佐助視点(現代) | ナノ





ギギギ。錆び付いた車輪が、もう走るのは無理だ、と悲鳴を上げる。佐助は苦笑しながら「もう少しもってくれよ」と言った覚えがあるはずの台詞を小さく吐いた。
朝登った電車の線路側の坂は今、下り坂で。
佐助は更にスピードを加速させながら、風よりも早く走る。彼まで追いつけ、と思いながら。涙がボロボロ風によって零れていくが、構う暇なんて佐助にはなかった。

頑張って電車と並んで走るが、徐々に徐々にはなされていくことに佐助は悲しくなった。
ふっと電車に目を向ければ、佐助に気がつかずにボロボロと泣いている瞳を大きな手でこすっている幸村の背が此方から見えた。
佐助は息を吸った。
今まで大きな声を出す機会がなかったために、彼に届くか佐助はとても不安だったが。
それでも、届け、と思い叫んだ。


「真田の旦那っ!!」


幸村の肩がびくり、とかすかに震えたのが、たしかに佐助には見えた。幸村はゆっくり振り向いた。驚いた顔で此方を見る。目を見開いて、それでも涙は乾かす事なく流しながら、震えた手を窓に添えた。
さすけ、と唇が形を作った、と佐助は幸村の震える唇を見てそう悟った。


「真田の旦那っ!真田の旦那っ!!」


佐助は何回もそう叫んだ。涙が風に乗ってどこかへ飛んでいく。佐助も幸村も涙を隠す事なく流していく。


電車は二人をまるで知らぬと言うように、二人の距離を遠ざけていく。
佐助は右手をゆっくりハンドルから離す。
眉を八の字にし、唇で弧を描いて、いつもの彼の癖である表情をした。
幸村に向かって、右手を差し出す。
握りしめたこぶしから、五本の中でもさらに短い、佐助の場合は細長い小指を立たせて、彼にそれを見せながら、叫んだ。

「約束だよ!必ずいつの日かまた会おうね!」


あの日絡めたあの小指で、今の約束を繋ぎたいと佐助は蘇った記憶の中でそう思った。
幸村はその突き立てた小指を驚けに見つめ、そして泣きながら微笑んだ。
そっと。
幸村は窓の向こう側で、小指を立てた。

佐助は困ったようなしかし幸せそうに笑う。
幸村はぐしゃぐしゃに泣きながら微笑む。


同時に、小指は折り曲げられた。



確かにその時、小指が繋がったような気がした。
佐助はそのまま微笑みながら、約束が果たされたその時に、この何年も隠し続けた想いを彼にぶちまけよう、と誓った。
そう誓ったのは、世界中できっと、自分だけではないと佐助は思う。
例えば、目の前の未だに泣いている青年とかも、だ。
そう言ってる佐助もまた、泣き止んでいないのだが。


ぎしり、と錆びた自転車の車輪が鳴き、ペダルが固くなって回らなくなる。
動かなくなった車輪は、自転車のバランスを崩し、佐助は地面に叩きつけられる。
電車は先を行く。
佐助は立ち上がった。
見えなくなる彼に向かって大きく手を振った。
届け、と思いながら。
いってらっしゃい、と小さく呟いて。
彼が見えなくなり、そこにただ一人残されても直、佐助はただただ泣きながら彼に向けて大きく手を振っていた。





いってらっしゃい。
(約束だよ
必ずいつの日にか
また会おうね。)









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