!輪廻転生
!歳の差注意(BLじゃないよ)










「アンタ、楽しくないんだろ?」
何がでござるか、と幸村は友人である政宗を横目で見ながら静かに聞いた。

「いや、なんか、なぁ...アンタいつも笑っているけどどこか物足りなさそうな表情をする。遊んでいる時もそうだし、武田のオッサンと殴り合っている時だってそうだ。」

政宗は頭をかく。どうやら言いたい事をまとめているようだ。

「つまりは、毎日楽しくなさそうに見える。」

「某がでござるか」

「アンタしかいねぇよ」

そう一番のライバルで親友の政宗に言われると、たしかにそうかもしれないと幸村は感じた。


嗚呼、そうだ。
俺には足りないものがある。
それは、遠い昔、
当たり前のように
いつもそばにあったもの。


それの名は、猿飛佐助、といった。


明るく、賢く、世話好きで、俺が大好きな忍だった。
いつだったか、彼と約束した事があった。


『旦那、戦が終わったら忍って、必要がなくなるって知ってた?』

『でもね旦那、もしアンタが俺様を終戦後でも必要としてくれるなら』

『俺をどうか、となりにおいてくれない?』

『俺様に居場所をくれたのは、アンタが初めてだったから、』


『ね、約束だぜ旦那』





「嗚呼。当たり前だ。俺はお前が必要なんだ。いつでも、どこでも。...なぁ、」


俺は今でも、必要なのだ、
―――――――――佐助。


どこにいるか
今何をして
どんな表情をしているのか
今の俺には今のお前の事
一つもわからない。
もしかしたら
お前は俺の事を忘れてしまったかもしれない。
でも、それでもいいと思う。
お前とまた会えるのであれば
また一から思い出をつくればいい。
だから、
だから、


なぁ、佐助。

お前は一体、どこにいる?


幸村はそう心の中で見えぬ相手にそう問いかけては、帰ってこない返事を待っていた。


















大学生の幸村はアパートの一室で一人暮らしをしていた。家柄がとてもいいのだが、彼は両親の力は借りずに、バイトをしながら自分の身は自分でちゃんと生活をしていた。
仕事もできれば、家の家事もできた。
身の回りの事が出来なかった“昔”の彼とは大違いだった。

(佐助が見たら、きっと驚くだろうな...)そんな事を思いながら幸村は自嘲気味に笑う。
もしかしたら今度は彼が何も出来なくなっているかもしれないな。そしたら俺が、今度は助けてやろう。
前世で世話になった、恩返しだ、と幸村は呟いた。















その日幸村は走っていた。がむしゃらに走っていた。
自分の家がこんなにも遠くに感じるのか、と思うほど、大学からアパートの距離が長く思えた。
いつもはさほど長くは感じないのだ。今日に限って長く感じるのは、きっとさっき親方様、と幸村が慕い尊敬している人からかかってきた、一本の電話が原因だろう。
その人が言うには、自分の遠い親戚の女の人が、子供を預けたいらしい。その女の人は30代半ばの女性で、少し家計が厳しいらしく、しかし頼り両親は他界してるため、遠い親戚で、でもよく親交があった親方様に子供を預けたいそうだ。
しかし、だ。親方様はそれは凄い業者の社長様であった。会社の都合により、しばらく海外へ足を向けることになったのだ。
だが、心優しい親方様はその女の人を助けたかった。故に断りきれず、思いついたのが、自分の愛弟子(剣道をたまに教えていた)の幸村だった。
親方様と幸村の父は親交が深く、また幸村と親方様も師弟関係のほどにまた親交が深かった。それでこそ幸村を信頼し、その女性に幸村を紹介したのだ。
子供を預かるのは2ヶ月だ、と言われた。
いきなり言われて少々困り果てていた幸村に、親方様は言った。









「その女性、姓は“猿飛”だというのだ。」















運命だ、と幸村は思った。
また巡り会えるなんて運命だ、そう喜ばざるおえなかった。

まさかおなごになろうとは...佐助がおなご...想像つかん、と幸村は呟く。


アパートに着くと、一人の女性が自分の部屋の前に立っていた。
ワンピースを着たその人は、聞いていた年齢よりも若く感じられた。


「貴方が...真田幸村サン?」


女性は顔を上げて幸村を見た。
赤に近い茶髪、白い肌、細い身体。

昔、自分の近くに居た彼と少し似ていた。

「はい..、えっと、貴女が猿飛殿でございますか?」

彼女はキョトンとし、すぐさまクスクスと笑みを零した。
話通りの人、と彼女は幸村を見て笑った。彼女の笑顔を見た瞬間、幸村は悟った。


彼女には、昔俺と人生を歩んだあの忍の記憶がない、と。

確かに、赤に近い茶髪はあやつに近い髪だ。
―――――でも、あやつはもっと綺麗な橙色をしていた。

確かに、白い肌だった。
――――あやつは常に肌を隠す分、もうちょっと色白であった。

確かに、細い身体だった。
―――――あやつの場合は骨ばっていたが。



そして気がついた。彼女は忘れたんじゃない。知らないんだ。



彼女は、“佐助”ではないのだ。



(そうだ、当たり前だ。猿飛という名字は沢山いるわけだし、そもそもあやつが同名の名前で生まれて来ているとは限らん)


だがしかし、と幸村は希望を持つ。
会いたい故に、諦めきれなかったのかもしれない。
幸村は彼女へ聞いた。


「すみませぬが....貴女の夫は...」


そこまで言えば、彼女は顔を伏せ、別れたんです、と小さく呟いた。
なるほど、という事は名字は元々彼女のものだったか。
パリン、と何かが割れる音がする。嗚呼、期待が全部無くなった。

眉をひそめた幸村に、彼女は大丈夫ですか、と聞いてきた。
心配そうにする顔もどこか似てる。しかしどこか違うのだ。

「大丈夫、です。」
幸村はにこり、と笑った。苦々しく。(無自覚だったが)

彼女もつられ笑いながら、では日が来たら引き取りにきます、どうかよろしくお願いします、と彼女は目の前の駐車場に止めてあった一台の車の運転席に滑りこむ。
数分すると、エンジンがかかり、今度は助手席のドアが開き、パーカーを着た子供が大きなリュックを背負いながらピョン、と車から飛び降りた。地面に着地する。
子供の足はこちらにひょこひょこと向かっていた。
運転席の窓が開き、先ほどの女性がこちらに向いた。


「幸村さん!!その子をよろしくお願いしますね!!」

にっこり、とその人は笑う。幸村はその光景をぼんやりと視界に入れていた。


嗚呼、どうして。
似てる、似てる、似てるのに、

似てるのに、どうしてあやつではないのか?


もしかしたら、やはりあやつなのか?記憶を無くし、他の人間として暮らしていく内に、全く別の者となってしまったのか?
すると、佐助はどうなる?佐助の存在はどうなる?消えるのか?消えてしまったのか?
理不尽だ!どうして、
俺は覚えているのに?どうしてだ!なぁ佐助!


嗚呼、俺は運命なんて信じない。
悲しい、辛い、嫌だ。
期待だけ膨らますのは辛いだけだ。


俺は、運命なんて信じない。




「ねぇこれって運命だよね」




少々甲高い声が幸村の耳に響く。
それはちょっと変わった気がするが懐かしい声でもあった。




「運命だよ運命!運命なんだ、だって来世であえるなんて運命でしょーが、ねぇだんな」




後ろから声がした。
久しぶりに呼ばれた自分を差すニックネームが、少しだけ幸村にはくすぐったくて、懐かしくて、嬉しくて、泣きそうだった。



「あっれー?だんななんで泣いちゃってんの〜?もう、なきむしなんだからっ」




くすくす笑うその子は緑色のパーカーを着ていた。フードを深くかぶり、オレンジ色の髪の毛が上手く隠れていた。
顔の上には緑色のペイントが3つ走っていて。
白い肌で、細い身体で。



あの頃の笑顔のまんまで。



「ね、運命だとおもわない?」



にっこり、と笑った。
嗚呼、しかし少々幼いかもしれない。
でも、確実にそれはあやつだった。






(運命は偶然で、偶然は運命で。それでも巡り会えたなら、それはきっと幸せと呼べるものなのだろう)





そうだな、と幸村は小さな少年の頭を撫でながら、佐助、と小さく四百年ぶりの名を呼んだ。

少年はくすぐったそうに無邪気に笑う。













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子佐助は中身オカンなので幸村の期待を見事に裏切ってなんでもできます。
それで幸村は拗ねてたらいいさ!←
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