騎乗兵は舵を失い、荒波に突き進む









助けて、と聞こえたのだ。
それは、少女の声だった。


その騎馬兵は、暗闇の中でしっかりとその少女の声を受け入れる。少女の自覚のないその悲痛の叫びを、己との精神が繋がった瞬間感じ、彼はそこに手を差し伸べた。

彼女を、守ろうと思った。

騎馬兵の男には生前の記憶がない。しかし、ただ、一つだけ覚えている事がある。

大切な“宝”を守りたかった。

きっと自身は守れなかったのだろう、だから、後悔し、新しい生を掴んでからもなお、守ろうとしているのだ。
宝は、財ではない。自身が大切にする、仲間だった。
それを、もう二度と、失わぬように。
だから、少女を、守ろうとした。
彼女の契約を受け入れ、召還に応じ、自らの宝である彼女に、手を伸ばした。

伸ばそうと、した。







「おいッ!しっかりしろ‥ッ!」

召還に応じ、現界すれば、最初に見た世界は倒れるところの血だらけな少女で。
即座に駆け寄り、その腕の中に少女を抱き寄せる。まだ息があり、かすかだが、生を繋いでいた。
ほっとする余裕なんぞ、彼には無く。どうすればいいか、頭の中で考えをめぐらせる。自身に治癒の力が無いことを非常に恨めしく感じた。
騎馬兵は、ありったけの苛立ちを舌打ちに込めながら、前方を睨む。


「おい、そこの奴、‥これ以上うちのマスターに近づいてみろ。命はねぇと思ってもらわねぇとな‥!」


そのドスの聞いた声に返答を返したのは、暗闇でひっそりと見せる冷たい目で。
ぞくり、と騎馬兵は鳥肌をたたせる。


(まじかよ‥ッ、サーヴァントじゃねえくせに‥、なんつー殺気醸し出してんだ‥!)


途端にその場に静かな、まるで何かを馬鹿にしているような、そんな笑い声が通る。
騎馬兵は眉の皺を真ん中に集めながら、笑い声に問う。

「何が、おかしいっつーんだよ‥」
「質問はこちらが先だ。‥ライダー」

自らの質問が先なのが当たり前だ、というように、その人間は冷ややかな目で騎馬兵を見下しながら、言葉続ける。


「それが、マスター、だと?」

その一言に、怒りを覚えるのと同時に、血の気が引くのが騎馬兵にはわかった。
恐る恐る、少女の手を見つめる。左手は正常だ。ならば右手。右手に己と繋がっている、令呪が、あるはずである。

しかし、そこにはなかった。

彼女には、右手がなかった。切り取られていたのだ。流れる血が、より鮮明に、騎馬兵の瞳に映される。


「テメェ‥ッ!」

吐き気がした。守りたかったものを、手にとる前に守れなかった罪悪感と、目の前に映るその、狂気に。
狂気は、笑う。


「選択を、させてやろうではないか。ライダーよ。」
「選択‥だと‥?ふざけるな!騙し討ちなんざキタねえ手つかいやがって!」
「潔くその女にトドメをさしてやり、自害するというのも手かもしれないが、お前がこちら側にくるのならば、その女、見逃してやろうではないか」
「‥‥なんだと?」
「こちらの支配下になれと言っているのだ」

騎馬兵は、怒りのあまり、武器を取りそうになった。しかし、少女の呻き声に、はっと我に帰る。
少女は血の気を引き、痙攣を起こしていた。このままでは数分で確実に死んでしまうだろう。
怒りで震える喉を、必死に押さえながら声を絞り出す。

「俺のマスターを殺そうとしたやつを、マスターに選べと?」
「拒否してもいい。だが、いいのか?お前の令呪はここにある。拒否と同時にお前を自害させ、‥その女を、放置するが?」
「‥‥わかった、その条件、呑む。」

騎馬兵は、悔しさに視界を瞑る。少女の肩を抱きしめながら、言葉を続けた。

「だが条件を更に2つ足す。まず、こいつに治癒をかけてくれ。‥できるだろ?」

マスターの基礎は、サーヴァントの治癒ができる事だ。自身を騙し討ちで得てマスターになるつもりであったならば、治癒能力は持っているはずである。外道だろうが、悪魔だろうが。

「ふむ、いいだろう」
相手が小さく頷いたを見て、騎馬兵はさらに続ける。

「あと一つ。‥令呪一個使って、俺に服従させろ」
「‥‥なんだと?」
「令呪で絶対服従を命令しろっつってんだ。じゃねぇと、アンタ、いつまでたっても背中を警戒しなければならなくなるからよ」
「‥‥はっ。いいだろう。」
悪魔がそう笑い、吐き捨てた。
そうして騎馬兵は、地に片膝をつけた。







治癒が効いたのを見届けた騎馬兵は、そっと眠ってる少女の頭を撫でると、立ち上がった。
歩き出した悪魔の後ろに続き、暗闇を歩き出す。
ふと立ち止まり、後ろを振り返る。
置いていった宝がもうすでに見えなくなっていて、それでいいんだと、騎馬兵は自嘲気味に、笑う。



(隠して置いた方が、この手にない方が、最良、なんだ)
(だから、俺が見えない場所でどうか、輝いてくれ)








―――――――――
鶴姫、ライダークラス召還。
直後に騙し討ちに合い、サーヴァントと令呪を略奪され、戦闘不能。
???、ライダーが再契約。
のこりあと4組。


たぶん一番のわたしの肩入れサーヴァントな兄貴。どう見ても幸運Eですありがとうございます(^O^)

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