アンタ馬鹿だよな、と。
己よりもかなり思考が劣る男に、そう言われた。
それは失礼極まりないと感じ、その男に嫌悪を抱いた。
露骨に眉を潜めたりと嫌な顔を作ってみせたが、ソイツは己を見つめ、笑っていた。

己はその男が嫌いだった。
気にくわない、と言い直してもいい。
とにかく、姿を目に映すだけでもじわじわと苛ついていた。


「アンタ、馬鹿だよな」


二回目の言葉だった。


直ぐに斬れた。直ぐに殺せた。
何故なら男は丸腰で、すぐ目の前に座り、自前の酒を一人で仰いでる。
直ぐに斬れた。直ぐに殺せた。

しかし己がそう行動しないのはきっと、
きっと。
己は、この男の言葉が正しい、と受け入れてしまっているためだ。


押し黙る。
すれば男はまた口を開いた。


「家を守るのは、まぁ悪くねぇさ。そんだけアンタには誇りってもんがあるんだろ?いやでもな、毛利」

とくとくとく、と酒を注ぐ音が小さく部屋に流れる。それが心地よく、静かに続いた。


「誰かたった一人を守ろうとしたこと、アンタないだろう?」


なかった。
己には一度たりともそんな事は無かった。
幼い頃に早く親を無くし、誰も信用できず、信用しようともせず、己は一人で生きてきた。
寂しいとか、そのような生ぬるい感情は持ち合わせていなかった。
持ち合わせていないのだ。


「だから?それがどうしたと言うのだ」

「気がつけないから馬鹿だよな、と言ってるんだ。」


直ぐに男はそう返してくる。
嗚呼時々、
男は己の計算を狂わす事がある。
たとえば
突拍子もない言葉。
今男の口から吐き出た、
まるで
まるで己を見透かしたような、
そんな言葉が出た時とか。


「アンタは気がついてないのさ。自分の弱さと、寂しさを。」


なにを馬鹿な事を。
その言葉を声に出来ず、思わず舌打ちを繰り出した。




だから己は、嫌いなのだ。
優しく笑うこの男が。弱さ?寂しさ?
つまりは己が一人ということなのだろう?
知っている。
知っている。


ただお前が己の前で
その苛つくほどに酷く優しい微笑みを見せてくるのであれば
己はいくらでも弱くないと叫んでやろう
己はいくらでも寂しくないと叫んでやろう


「アンタが、」



嗚呼、消し去りたい。
沢山のモノに向けるその微笑みを
消し去りたい。
眩しすぎる
嗚呼、消えてくれ。
認めたくないんだ。
弱くない
寂しくない



「アンタが、どんなにあのお天道サンを求めてもよ、アイツは微笑んではくれねぇぜ?」


だからせめて、と男は笑う。


「たった一人だけでいい。誰かを大切に想い、想われてくれないか」


痛々しい。辛いんだ。アンタを見ると。


そう呟いて男は苦々しく笑った。



わかっている。
日輪をどんなに望んでも
手に届かぬ事くらいは。
でも貴様は知らぬだろう。

届かぬが故に日輪は微笑む。
我に同情し、苦々しく微笑む。



「勝手だけど俺は、アンタを友と思っている。アンタは俺をなんと思ってるかは知らねーけどさ。でも俺にとってアンタは大切な人間の一人で。だから」



ほらまた笑う。
それでいいのだ。
憎むべきなのは世と己。


「だから、....そうだな。あのお天道サンがこの世界を照らす限り俺はアンタを見つけて笑いかけてもいいか?」


もしこの世が平和な世なのであれば
その時は微笑み返してやるわ。
その言葉は、けして告げない。

告げない。



太陽の微笑みに、ただ苦笑。








(こいつがどうか我を見つけられぬように)
(嗚呼どうか日の光を消して、)
(消して、こいつに我の顔を見せないで)


きっと今苦しい顔を浮かべてる。










.
意味わからんあはは!
つまりは寂しいし弱いからお前は我の側にいてくれ。でもそれは言わないよ、だって乱世だもの。ああ手が届かない。
それなのにこっちの気の知らないでなんでお前は笑うんだ。


的なね←
わかりにくくすんまそん←
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