!大学生幸村と子佐助シリーズ
!輪廻転生












「せんせいは、幸せ?」
あの日、あの子は私にそう聞いた。
その時のあの子の顔はどんな表情をしていただろうか。
窓際の近くの机に腰を掛け、足をぶらぶらと揺らしたあの子の背中は、どこか悲しいものを背負っているような感じがした。
教室にはその子と私だけ。
まさか、まだ教室に誰かが残っているなんて思っても見なかった私は、彼を見つけた時少々驚いていたが、彼の質問にはもっと驚かされた。
いや。質問というより雰囲気に。
彼は少し周りの子とは違っていた。
他人から見れば、彼は元気者で、笑顔が絶えず、頭も良ければ覚えも早い、いわば優等生に見えるはず。
だけど、違った。
違うはずだと私は思う。
彼は時折、ほんの一瞬、泣きそうな顔をするのだ。
そのタイミングはいつだか私にはつかめてないのだが、たまたま目撃したのは何回だってあった。
あの日、そう質問してきた時だってそうだ。窓から降り注がれる、沈みそうな夕日の光を眩しそうに見つめながら、小さく私に問いた時、あの子は泣きそうだった。
「私は、幸せよ。佐助。」
はっきりと告げると、彼は「そっか」と小さく笑った。
嗚呼、彼の偽物の笑顔。
初めて会った瞬間から疑問に抱いた笑顔は偽物なのだと私は確信をもっていた。
何故だかわからないが、私は間違いはないと感じる。
彼の笑顔はいつ見られるのであろうか?

「だけど、佐助が幸せになって歯を見せながら笑ってくれたら、私はもっと幸せ。」

私の言葉に、彼の横顔に変化が現れた。
目を大きく見開き、しばらく彼の時間が止まっていた。
やがて、やるせない顔を一瞬作って此方へ向く。
そして、また笑った。

「ありがと。せんせい」

それでもやっぱり泣きそうな笑顔で。
彼の顔を見ると、私の方が泣きそうだった。
それは、彼の表情からなのか
無数の傷跡からなのかはわからない。
彼の顔や体には痛々しい殴り跡が数え切れないほどあった。
これはただの子供の喧嘩でできたわけではなかった。
彼は父から暴力を受けていた。


いつの間にか私は、真っ赤な夕日の光を見つめる幼い少年の横顔を見て、静かに涙を流していた。















「あ、せんせ。そこ右ね〜」
佐助の声に私は我に返った。
いけない。ぼーっとしてた。
私は小さく首を振ってハンドルを右に切った。
今日の家庭訪問は彼で最後だった。
彼の家庭は今、少々複雑で、長い時間話したいがためにわざと私が彼の日にちの割り当てを最後にしたのだが。
「佐助は最近調子はどう?」
「んまー...ぼちぼち?」
口を尖らせながら彼は呟いた。
「でもさぁ、ほらさいきんお野菜がねあげしちゃったじゃない?だからやりくりがさ〜」
私は思わず笑ってしまった。こんな言葉、最近の子供の台詞ではない。どこぞの主婦だ。
「それにね〜さいきんおんなのこ達がね〜おれさま争奪戦しちゃってさ〜!ほんとモテるおとこは困っちゃう〜!!」
嗚呼、と私は思い出したように笑った。
「今日の争い?佐助はほんとうにモテるな。今日はどんな争いだったの?」
「きょうはだれがおれさまのとなりでお弁当たべるかってさ!」
すぐに想像ができたので、思わずまた笑ってしまう。
赤信号になり、車にゆっくりとブレーキをかけて動きを止める。
「そういえば、佐助また女の子達に変な事言っただろ?」
顔を彼に向ければ、彼もゆっくりこちらに向いた。
「へんなこと?」
「前世ではなんたらかんたら」
「ああ。アレ?」
最近、クラスの女の子達は佐助から「君の前世は俺の奥さんだった」だの「君は恋人」だの言われたらしく、みんなきゃっきゃっと嬉しそうにしていた。
「あんな嘘、いつかはバレるんだからあまり言ってはいけないぞ?」
「あんがい、ほんとかもよ?」
佐助はそう言ってニヤニヤと笑った。
「佐助はほんと変わったやつだな」
「あはは!よく言われた!」
言われた?と私は首を傾げる。
「誰に?」
「せんせいに」
「私に?」
嗚呼、そういえば前に言ったことがあるかもしれない。はて、それはいつだったか、思い出せなかった。
「なら佐助、私はおまえとどんな関係だったんだ?」
「え?せんせいと?」
「前世は私と会わなかったのか?」
佐助は顎を掴み考えていた。
それを横目で見ながら笑って車を発進させる。
彼はとても想像豊かで個性的。将来有望な子だろうな、と正直に私は彼を心の中で誉めた。

「せんせーはね、おれさまのこんやく者!」
「婚約者?」
「そう!!えへへ」
彼はニヤニヤと笑い出す。
なんだそれ、と呟き私も笑った。
「じょうだんじゃないよ?ほんとだよ!なぁなぁせんせ、おれさまと結婚しない〜?」
馬鹿か、と私は言ってスピードを少し上げた。

「ちぇ。あいかわらず冷たぁい」

そう言って彼はクスクスと笑った。













彼が車に乗っているのには訳がある。
両親が別れ、自宅案内地図に描かれている家にはもう住んではいないそうだ。
母親の方に引き取られたそうだが、家計的に厳しく、今は知り合いの家に預かってもらってるらしい。
「残念だけど、おかあさんいそがしいらしくて、いきなり休みとったりしたらやっぱだめだから、今おせわなってるだんながかてーほーもん受けるって言ってくれてるけど、だんなでいいかな?」
だんな、とは今彼がお世話になっている人のようだ。
そんな訳で彼は今その“だんな”と住む場所へ案内するために、私の車の助手席に乗っていた。

「せんせー!そこそこ」
アパートを指差しながら彼は無邪気に叫ぶ。
私はその言葉に反応して、アパートの駐車場に車を止めた。
「ここで二人暮らし?」
私の問いに、彼は「そ!」と言って車を降り、駆け出して行った。
私も彼の後を追うように、車を降りて彼が向かった先に足を進める。
「せんせ!どーぞ」
彼は玄関を大きく開けて待ってくれていた。私は「失礼します」と小さく呟いて玄関の中に入っていった。
中はとても綺麗で、シンプルだった。
白が殆どだったが、ところどころにある赤がとても可愛らしかった。

「だんなー!ただいまー!せんせーきたよぉ!」

私の体が硬直する。
緊張するが、とりあえず心を落ち着かせる。
大丈夫。大丈夫。今日はこれで最後なんだから。頑張るんだ私。
足音が聞こえ、近くまで来て、止まった。

「おお、お帰り佐助。」
優しい声が、玄関一辺を包んだ。
その声に一番早く反応したのは、佐助だった。
靴を脱ぎ捨て、声の主まで走っていけば、その人に思いっきり抱きついた。

「ただいまだんな!」

“だんな”
彼はその人をそう呼んだ。
つまりこの人が彼を預かっている人なのだ。
私はその人の顔を見ようと顔を上げた。
その瞬間、その人と目が合った。

「あ...どうも、はじめまして。猿飛佐助君の担任です。」
また頭を下げようとした時、声がかかった。

「なるほど。どうやら佐助はいい先生に恵まれたようだ。」

は?と顔を上げれば、その人が優しい表情で微笑んでいたのが見えた。
その瞬間、嗚呼、彼を預かったのがこの人で良かったと感じた。
いや。
正しくは、彼とこの人が出会えてよかった。
何故なら、優しい表情の下にいた、私の教え子も微笑んでいたからだ。
そこには悲しみも、傷跡もなかった。


その笑顔を見て懐かしく思ったのは何故だろう。
酷く安堵したのも、何故だろう。
まるで昔から、遠い昔から彼がこの人と出会えるように、と願っていたような気がした。
それが今、叶ったような気がした。
酷く安堵した。
何度も願っていたような気がした。
佐助がいつか、笑えますように


(だってお前は何回やり直したってずっと会えずに先にいかれてたから...)


....いかれてた?
どこへ?


「せんせい」
彼の声に、はっとする。
彼は笑ってた。


「せんせいは、幸せ?」


あの時と同じ問いだった。
違ったのは彼の笑顔。
泣きそうだったあの笑みは、いつしか涙が乾いてた。

佐助は歯を見せて笑う。


「おれさまは今、とっても幸せだよ、かすがせんせい。」

(だから今まで有難うな、かすが)

どこか脳裏で聞こえた誰かの声。

私はそっと微笑んだ。




幸せは誰にだって感染する




「よかった。それなら私も幸せだ」
そう言って私は微笑んだ。















(やっと会えたのか)
(全く人に心配ばっかかけやがって)
(お前の為に私は全部の人生お前の近くで生まれ変わったんだぞ)
(だから)
(もう自分で死のうとするなよ)










(お前はせいぜい憎たらしい顔で微笑んでいろ)
(それを眺めるのも、悪くはない)
















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迷子イエイ!(^p^)
かなり迷子なりました
若干迷子すぎて泣きましたちくそぉぉぉお!!←
かすがちゃんはきっとなんだかんだ言って佐助が心配だったんだと思います←逆でも私的には美味しいです←←
つねに佐助の近くに生まれ変わっていそう....
若干佐かす入ってましたねすいませんしかし表示はしない!だって違うものぉ!←どっちww
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