!子さすけと大学生幸村シリーズ
!だが幸村出番なし
!NLあり
!輪廻転生














おれさまが、だんなと出会うまえまでは。

だんながいつか転校生として、おれさまの目の前のこくばん前に立って自己紹介して、おれさまはかんどうしきってきっとそんなベタなシチュエーションでも泣いちゃうんだろうなぁ、なんて思ってたりして。
だんなにきおくがあろうがなかろうがそんな事はきにしない。であったその瞬間に、おれさまはたちあがってだんなの手を力づよくにぎりながら、この教室からとびだそう。そしてだんながわからなくても「おかえり」なんてぐしゃぐしゃに泣きながら、えへへ、と笑いながら抱きつくんだ。
そんなことをすごくのぞんでて、まいにちのぞんでて、期待もしていて、そして何もなくあさのホームルームが終わればいつもがっくりした。
ぐうぜん的に(いや、きっと大将のたくらみのおかげさまなのだと思うけど)だんなと出会ってからは、もうそんなどきどきもがっくりもしなくなったのだけれど。


そんなベタな再会が、まさかげんじつになるなんておもわなかった。









「はじめましてとおひさしぶり」
はじめまして、はみんなに向かって。
おひさしぶり、は先ほどから目がばちっとあっているおれさまにいっているんだろう。
みんなにどよめきがおこる。だってそうだ。京都からおひっこししてきたといった転校生くんが、おれさまに向かって「おひさしぶり」といってきたんだ。
それにしても、とおれはおもう。
あいかわらずいいおとこ、いや、今はいいおとこのこだな、なんてこころのなかでつぶやく。
ニコッとしたこの笑みに、今きょうしつの中にいるおんなのこ何人このおとこのこにおちただろうか。あいかわらずおんなのこの事くわしそう、なんてくすくすおれは笑う。

「うっわ。ひさしぶりだねけいじくん。」
まえだけいじ、と同じ名と同じととのった顔を前世そっくり持ってあらわれたそのおとこのこは、にかり、と笑った。
「元気そうでなにより!さっちゃん、こいはしてるかい?」
転校生はあいかわらずそんなことをいうんでおれはわらいながら「ませがき!」といってやった。












やすみじかんになって、学校の中をあんないしてくれよさっちゃん、って彼はおれさまに言うもんだから、いいよ、なんて言っておれは席を立った。
おんなのこが何人か同行を願ったけれど、けいじくんは苦笑しながら「ごめんね」とあやまった。おれと二人で行きたいらしい。
どうやらむかしばなしがしたいのだろうな、とおれは悟って、あまり誰も通らないろうかをあんないしてあげた。
そこで、おれはぴたり、と止まった。それと同時にけいじくんもぴたりと止まった。
けいじくんは、ふっとこの歳にしては大人びた、しかしあの頃と比べればとても幼い笑みを作り、おれにあらためて「ひさしぶりだねぇ」といった。
おれは肩をすくめて、ほんとそうだね、なんて困ったようにわらいながらそう言った。

「まさか、ふうらいぼうのだんなが転校生になっておれさまの前に現れてくるなんて、おれさまきいてないよ」

「はははっ!だって言ってないしねぇ」

そう笑ってけいじくんはあの頃と比べたらかなり短くなった、肩くらいあるかみのけをごうかいにかいた。

「ほんと、げんきそうでなによりだよさっちゃん」

けいじくんは、わらいながら、それでいて真剣にそう言った。
「さっちゃんは、あえたんだね」
誰に、なんてわかりきったことだ。
おれは、ふふふ、と口をおさえながらほほえんだ。
「いま、いっしょにすんでるんだ」
「え?うっそぉ!」
「えへへ」
おれがしあわせそうにほほえめば、こいの匂いがするね、なんてけいじくんはニヤニヤしながら言うもんだから、おれはよけいにおかしくて笑った。
「だめだよ。大学生だもん。」
「こいに歳の差はかんけいないさ!」
「おとこどうし〜」
「かんけいなーい!」
「そうかな?」
「そうだよ!」
しばらく笑いがつづいた。笑うのをやめたのは、けいじくんの方からだった。


「もう、てばなさないで」


おれを見て、泣きそうな顔でそう言って、そしてまた微笑むもんだから、おれはさとった。
けいじくんは、何回もうまれかわって、沢山おれがしぬのを見てきたんだな、て。

「おれは、さなだのだんながだいすき」

おれが一言、そういえばけいじくんは満足そうに頷いた。
まるで自分のしあわせがうれしくてしかたがない人のように。
自分のことのように。
それは戦では似合わないな、とあの頃感じた笑顔とかわってなくて。
おれは、聞いた。

「けいじくん、あんた恋してるでしょ?」

おれがそう聞いてけいじくんはすごく驚いて、ばれた?なんて言い出した。
おれは、うん、と頷いた。

「恋してる、かおしてるよ」

そうかい?とけいじくんは笑う。

「だれが好きなの?」
そう聞けば、けいじくんはにこにこと笑って、人差し指を唇に当ててはこう言った。

「なーいしょ」

あいかわらず手ごわいな、なんておれさまは思わずわらった。








さよーなら、とみんなが次々に教室から出て行く。おれも早くかえらなきゃ、今日はおやさい値段やすい日だ、早くしないとなくなっちゃう、と呟いていたら、けいじくんが「おれも買い物てつだうよさっちゃん!まつねぇちゃんからおつかいたのまれてんだ!」なんて元気いっぱいに言ってきた。
まつさん?とおれは聞く。
また出会えたんだ、とさとってけいじくんを見れば、「おれを産んでくれたんだ」と笑ってこたえてくれた。

「へぇ、こりゃおどろいた。まえだ夫婦の子供になっちゃったんだねぇ。だからまたまえだなのか、なっとく」

お母さんにねぇちゃん呼び?と問えば、二人とも記憶があるから別に変に思われないんだ、とけいじくんは笑った。

「二人とも、教室鍵閉めるから早く出なさい?」
後ろから、かすが先生がこえをかけてきたんで、おれとけいじくんはそそくさと教室をでた。
けいじくんは、思い出したようにランドセルをがさがさと探ると、一枚のかみきれをとりだし、教室の戸締まりをしていたかすが先生に「はい」とわたした。
おれと同様に、かすが先生も「なんだこれは」とハテナマークを浮かべていた。けいじくんは笑って「入場券!」と叫んだ。
「こんどこっちのちかくの美術館で、ゆうめいな画家さんの絵の展示会があるんだってさ!その画家さんもくるらしいよ!先生かわいいからあげちゃう!それ」

はぁ?とかすが先生はよけいにハテナマークを浮かべ、おれは入場券を見て、ああ、となっとくした。

「おれ絵なんか興味ないしさ!」
「わたしだって無い。」
「いや、興味もつよ」
最後に言ったのはおれだ。
かすが先生はよけいに眉をひそめ、なにいってんの、と呟いた。
おれはにかり、と笑って、「この画家さん、すげぇせんせー好みだよ」と言って逃げるように走りだした。
けいじくんも無理やりかすが先生に入場券を握らせ、「さようなら先生!」と叫びながら逃げるように走り出した。
何か後ろから聞こえたが、ここは暗黙のりょうかいで、おれたちは声を全部むしした。









スーパーに入り、野菜コーナーに全力ダッシュをして野菜をカゴに詰め込んだとき、けいじくんがいないことにおれはきがついた。
一生懸命探してみたら、けいじくんは外にいた。おつかいのことをけいじくんは完全に忘れていた。
けいじくんはへらり、と笑っておまわりさんと話している。おれはけいじくんのとなりに来て、おつかいは?と聞けば、それどころじゃないんだ、とけいじくんはわらった。
あいかわらず恋が好きなんだな、とおれはけいじくんと真っ赤になっているおまわりさんを見て思った。
「わわわ私はただ、あの女の人が心配で、その、け、警護だ!警護!あれだけの容姿であったら、その、ストーカーとかいるだろう!それはいかん!ストーカーは悪と同じく削除だ!」
「ははは!おまわりさんは、あの人が好きでしかたなくて心配だから警護してるんだね〜!ごくろうさまです」
「こ、子供がマセた事を言うな!すすす好きなわけではない!」
真っ赤になったおまわりさんは、手をブンブンとふる。おれは、相変わらず堅いお人だ、とため息をついた。
「ならあの女の人に言ってこようか。けいじくん。あのおまわりさんがアナタのこと好きでもなんでもないらしいですよ〜って」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!橙の君!」
ゆっくりスーパーの入り口に向かったおれの肩を勢いよくつかむおまわりさん。
それをげらげらと笑うけいじくん。
けいじくんは、さんざん笑ったあと、スーパーの入り口付近で売ってある一輪の花を指さし、今度は微笑みながらこう言った。

「あの女の人ね、この花が好きなの」

けいじくんは、その一輪をすっと手でとって、おまわりさんに渡す。

「いつも眺めていてね、そしてそっと指先で触るんだ。それがひどくかなしくてね。まるでだれかにこれをわたしてもらいたいように、何かを待っているように見えておれそれがとてもかわいそうに見えてさ」

それはユリの花。
おまわりさんの手の中で小さく揺れた。


「それを片手に、あの女の人に笑いかけてあげて、元気だしな、って言ってあげるのって、それってすごく素晴らしいことじゃない?おまわりさん」

けいじくんはそう言って笑った。
笑って、じゃあねおまわりさん、と言っておれの手を掴んでまた逃げるように駆け出した。
うしろを振り返れば、何かを思いつめたようにスーパーの中に入って、レジにたっている暗い女の人へと向かうおまわりさんがちらりと見えた。
おれは思った。
ほんとうに、けいじくんはおつかいを忘れている。














ちょっと寄っていい?とけいじくんが言って寄った場所はごくふつうの一軒家。
けいじくんはちょうちょなくピンポーンとベルをならす。
すると出てきたのは一人の綺麗な女の人っ、おれは思わずあっと息を飲んだ。
けいじくんはにかり、と笑った。

「こんにちは、や、こんばんは、濃おねぇさん!」

相変わらず綺麗だな、と感じた。蝶のかんざしが、よく似合う。
濃おねぇさんはしゃっくりをあげて、それ以降はおさえ、そして弱々しく笑った。
「あら、いらっしゃい。けいじくんに、お友達くん」
「濃おねぇさん泣いてたの?」
けいじくんは直球にそれを問いた。大胆だなぁ、とおれは正直に思った。
「もしかして、また夫さん?どうしたの?」
「....私より、仕事が大事らしくて」
あまり帰ってこないのよ。かのじょは弱々しく笑った。ずいぶん弱くなったな、でもこちらの方がまだ可愛げがある、なんておれが思っていたら、けいじくんがとなりで大笑いした。
「濃おねぇさん、もしかしてお仕事にしっと?かっわいいねー!」
そう笑えば、だけど安心して!と彼は自信まんまんに言った。
「かいしゃにとまって残業しているのにはね、理由があるの!利が言ってたよ」
「理由?」
かのじょは顔をあげた。うん、とけいじくんは元気よく頷いた。
「濃おねぇさん、明後日たんじょうびでしょ?」
あ、と濃おねぇさんは目をまんまるくして小さく叫んだ。
「信長のおじさん、そうとうお仕事頑張っているらしいよ?利が社長、奥さんにプレゼント用意するために仕事頑張ってたな、なんて言ってたから!」
だから、泣かないで笑って帰りを迎えてあげてよ、なんてけいじくんが笑うから。
濃おねぇさんは幸せそうにほほえんだ。














「けいじくん」
「ん?」
「おれさま、けいじくんが恋している相手、わかっちまった」
「ほんと?」
「しのびをなめてもらっちゃ困るよぉ!」
「ふーん?じゃあ、当ててみてよ」
「ふふふ。いいよ?けいじくんが恋した相手は...――――」

















「それで?慶次殿が好いたお相手とは?」
さなだのだんなは今日安く買った野菜をおはしでつつきながら、おれへと話の続きを求めた。

「あはは。恋の話なんて昔のだんなだったら、はれんちー、とか叫んでたのにね!」
「う、五月蝿いっ!あ、あの頃はなぁ..そ、それなりに幼くてだなぁ...」
「ふふ、19で幼いなんてどんだけ..」
「ええぃ!だから慶次殿の恋相手は....」
「あ、だんな、おみそしるさめちゃうよ」
「いかん!」


そう言ってだんなはあわてておみそしるを吸って、あちぃ!と騒いだ。
おれは笑う。
なんとも微笑ましい光景だろう。
だんなもおれも含めて。
微笑ましい光景なのだろう。
けいじくんに見せたいな、とおもう。
だって、けいじくんのお相手は、今ここに存在しているんだもの。




彼はに、恋をした。




だから彼は、他人のよろこびによろこんだり、かなしみに悲しんだりするんだな、なんておれは思った。
もし、数日たって、かすが先生が大きな声で芸術家の名をばらを飛ばしてさけんでいたり、あのレジの女のひとがもらった花を見てうっとりしていたり、はたまたプレゼントの指輪を薬指にはめた濃おねぇさんが笑っていたりしていたら。
けいじくんは、恋をするだろう。















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