘だったように感じ、後悔するしか男にはなかったのだから、忍の言葉には応えきれなかった。
たしかに男は忍を斬った。
なぜならば、男にとって命よりも大切な人を忍が殺そうとしたからだ。
男にとってその人は全てであり、そしてその人を守るためならば、全てを捨てる覚悟を持っていた。
だからこそ、好いた彼を、つまりはこの愛おしい忍を躊躇なく斬ったのだ。
「あー...惜しかったな...あともうちょっとで真田のだんなのカタキが討てたのになぁ...」
この忍だってそうだ。主君のためならば、なんにだってなれる覚悟があったはずだ。そうでなければ、命を捨ててまで、死んだ主君の敵討ちなど、忍者がするはずはなかった。彼にとっても、主君が全てだったのだ。
「片倉のだんながねー...来なかったらねー...」
「おまえの動きなんざ、見切ったからな」
「うっわ、俺様しのびなのにすごくショック」
そう言いながら忍は男から身体を離しながら、じっと男の顔を見つめた。
男も忍の顔を見つめた。元々日を知らぬ白い顔は、色を変え青が増し、青白くなっていた。その訳を知っている男の胸が、ぎゅうと引き締まる。

「ばかだねぇ、あんた。好きになった相手が、男でしかも俺様だなんて。わかってたろう、お互い一番になんか、なれやしないってこと」
笑った忍の、その時の表情ばかりは、明らかに苦々しく、その表情の意味を男は上手く理解できなかった。
それでも男は、忍を視界からはずすことはなかった。
「そうだな、ああ。そうだ。だけどな」
猿飛、と男は言う。
「俺は、おまえが好きだ。好きだった」
ほろり、と涙がまたこぼれ、忍の頬に落ちた。
最初で最後の恋よ、さよならだ。
だから最後に言わせてくれ。
「好きだ」
呟けば、忍は、笑った。
笑って、咽せて、ああごめんねもうさよならだね、だなんてにこやかに言う。
「ああ、面白かったよ片倉のだんな。最後に可愛いものを見せてくれてありがとうさん」
そう言って憎まれ口を叩くその忍は、確かに男の流れる涙を優しく拭った。
そして微笑む。

「またね、」

忍はそう言って、静かに瞳を閉じ、意識を手放そうとし、嗚呼そうだ、と力なく言った。

「忘れてたや、片倉のだんな。」



彼は最後の笑みで、男に最初で最後の言葉を告げる。


「おれもあんたの事好きでしたよ」







男は思った。
最後までその忍は、性が悪く、それでいて愛らしかった。
己は二度と彼の言葉を忘れない。それを思い出す度に後悔が己をせめたてるだろう。
でもそれでもいいのだと男はたしかにそう思った。
それで彼の存在が自分の中で忘れられずにとどまるのであるのなら。
愛おしいこの想いが死なないのであれば。
後悔など一生胸に染み込ませてやろう。


男はそう思い、しかし今はせめて泣かせてくれと、流れる涙を拭うことは絶対にせずにただただ冷たい愛おしかったものを抱きしめながら泣いた。



この後悔の
(ただの恋なのかもしれない、だなんて)
















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恋は恋でも悲恋な恋
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