!現パロ
!輪廻転生














ぴーんぽーん。
家のチャイムが鳴った。
幸村は慌てて玄関へと走っていき、ドアを開けた。


「こんばんは」


開けると、そこに一人の青年が。
幸村は眉を潜め、どちらさま?と小さな声で聞いた。


「隣に引っ越してきました猿飛です。これ、お詫びといっては何ですが、どうぞ」


ニコニコと笑顔を浮かべる、猿飛といった青年はそういって包みを突き出してきた。


「これ、お煎餅です。ほら、最近ここらへんに出来たお煎餅屋さん。そこの限定品なんですよこれ!わかります?」

猿飛という青年の勢いにタジタジになっていた幸村がハッとする。

「あ、あ、あ、そ、それって高級の、い、いただけませんよ!そんな!」


たしか限定品って20個しか売られない、しかも凄く高いのだったような..

幸村は頭をぐるぐると回しながらとりあえず混乱をおさめる。
とりあえず、と幸村は頭を下げた。


「はじめまして、猿飛さん。俺、幸村といいます。あ.でもこれ名字じゃなくて、本当は真田幸村っていいます。あ.いや、本当って...俺嘘なんかついてないし...ああ!すいません、なんか」

え?焦ってる?

なんで、と自分で言い聞かせる。
あわあわと赤くなりながら焦っていたら、小さく、クスリ、と音が聞こえた。

青年が笑ったのだ。


「落ち着いて下さい。大丈夫、俺、聞いてますから。」


青年の声に幸村は安堵した。
なぜか安心ができる声だった。
例えるならば、眠れずただ泣く乳児をあやす、母親の子守歌のように。
青年の声は柔らかく、安心できた。


「あの」

「はい、」

「綺麗な髪ですね。」


幸村は正直に思った事を述べた。述べた後に、しまった、と思った。

初対面の人に向かって
真顔で「髪が綺麗」と言ってしまった。

変な人だと思われた、と幸村が落胆したその時、またクスリ、と音が聞こえ、やはりそれは青年が笑ったからだった。


「これ、地毛なんです。」


そう言って彼は自分の髪をひと摘み、そして笑った。


「みんな昔から奇妙がって近づかなかったんですよ。あなた、変な人ですね」

やはり変な人だと思われていた幸村ではあったが、それには不満を持った。


「綺麗なのに奇妙なのですか?」


その言葉にさらに笑う青年。


「それ、言われるの二回目です」

「二回目?」

ええ、と彼は嬉しそうに笑う。


「心から大切にしている人が言ってくれたんです。それはすっごく遠い話で、俺はその時びっくりして、それ以上に嬉しくて、今まで気味悪がれていたこの髪がまさかそんな誉められるなんて、と思わず笑っちゃって、この髪もその人も大好きになれた一言の言葉だったから、よく覚えています。嗚呼、でもすっごく昔の話なんで、あの人は忘れてしまったかもしれません。」


そう言って彼は苦笑し、でも幸せそうに笑った。
幸村もその笑顔をみると少し幸せになった気分になれた。


「いいえ。きっとその人はちゃんと覚えてますよ。綺麗なものは心が覚えます。だから、きっとその人は覚えてます。忘れてしまったとしても、心が覚えていたのなら、それでもその人はまたあなたを綺麗と言ってくれるはずですよ。」
そう言って笑えば、彼はピクリと笑顔をひきつらせた。


「.....猿飛さん?」


大丈夫ですか?
そう聞こうとした時、彼は「あ、」と叫んだ。


「そうでした!俺、今から買い出しに出かけなくちゃいけないんでした!今日の夕飯の材料買ってこなくちゃ!すいませんこの辺で失礼します。それから、きちんとご飯は1日三回とって、ちゃんと噛んで、寝る前は歯磨きもして、寝る時は節約のために電気も消して、えっと、夜中に甘いものは禁止ですよ!虫歯なっちゃうし、それから体にも悪いんですからね。それじゃあお休みなさい!また明日!」


早口で彼はそう言いまくるめて、勝手にパタン、とドアを閉めた。
その時にだった。
外から流れてくる風と共に、小さな優しい声が玄関を通り、幸村の耳へと運ばれた。






(さなだの、だんな)








ぶわり。
懐かしい匂いが充満した。
脳とか。目とか。鼻の奥にも、耳にも。
心が叫ぶ。懐かしい、懐かしいと。

嗚呼、ドアが閉まる隙間に見えたあの瞳から流れる小さな粒は、どこかで、どこかで見たことがあった。
嗚呼そうだあれは涙。
涙を流す彼を幸村は知っているような気がした。
思い出せない思い出せない。
いやでも懐かしい。
嗚呼もうわからない!







(あ、)
そういえば思い出した。
今、シャンプーが切れていたんだ。
そういえば夕飯も用意してないや。
あの人は今日の夕飯何にするつもりかな。きっと彼自身が夕飯を料理するに違いない。絶対彼は料理が上手い筈だ。そんな気がした。
いや、とりあえずシャンプーが切れていた。
よし、今からこのドアを開けてこの部屋から飛び出してあの人の細い背中を全力疾走して追いかけよう。
シャンプーが切れていたから一緒に買い出しに行こう。うん。そうしよう。
それから今日の夕飯は何だと聞いてみよう。そしてあわよくばごちそうになろう。きっとあの人は嬉しそうに賛同してくれるはずだ。
そしてその後にさりげなく聞いてみよう。
貴方が泣いているのはどうしてですか。
えっとそれから俺も泣いてるのはどうしてですか。
答えてくれるだろうか?
いやあの人が答えないはずがない。
だってあの人に知らない事はないんだもの。









心はその時、確かに懐かしい!と叫んだ



とりあえずドアノブを回してすんなり開けて裸足で駆け出していった。
それから橙の後ろを見つけ、いろいろあれこれ計画していたくせに、それを実行するのはもどかしく、最終的にはそこに飛びつきにいったのは、少し後の話だ。












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