光に選ばれし暗殺者









(きた!)
右手の鋭い痛みに、思わず歓喜溢れた。
しかし笑まずにはいられない。

(やりました!やりましたよ!謙信さま!)
わたしは、右手に宿った令呪を、空からも見えるように頭上に掲げた。











わたしの名はかすが、という。名字は謙信さまから「上杉」という勿体無き字を貰った。故にわたしと謙信さまは血の繋がった親子ではない。わたしは、養子だ。

昔、ある町で大災害が起こった。
その火の海は、10年たった今でも忘れられない。その時7歳だったわたしは、察しの通り被災者だった。
町の災害で、住人の生存者はたったの2名だけだった。
わたしと、幼なじみ。たったの、子供2人だけ。

その時に助けてくれたのが、謙信さまたちだった。謙信さまは火の海の中、泣き叫ぶわたしたちを見つけ、手を引き、もうだいじょうぶですよ、と抱きしめ泣いてくれた。いきていてくれてありがとう、と言ってくれた。わたしはそれを一生忘れない。

身よりのないわたしは、謙信さまに引き取られ、そして謙信さまはわたしを、本当の娘のように、愛情を注いでくれた。

謙信さまは名高い魔術師だった。しかし、子が居なく、跡継ぎは出来ないだろうと言われていた。
わたしは、謙信さまのつるぎになりたいのだと、謙信さまへ告げた。あなたの誇りを継ぎたいと。あなたの全てを終わらせたくないと。
その時の謙信さまは、何故かとても悲しそうな顔をし、「かすが、そなたにかなしみをおしえたくはありません、」と呟いた。わたしは必死になりながら願いを告げれば、苦笑しながら、謙信さまは承諾してくれた。


そして、わたしは「上杉」の名に恥じぬよう、今の今まで‥――謙信さまが亡くなられてからもずっと――修行を怠ることはせずに生きてきた。
そして、今。
それは、昼食時間の時、屋上で幼なじみと話していた時だった。
右手に鋭い痛み。びりっと電流が走ったような、そういった痛みが。
恐る恐る見れば、わたしが欲しくて欲しくてたまらなかったものが、やっと、文字どおり手に入った。
―――魔術師でも選ばれし者しか宿る事のない、令呪。聖杯戦争への切符。
わたしは急いで立ち上がった。

「こうしてはいられない、わたしは帰る。」
「え?ちょ‥!かすが!?」

走り出そうとしたわたしを、幼なじみで腐れ縁の猿飛佐助が止めようと手を伸ばしてきた。
わたしはそれをヒョイとよけるが負けじとやつは足を引っ掛けてくる。

「ちっ‥!なんだ佐助!しつこいぞ!」
「俺様の話は終わってないの!まぁた生徒指導ひっかかったんだろ?前に言ったじゃないスカート短いって!」
「なんだお前は!そんな事わたしに言う前にまずは自分の髪を黒染めしたらどうだ!」
「これ地毛なの!ちょ!待てってかすが!まだお話終わって――」
「あーもう!うざい!」

逃げ切ろうと屋上入り口の扉を開こうとした時、自動的に開いた。否、誰かが開けた。

「あ!いいところに!こた!かすがを捕まえて!」
「な‥――!」
「‥‥‥」

というわけで、わたしの逃避物語は駆けつけた小太郎によって幕を閉めたのだった。

「まったく‥かすが、あのな?俺様はお前の事を思って――」
「やめろ!聞き飽きたぞお母さん!そしてわたしは急いでいるんだ!小太郎!わたしを離せ!」
「‥‥‥」
「だれがお母さんだ!小太郎も離しちゃだめ!かすが暴れるなって!だからスカート伸ばせ言っただろ?どんだけ男子がお前のスカートの中覗こうと頑張ってるかわからないだろお前」
「しるか!なんだそいつは!そんなやついたら魔術師の名にかけて呪い殺してやる!」
「魔術師のやることじゃないでしょそれ‥‥あと大丈夫だぜ!駆除は俺様と小太郎で足りてるから!」
「‥どうりで最近男子が寄り付かんわけだ」
「‥‥‥」

それはそうと、と佐助は頭をかく。佐助が頭をかく時、それは今から改まった話をするという合図だった。つまり昔からの癖なのだが、なるほど、今からが本題か。


「最近、その‥」
「なんだ」
「‥大丈夫か?やつれてるっぽいけどさ、」
「なんできさまに心配されなければならない」
「だって食うのも惜しんで何かに励んでるし‥なんつーかさ‥最近、お前らしくないぞ?」
「‥きのせいだ」
「そうか?‥なんかあるのなら協力するからさ!そんときは言っ」
「き の せ い だ!」

そう叫べば、しょぼんとした顔の佐助は、そう、と小さく呟いた。
‥そんな。お前を巻き込むわけにはいかない。
もう、お前が傷つくとこなんて、見たくないから、


「ではな佐助、わたしはいくぞ」
「あっちょ‥まって!」

小太郎をふりほどいて、屋上から出ようとすれば、またもう一度、佐助から制止がきた。

「今度はなんだ‥?」
「これ!」

はい、と渡されたものは、小さなアクセサリーで。
‥‥なんだ、これ。

「誕生日。‥明後日だろ?残念だけど明後日は俺様いろいろ忙しくて」
「そうか、‥信玄公の命日前か。」
「いろいろ準備がねー」
「ならばわたしも来よう‥いや、どうだろうな」

そういえば、わたしは今から戦争に参加せねばならないのだった。それを思い出し顔をしかめれば、何かを悟ったように佐助は言う。

「大丈夫大丈夫!都合が悪いなら心配すんな!ほら!俺様器用だし?一人でなんでもできるもん!」
「ネタが古い。寒い。シネ」
「ちょ!」
「‥‥‥」

小太郎が眉をひそめながらわたしたちを見つめる。どうやら心配してくれているようだ。わたしはふっと笑うと、小太郎に言う。

「佐助の友人代表として、一緒に行ってやってくれないか、小太郎」
えっという佐助をよそに、小太郎は凄い勢いで首を上下ガクガク言わせながら承諾する。

わたしは楽しげに微笑み、佐助からアクセサリーを奪い取る。

「後で返せと言われても、返さないからな、」
「もちろん!また来週な!」
「‥‥‥」

手をふり、それから急いでそこを後にする。
‥すまないな、と小さく呟いた。
おそらくわたしは、もう彼とは会わないだろう。
――なぜなら、彼を巻き込むにはいかないからだ。
10年前見た、憔悴仕切った彼の目を、もう二度とわたしは、見たくはなかった。













「告げる。汝は何人たりとも――」
狙うサーヴァントは三大騎士。セイバー、ランサー、アーチャーだ。
特にセイバーはわたしにとっての大本命である。
セイバーはサーヴァントの中でも最良。バランスが取れていて扱いやすい。喚ばれるサーヴァントによって異なるが、宝具のバランスも取れている。
しかし、セイバーのカードは既に他の魔術師に引かれているだろう。
触媒を使いセイバークラスを召還。戦争に参加しようとする魔術師達がしないわけがない。
ならば、アーチャーか、ランサーか。
わたしは、治癒の魔術よりも、戦闘魔術の方が得意とする。だから、わたしも前線に立ちたい。アーチャーだと、後ろから援護が貰える。ランサーだと、先手をやらせる。どちらでも、わたしとの相性は良いはずだ。

しかし、もしもそれ以外が当たった場合。完全に見習い魔術師のわたしは不利になるだろう。ならば、ここはどちらか一つに絞って、触媒を用意し、召還するべきだとわたしは考えた。

(我ながら、作戦は完璧だ!)

聖杯へ参加するために、前々からありとあらゆる触媒を用意していた。
しかし、一向に令呪が現れなかったのだが、‥昨日二双の槍を手に入れた途端、令呪が浮かび上がった。

(つまり、この槍の使い手だった者が、死後、世界と契約しサーヴァントになった‥!わたしはそのサーヴァントを召還する!)


その真っ赤な二双の槍の使い手は、調べた結果、<真田幸村>という、戦国時代の武将であることがわかった。

智将と名高く、恐れるほどの槍使いで、天下分け目と言われた関ヶ原では、徳川に寝返らずにそのまま石田軍に残ったといわれる誇り高い忠誠心。


勝てる。わたしは理解した。
この戦争に、勝てると。
<真田幸村>をランサーとして召還し、一緒に戦い抜き、勝利するのだと。わたしは確信した。



「我が問に答えよ!天秤の守り手よ――――ッ!」

魔法陣の光が、一気に増した。まるで爆発のような光に、思わず瞳を閉じる。
そして、次の瞬間、ドカァン!とまたまるで爆発のような、否、もしかしたら爆発したかもしれない、そんな大きな音が聞こえ、わたしは驚き目を開けた。
なんてことだ。こんな時に停電している。
魔法陣からの光も消えている。


「まさかの‥失敗‥?」

泣きそうになった。ああ、謙信さま。申し訳ありませんこんな役立たずの能なしのわたしで‥もう自害するしか――
なんて血迷っていた時だった。
どしゃーん!と、三階で何かが壊れるような音が聞こえた。

(‥‥‥!)

謙信さまから受け継いだこの豪邸は、広いがわたし一人しか住んでいない。
‥‥わたし、一人しか。
まさか、と思いわたしは三階へ一気に駆け上る。
その音が聞こえた部屋のドアを開ければ、本棚を壊して着地したのだろうか、一人の見知らぬ男が瓦礫の上に座り込んでいて。

「‥きさまは、わたしのサーヴァントだろうか‥?」

わたしの問いに、その男はしばらくこちらを眺めた後、小さく苦笑し頭をかいた。

「それは俺の台詞ではないか?
‥問う。俺を喚んだマスターは‥」
「無論!わたしだ!」

そう言ってわたしは右手の令呪をそいつへ見せる。それを見せつけられたわたしのサーヴァントは、額に手をあて、小さくため息をついた。

「‥やれやれ。とんだマスターに引き当てられたもんだね、」
「‥‥どういうことだ」
「そのままの意だ、マスター」

そう言ってわたしのサーヴァントは立ち上がって瓦礫の埃をはたく。わたしは眉をひそめながら彼を見つめる。
彼の姿を見つめ、違和感を覚えた。
血のような真っ赤な髪、顔の左半分を隠した真っ白な仮面、何十にも被った長いマント。
―――どう考えても、彼が槍を使って戦う想像が出来ない。

「‥一つ質問をいいか」
「どうした?俺のマスター」
「‥‥これ、きさまのだな?」

わたしが重い槍を一つかかげれば、わたしのサーヴァントは、少し言葉を失ったようにそれを見る。

「ああ、そうだが‥‥。‥なるほど、それを触媒に、俺を呼び出したわけだ。」
「ああ。‥ならばきさまが<真田幸村>で合っているのだな?」

すると、さらにはっと彼は笑い、そして困ったというように頭をかけば、こちらに正面を向け、言う。

「なら聞くが俺のマスター。‥あんたは俺のクラスが何か知っていて?」
「愚問だな、触媒が槍、ならばランサーに決まっているだろう」
「‥‥これはまいった」

さらに頭をかきむしるわたしのサーヴァントに、わたしはさらに頭を傾げる。

「どういうことだ、ランサー」
「‥残念、俺はランサーではない」

わたしの思考回路が止まった。槍を落とす。がしゃん。わたしのサーヴァントは、それを申し訳なさそうに、が、無表情に近いそれで下を見つめた。

「な‥そんなバカな!真田幸村なんだろ!?なんだ??まさか真田幸村は剣もつかっていたのか?もしかすると弓つかいか?ならばセイバーか?アーチャーか?」

「‥ご期待に応えられなくてすまない。俺は、三大騎士ではない」

わたしに、死亡フラグが立った。なんと言うことだ‥、三大騎士でない‥だと‥。

「ああ‥しかし、そうだな‥たしか武田騎馬隊とかいうやつがあったな‥そうか‥ライダークラスか‥くそう‥真田幸村でもランサーでなかったのならランサー枠はすでに埋まってい‥」
「いや、マスター。そもそも俺は、真田幸村ではない」
「‥‥は」

三大騎士ではありません宣言はまだしも、触媒の持ち主ではありません宣言は、いやいや、それはさすがにないだろう‥!

「ばかな!そんなわけないだろう!触媒の持ち主が来ずになんで赤の他人が召還されるんだ!ばかかきさま!なんだじゃあきさまはこの槍を作った槍職人か!?」
「‥まぁ、そういうことになるか」
「そうか!‥‥えっ‥あ‥えっ?」
「‥‥マスター、あんたは根本的に間違っている。それは真田幸村の持ち物ではなく、俺の持ち物だ」

そう告げたわたしのサーヴァントが、槍を拾う。それをしばらく眺めた彼は、ため息を吐き出した。

「真田幸村の槍の偽物を、俺は造り、振るっていたからな。‥まさかそれが本物と思われ受け継がれていたなんて、これは少し失敬な事をした」
「は‥はぁ!?なっえ‥ちょ‥」
「落ち着けマスター」
「落ち着いていられるか‥!」

わたしはそいつをキッと睨みつけると、深呼吸をして、そいつに問う。

「なら、きさまのクラスはなんなんだ!キャスターか?ライダーか?まさか理性があるからバーサーカーなわけはないよな!?」

そう、まくしたてれば、わたしのサーヴァントはマントをバサリとひっくり返しながら、無表情のまま、しかしながらどこか楽しそうに、言う。

「残念だ俺のマスター。マスターはどうやら、俺のクラスを所望してはないらしい。」


なんということだ。わたしはがくりと膝を落とす。さっきまで勝てると思っていた思いを撤回しよう。ああ、なんてことだ!
果たしてわたしはこの戦いに生き残れるだろうか‥?


「とりあえず落ち着こうか、‥居間はどこだろう。ゆっくり紅茶でも飲みながらこれからの話をしよう」

わたしの絶望と心配をよそに、何故か異様に落ち着いているわたしのサーヴァント――サーヴァント中もっとも最弱クラスといわれる――、暗殺者(アサシン)は、苦笑しながらそう言った。
その微笑みが、どこかむず痒くなって、懐かしくなって、わけがわからなくなったので、とりあえず彼の入れる紅茶を座って待つことにしてみた。








―――――――――
上杉かすが、アサシンクラスを召還。
残りあと二組。




(うわばばば全然性格ちがいますね‥まあ‥いいか!原作もこんなんだし。もちろんあの人です(^O^))

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