残念でした、とぼろぼろの体で佐助は笑い、元の髪の色に戻し、顔も元の顔に戻した。
佐助は弱い声でくすくすと笑いながら、どよめきが起きていた、数が多すぎる大軍に肩をすくめながら言った。


「どうしたの?皆さん狐につままれたような顔してるぜ?」


つまんだのは忍ですよ、と笑えば、右足に銃弾が一発命中した。
この時服の部分も術が解けたのだと思っていたが、いつものような緑ではなく、先ほどと変わらぬ赤いままだったので、あれ?と佐助は思い、よく服を見てみれば、嗚呼なんだ血か、と理解した。それと同時に右足から力が抜け、あ、と声を上げた時には左肩に銃弾が当たり、佐助は完全に倒れてしまった。
うつぶせに倒れた佐助の頭上から、忍の分際で!と怒鳴り声が聞こえ、風の音、きっと刀を振り上げる音だろう、そんな些細な音さえ佐助にははっきりと聞こえた。
その時、誰か一人の武将が「ほおっておけ。直に死ぬ」なんて言うもんだから、あんまりだなぁ、と佐助は他人ごとに思った。
何人もの足音が自分を無視し通り抜けていくのを佐助はどこか遠くで聞いていた。嗚呼、死ぬ時に最初に悪くなるのはどうやら耳らしい。
だって今、幻聴が聞こえたのだ。
遥か遠いところから、泣き叫ぶ声で、佐助、と呼ぶ音が。
もし今の音が幻聴でないとすれば。嗚呼自分はなんて幸せなんだろうか、と佐助は思った。彼の声が、自分の名を呼ぶのを死ぬ前に聞けるなんて。佐助は思わず苦笑した。

いつも佐助、と呼ばれれば、はいよ、とすぐに彼の元へと駆けつけた。それが自分達にとっての当たり前で、そして続いてほしいと確かに思っていた日常だった。
残念ながら、それはもう終わりらしい。
佐助は、もう立ち上がることすら出来ない程に弱っていた。

(そういえば、泣いていた....)

佐助はぼんやりと薄れゆく感覚の中でそう思い出す。最後に見送った、あの背中の主は、叫んだ声を震わせていた。あれはきっと泣いていた。
約束、なんて叫びながら。

(ゆびきり、なんてすごく昔に教えた筈なのに、覚えていたのか...)

主が弁丸と呼ばれていたあの頃だった筈だ、と佐助は思い出す。
懐かしい、と心の中で静かに呟いた。








もう物をなくしてはいけませんよ。ほら約束です。小指を絡めて、そう。弁丸様は覚えが早いのですね。


そしてどうするのだ?さすけ


絶対に物を無くしてはいけません。大切な物はきちんと大事にしまいましょう。じゃなければ痛ーいお仕置きが待ってますよ!


いっ...!わ、わかった。やくそくだっ




ふふ、と佐助は思い出し笑いをしてしまった。そうだ。その後、なんだかんだちゃんと約束を守って、彼は物を大事そうにしまうのが癖になっていたな、と佐助は声には出せずにそう頭の中で言った。
喉からは、血の味がした。


嗚呼、そろそろ限界か。
佐助はそう悟った。頬に感じる泥の感触を気持ち悪く感じる。
瞼が重く感じ、それには逆らおうとはせずに目を閉じようとした時だった。


映ったのは、上を向く、ただの雑草。


いつの間にか、日が登り、太陽がさんさんと照りつけていた。夏だから当たり前か、と佐助は思う。
雑草は、ただ上を向いていた。
太陽の光に照らされている。ただそれだけで雑草は生き生きとしていた。
まるで光が生きがいと感じているように。

佐助は、困ったように笑った。
震える腕を小さく持ち上げ、そっと指先で雑草に触れた。
彼のあの時の悲しげな顔を思い出す。


『俺はお前に伝えていいだろうか?』


おばかさん、と佐助は呟いた。彼は間違っていた。伝えてはいけないに決まってる。それどころか、そんな感情を自分に向ける事さえ間違っている。


(嗚呼、でも)


佐助は思う。時を超え、もし約束が果たされた日が来たのならば、その時は伝えてもいいのではないか、と。
伝えたかったのはアンタだけではないんですよ。佐助はそう心の中で呟き、伸ばしていた腕を地面に落とした。
その時はもうすでに瞼は閉じてしまっていて。
どうせなら死ぬ前に言ってしまえ、と佐助は最後の声を振り絞って出した。



草の存在であるくせに、太陽の貴方を愛してました。



そう言ってそっと涙を流したその瞳は、もう開ける事はなかった。







伝えたかった
言葉があるんです。
(草の存在であるくせに
太陽の貴方を愛してました。)








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