佐助視点(現代) | ナノ







車輪はぎこちなく回っている。
自転車は部品を何個かいじれば、直ぐに立ち直った。まるで自分みたいだ、と佐助は笑う。
捨てられたくない、まだ動くから、と元気に振る舞う。昔の自分みたいで、思わず笑わずには居られなかった。
捨てないよ。佐助はぽつりと呟いた。


「持ち主に似る、てね。」


幸村は、捨てなかった。
また見つけてくれたのだ。
小さな、それでいて、彼と自分にとっては全てだった、あの約束を守るために。
佐助はそっと、微笑んだ。

ペダルを漕げば、ギシギシと音が鳴る。
それでもまだ捨てないでおこうなんて佐助は思いながら、自転車を緩やかに漕いだ。



町が、がやがやと騒ぎ出している。
ランドセルを背負いながら元気よく友達と走って学校に向かう小学生。
時計を見ながらわき腹に鞄を挟み、早足で歩くサラリーマン。
ゴミだしがついでな奥様方の雑談。
視線が携帯にしか届いてない危なっかしい女子高生。


町が、もう起き始めていた。


佐助は自転車を漕ぎながら、そのお目覚めの騒がしい町を見つめ、嗚呼、と苦笑した。
騒がしいはずなのに、ひとりぼっちだ。



「なんだか、世界中に一人だけしか居ないみたいだね」



佐助はぽつりと呟いた。
確かにあった、あの時の温もりは後ろには、もう無い。
佐助は、ゆっくりハンドルを握っている右手の小指を見つめ、笑った。


でも、と佐助は言う。


ここに居るのは一人だけだとしても。
繋いである何かがあるのだとしたら、嗚呼、一人じゃないんだ。
感じる。
佐助はぐっと足に力を込め、もう彼の姿がない寂しい家へと向かった。


微かな温もりも一緒に自転車に乗せ。
ギギギ、と錆び付いた車輪が鳴く音を聞きながら、笑っていた佐助は自転車を漕いだ。
うそついたらはりせんぼんのーます、なんて口ずさみながら。
小指が、異様に温かい。



背中の温もりは、
もう無くて
(でも絡ませてない小指からは
微かな温もりが。)





end.

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