魔術師は我忘れ彼を思う











魔術師のクラスに相当するサーヴァント、キャスターには他と比べ、力も速さも足りないが、魔術師クラスだけあって、知識と魔力の蓄えさには一段と豊富であった。


(やれやれ‥われながら、しくじりおったわ)


そのはずのキャスターは今、魔力切れで息絶えそうであった。憔悴しきったその目は、今にも閉じきりそうだった。

(‥そうか、われは消えゆくか‥)

キャスターはついにその場に倒れた。ぜいぜいと肺が鳴き、今にも己の存在が消えかかっているのだ、と理解できる。
包帯だらけの己の身を見、キャスターはひきつり笑いで苦笑を浮かべる。
ああ、なんて二度目の生もあっけないのだろうか、


(なぜ、われはこの戦争に望みを、かけた)

それは全てを呪うためであった。世界の全てを呪うため。だから己はこの世界と契約し、この殻を得た。
マスターなんぞ使える者ならば使えるまで使おうかと思ったが、笑える事に、己とはまったくもって合わなかった。
聖杯への願いは世界平和だとかなんとか、反吐がでるような偽善ばかりで。

(令呪を使う前にマスターを殺害するなんぞ、造作もない。)

召還され、話を通せばすぐに使えないものとしてマスターを殺害、切り捨てた。

しかし問題は、魔力供給だった。
魔力供給のないままで、現界できるのは1日が限界だ。そこが一番の問題であった。
そして現に己は今、ここで消滅しかかっている。
(呪いを‥この世界に、呪いを‥)
朦朧とする意識の中、降り始めた雨の空に、手を伸ばす。
呪いを、災いを。この世界に、


「雨がふってるぞ」


視界が暗転したかと思ったが、どうやら傘で影ができただけのようだった。雨が強くなりだすが、なぜか己の頭上にある傘のおかげで濡れることがなかった。
己は首を動かし、傘を手にする主を見上げる。そこには、眉をこれ以上ひそめようのないほど皺をつくった青年が、こちらを見下げながら、立っていて。

「こんなとこで雨に濡れながら寝ては風邪ひくだろう。」

冗談ではなく、本気でそういう物言いに、不覚ながらも、己はあっけにとられていた。
まっすぐ過ぎるその精神。見飽きるほど見てきた心配そうにこちらを見る顔。

‥なるほど、昔と少しも変わらないようだ。

「われは、寝よう思いて‥寝てるわけではない」
「?食い倒れか」
「‥使い魔なのだ。魔力供給されてない故、消えかかっている」
「消えかかっている?死にそうというわけか?」
「そう、なるな」

体がボロボロに崩れようとしていた。もう限界に近いようだが、この世界はなにを思ったか、最後の最後で己に、この男を差し向けた。
‥気が狂ったとしか思えん。故に、己は幻でも見せられているのか。

「救急車をよぶか」
「きゅうきゅ‥‥ああ、人間が世話になる場所、まで運ぶ乗り物か‥よいよい。われは人間では、ない、故に時既に遅し、だ。」
「ならばどうすればいい」
「何もせずこの身を跨いで帰る場所へ帰宅するがよいぞ、三成」

ああ、何百年ぶりにその名を呼んだだろうか。
懐かしいそれに手を伸ばす。触れようと思って伸ばしたわけではない。ただ、昔、彼を助けていたようで誠はただ己が彼にすがっていた、あの時のように、また、すがってみたくなった。
苦笑を漏らし、ばかばかしくなって手を引っ込めようとした時だ。
その包帯だらけの手を、彼はためらいもなくがしり、と両手で掴み覆った。
確かに今は病気を患ってないものの、生前の形が具現化されたこの身だ。身はボロボロで見るに耐えない形をしているはずなのに、やはり彼は。

「お前の名前はなんだ」

やつははっきりとまっすぐ此方を見ながら、膝を濡れるとわかっているだろうに、地面に着けてしゃがみこんだ。

「何故、われの名をきく」
「お前がわたしの名前を知っていたからだ。わたしがお前の名前を知ってなにがわるい」
「‥‥‥ひっひ、違いないな。しかし、無駄なことをするよのう、ぬし。われはもう、消え」
「ならばわたしの魔力を吸うがいいだろう」

彼はなにを思ったか、首もとを見せてきた。‥魔力供給と吸血を同じものと考えているようだ。しかしそれを踏まえた上でも、なかなかこの男はおかしい。やはり、それは昔と全然変わってはいないのだな。

「何故そこまでぬしがする必要がある。われが悪行働く輩ならば、ぬし、どうするのだ」
「なぜおまえが、わたしを騙すのだ?」

きょとん、とする彼に、思わずながらも笑わずにはいられなかった。
ああ、ますます離れ難くなってしまったではないか、三成よ。
己は、己の最後の枷を、言葉に出す。

「ぬしを巻き込みたくはない。命かかわる事だからなぁ」
「もうおまえの命の危機ではないか。ならば手遅れなる前に早く魔力を吸え」
「‥ぬしを」
「生きるためには他人に迷惑かけるなど当たり前だと学校では習ったぞ。周りの手を借りろ、‥えっと」
「‥刑部と呼ぶがいい、三成よ」

いいだろう、と思った。忠告も、なにもかもした。退かなかったのはぬしだぞ、三成。後悔してもしらぬ。しかし、丈夫だ。ぬしを不幸にはさせぬ。ぬし、だけは。


「あいわかった。三成よ。ぬしの望み通りぬしの魔力を吸うとしよう」
「‥‥いッ‥?」

彼と契約を交えれば、その瞬間彼は弾かれたように右手を抑え出す。そうして恐る恐るその手を覗き見る。

「‥?」
「それは令呪と言うてな、今からわれに2つまで絶対命令できるのだ。それがぬしの手にあるかぎり、われはぬしのものよ」
「‥‥わたしの使い魔?」
「そういうことであるな」
「元の主はどうした?」
「死んでしもうてな。主がいなく魔力供給なく途方にくれておったときのぬしよ」
「なるほどわかった。ならばいつわたしから魔力を吸う?」
「‥現在すでに進行中よ」
「なに!?おお!なんだ元気になってるではないか、よかったな」
「‥‥」


ふっと微笑む三成なんぞ、初めて見たわ。
己は空を仰ぐ。これからの戦争を思った。
簡単にいかないことはわかっている。己が生き残れる自信など毛ほどもないが。
己はちらりと、彼を見る。傘を折りたたみ、水気をとろうとブンブン振り回す彼は、あの頃と違って悲しみや憎しみを知らない。
われが呪う幸せの中で生きてきたのだろう。

それを見届けていたいと思い始めた己は、やはり壊れてしまったのだろうか。


ただ今は、呪いよりも無力な彼を守る策のほうが先決なのだと、キャスターは晴れた風景を見ながらそう思った。









――――――――――
???、キャスタークラスを召還。
キャスター、マスターを殺害。
石田三成、キャスターと再契約。
残りあと1組。



今回の一番の萌え陣営。

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