!幸佐でも佐幸でも佐かすでもない
















「そんな困った事聞いちゃうー?」
そう言って苦笑しながら猿飛佐助は頭をガシガシ、と荒々しくかいた。
困ってなさそうに唸っては首を傾げていた。事実、猿飛佐助の心の中は本当に困っているだろう。読心術を使った訳ではないのだが、私はその時確かにそう悟った。
さわさわさわ、と私達二人を囲んでいた木々の葉が風に揺れる。葉の揺れる音が沈黙と共に流れてきたために、まとわりつく空気がいつもより一段と重力が増した気がした。それはきっと猿飛佐助かて同じ面持ちなのだろうと私は思う。

「答えられないか。なら私が当ててやろうか猿飛佐助。」
私がそう言えば猿飛佐助は苦々しく、しかしあっさりと簡単に笑った。その表情を作るのはきっと彼にとっては慣れた行動なのだろう。あるいは無自覚か。

「俺様の事をまるで全部知っているような感じじゃない。そこまで俺様の事調べてくれたの?かーすがっ」

そう言う猿飛佐助の笑いはやはり作った笑みで。嗚呼、私はきっと一生かけてもこいつの本当の笑みを見ることはないだろうな、とそう悟った。

「お前は、弱い。それでいて脆い。そうだろう?猿飛佐助」

そう私が呟けば猿飛佐助は目を丸くし、乾いた声で笑った。それは驚くほど心地よく周りに響いていた。

「お前がそれを言いますか」
「そうだ。」
「俺、そっくりそのままそれ言っちゃっていい?」
「自覚しているから結構だ。」


俺は自覚してないんだけど、と猿飛佐助はぽつりと呟いた。

「そもそもそれ質問と関係があるの?」
「大いにな。質問の答えでもある。」
「うっそだぁ」
「なら答えを示せばいいだろ猿飛佐助」

そう言えば猿飛佐助は黙りこんだ。
私はわかっていた。こいつは答えを出せないのではない。答えを知らないんだと。

私は、質問をもう一度猿飛佐助へと投げた。



「お前はどうして敵である私を傷つけない?どうして味方である真田幸村を傷つけない?」



答えない。見つからないのだ。その答えが。
真田幸村を傷つけないというのは当たり前である。そいつは猿飛佐助の主であるためだ。
しかし私は違う。敵だ。真田幸村にとっても、猿飛佐助にとっても。私は彼らにとって敵の存在なのだ。

私は何回か猿飛佐助とクナイの刃を交えた事があった。そして勝った事はない。悔しいがやつの方が力も技術も頭も上だ。
しかし、だ。私は何回負けようがやつに殺される事はなかった。いつも最後には助けられるという結末だ。



敵の私が大切な存在なのだろうかと私は思った。
そう思ったが一つ疑問が浮かび上がった。
真田幸村の存在である。猿飛佐助は一度だって真田幸村を裏切った事がない。それはこれからもそうだろう。


もし私が、猿飛佐助の大切なものであるのなら。
真田幸村を裏切って首をとるだろう。
何故なら真田幸村は私の敵であるからだ。
しかしそうしないのは真田幸村が大切であるからだ。
ならば私の首をとればいいのにやっぱりあいつはそのような事は一切しない



選べないのだ
自分の大切な主人も
ただの同郷の忍も
どちらもやつには選べない



どちらも大切でどちらも必要だからだ



「そんな感情、捨ててくれ」
私はそう無表情で呟いた
「貴様は優しすぎた。私には、それが、邪魔なんだ。」
猿飛佐助もまた無表情だった。
しかしはたしてやつは心の中でも無表情を保てているのであろうか。
そんな事は、やつだけが知る。


「もうそんな優しさは動けないだろう。猿飛佐助。」


私が言えばやつは笑った。
そうだな、そうだよ。
やつはそう呟いては笑った。


「明日かー...はやいなぁ」
「そうだ。明日、今までのように助けてはくれるな。私は、貴様を全力で殺したい。」
「物騒なこってー」


くすくすくす。
猿飛佐助は笑う。
じゃぁさ、と呟いた。

「明日、俺様かすが殺しちゃうかも」
「私は、負けない」
「そうだね。かすが、俺様殺しちゃって相討ちになろうよ。」


私が眉を潜めれば、猿飛佐助は長い爪で頬をカリカリとかきながら小さく呟いた。



「そうすれば旦那の敵一人消えるし、かすがも謙信公の敵一人消せるでしょ?」


馬鹿なんだと悟った。

「馬鹿なんだな」
「そうなんです俺様お馬鹿さんなんです」
「馬鹿だ」
「うん」
「最後の優しさとでも言いたいのか」
「まさか」


猿飛佐助は笑った。
よく笑うな、と私はその時そう思った。


「俺様は逃げてるだけだよ。どちらも傷つけないように」


かすがが死ぬなら一緒に逝ってあげる
旦那はもうちょい生かしてあげる



そうしたらどちらも傷ついてないでしょ?





私は苦笑した。
やつは知らないのだ。
それが唯一傷つかない方法であり、傷つく方法なのだと。
やつは知らないのだ。

私は苦笑した。
夕日を背にし、泣きそうに笑うやつをしっかり目に焼き付けながら
私は苦笑した。





私が知っている猿飛佐助をいうならば。
やつは優柔不断。
どちらか一方だけを選ぶ事ができない。
何故ならどちらか一方を選べばもう一方が傷つくからだ。
だからやつは弱くて脆い。
そのために自身を犠牲にするのをいとわないからだ。
そしてやつは一つわかってない事がある。
その自己犠牲が、両方を傷つける事をやつは知らない。



しかし知らなくていいと私は思う。
知らないまま共に散ればいいと感じる。



何故なら私もやつと似た者同士なのだから。





私が知っている私達、それはただの人間だ。




私は明日やつを殺すだろう。
やつは明日私を殺すだろう。

やつの大切なものは二つ共傷つくだろう。


明日は、川中島だ。


















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まったく意味わからん。
いつも意味わからん小説ばっかかきまする。←
まぁ若干佐←かすは入っていたかもしれません。
異議聞きません。耳閉ざしておきます!
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