少女は、夢をみる










少女には、いつも期待の目や好奇の目が周りにあった。少女が望んではいないものがいくつも取り憑いていた。
生まれてきたその瞬間から定められた運命。まるで操り人形だと、知らない誰かが自分をそう言っていたのを聞いた事がある。

だから、少女は自由を夢みた。


(まるで、そう!好きな事を好きなだけできる、海賊のような!)


前に、側近から「巫女は夢物語などに悪影響されすぎです」などと注意を受けたが、とんでもない!と少女は思う。
悪影響、というのは語弊、いや、間違いがある。これは良影響といってもいいだろう。少なくとも本人はそうなのだと信じて疑わない。

少女の家系は、由緒正しい魔術師の一族で、そして少女は跡取りであり、それも恐れるほどの優秀であった。
騙されやすく、注意が足りないというのは欠点であるが、それを差し引いても実力は十二分素晴らしいだろう。

だから彼女は聖杯に選ばれた。

それは彼女が望まない事だった。戦争というものは嫌いな類であったし、そのために今までつらい教育をさせられてきたと考えれば、自然と恨みが募っていく。

しかしながら、少女は幼かった。

だから、夢をみたのだ。そうしなければ、自分は救われないような気がしたから。


彼女は鼻歌まじりに魔法陣を描く。自分が今から喚ぶ英霊に、期待という夢を抱きながら。楽しそうに、指で弧を描く。


(どんなサーヴァントさんがくるのでしょうか、‥ふふっ、楽しみです)
(戦争なんて、わたしには関係ありません!サーヴァントさんに、わたしを攫ってもらって、それで、)
(ここから逃げて、サーヴァントさんと一緒に、世界中を旅したいです!)


彼女は夢見ながら、歌ってみる。
自身が期待するその英霊を、こちらへ喚ぶために、歌う。





光をおび、一帯は煙に包まれる。
少女は小さな手を両方握りしめながら、一点を見つめた。
徐々に視界を遮る煙が晴れていく。その目の前の奥には、長身の人影が立ち尽くしていて。
少女は、期待に胸を膨らませた。どくんどくん、と波打つその鼓動を抑えようと、両手を胸の前に置く。


(やった!成功しました!これで、やっと、)


少女は夢を抱いていた。それはそれは、淡い、夢を。
その夢を、深く眠り見すぎたのかもしれない。
夢に焦がれたせいで、近く纏わりつくそのどす黒い現実に、気づかなくて。


(‥やっ‥と‥‥っ‥?)


だから、そう、背中から貫通したその刃の頭をお腹中心に感じた時は、自分が見ていたのは、綺麗な夢ではないと少女は悟り、

(ああ‥これは悪夢だったのですね‥)


なら早く覚めてくれればいいのに、と少女は眠たくなったその瞼を下ろす。
体を揺さぶられようとも、自身を呼ぶ聞いたことのない声がしようとも、少女は瞼を開こうとはしなかった。




(現実と悪夢は一つになり、眠り姫は王子に気づかず眠ったまま)






――――――――――
鶴姫、???クラスを召還。
次のお話とリンクします。


鶴姫の立ち位置はダメットさんですねーでも鶴姫はマスターの中では一番最強です。まじ俺嫁。

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