槍騎士が貫いた、












喉がカラカラだ。
「はぁはぁっ!」
ぶるぶると体中がふるえる。
「はぁ‥っはぁ‥っ!」
どくどく、と心臓がうるさかった。

暗闇の中で、ただ俺は必死に走りながらも、どうしてどうしてと思考を巡らせながら逃げていた。

どうして、おれはにげているんだろう。









「こた、今日はありがとうなー」
今日は、俺の義理父にあたる武田信玄、‥大将の命日だった。墓参りを済ませ、ついでに外で夕食を食べ、帰宅時につけばいつの間にか辺りは日が落ちていて。
腕をぐっと真上に伸ばしながら気楽に親友へ礼を言えば、友人は即座にぶるぶると首を左右へ振る。

「今日の埋め合わせはまた今度やらせてくれない?」
「‥‥‥」
「なんでさ?おれさまだってアンタに礼が言いたいの!今日だってご飯奢ろうとしたらいつの間にか払ってたしさ‥」
「‥‥‥」
「だー!そんな目しないでよ!おれさま絶対アンタにお礼するんだからね」

それでも小太郎は首を横に振り続ける。俺は困った風にため息をつきながら、さらに続けた。

「なら、こたが好きなお菓子とか作るってのは、どう?」
「!」
「おーおー食いついた食いついた!じゃ、そんで決まりねー」

こたは見かけによらず甘いもんすきだよなー、なんて呟きながらちらりと彼の横顔を伺う。無表情だが、いつになくうれしそうな雰囲気を漂わせている。‥よし、なら小太郎が一番好きなプリンにするか。

「あ!‥そうだった‥、あぁこた、あのさ俺、学校寄るから、今日はここで別れるわ!」
「‥‥」
「昨日、携帯を机の中に忘れてきたっぽくてさー‥バイトの連絡メールが入ってたりしたら困るし、取りにいってくる」

じゃあね、と言えば、なぜかまた小太郎が首をぶるぶる振り始める。

「‥‥?どした?」
「‥‥っ!」
「あー‥もしかして、おれさまを心配してる‥、とか?」

どんぴしゃり。小太郎は大きく縦に首を揺らした。
最近、この近くで不可解な殺人事件が多発している。その死体がどうも異常らしく、最近のニュースはその事件で持ちきりだ。

「だいじょーぶだって!こただっておれさまの足の速さはわかるでしょ?」
「‥‥‥」
「だいじょーぶ」

いつもはここまで言ったら、引き下がるはずなのに、どうしてか今回彼は引かなかった。さらに、俺の袖口をきゅっと握り、帰宅せよと催促してくる。

「こた、‥もう一度言っちゃうよ?」
「‥‥」

しぶしぶ彼は俺の袖口から手を離す。しかし彼の新しい一面が見れて俺は嬉しくなった。拗ねたとこ、初めてみたよ!

「じゃあね、」

そういって手をふれば、彼も小さく手を振ってくれた。それに背を向け、彼とは反対方向へと歩き出す。ふっと気まぐれに後ろを向けば、まだ彼は此方を見つめ続けていた。心配しすぎだと、俺は一人ごちに苦笑し、また彼に小さく手を振った。それからは、振り向かないでただ目指す場所へと向かっていった。


そう、もう、戻れなくなる、逃げられなくなるとも、知らずに。













「かすが、‥見つけた」
「!‥どこ?」
「すぐ近くだ。‥学校だろうか」

私を軽々と担ぎ上げながらアサシンは凄いスピードで夜の町を走り抜ける。
サーヴァントの気配を探索していた彼は、その存在を感知した瞬間、素早く体制を整える。

「おまえ、学校とかわかるのか?」
「‥サーヴァントはある程度、聖杯からこの世界の一般知識を得ている。学問を習うとこだろ?」
「いや、そうではなく。‥よく今サーヴァントの居る方角が“学校”だとわかったな。‥まるで、そこがはじめから学校であるとわかっていたみたいだ」
「‥アサシンクラスだからだろうな。ある程度こちらの世界の場所は把握した。なんなら、アンタの好みそうな喫茶店の居場所も突き止めようか」
「いや‥いい。しかし、意外にいい性能が備わっているような気がするな‥アサシン‥」
「お褒めいただき光栄、と」

ついたぞ、とアサシンは私に衝撃が無いよう静かに止まる。私はアサシンから離れ、上を見上げる。目の前には、私がいつも通っている学校があった。少し顔をしかめながら、アサシンを見る。

「本当に、ここにサーヴァントが居るのか?」
「嗚呼、間違いなく。明らかに戦闘を誘っているな‥わざと気配を垂れ流している」
「‥私が聖杯戦争の参加者だとバレてしまったのか‥っ」

唇を噛み締める。この学校がバレるとは。しばらく登校は出来ないだろう。いや、そんな覚悟は等の昔から出来ていた!

「いや、安心していい、かすが。やつはアンタ狙いじゃあない。」
「‥どういうことだ?」
「アンタ狙いであれば、直接コンタクトをとるだろ?それに相手も一般人に見られたらやっかいな筈だ。‥あと、わざわざ目立つ学校でアンタを誘い出して、他のサーヴァントが釣れる可能性だってあるしな」
「じゃあ、そいつがこの学校に今いるのはたまたまだっていうのか?」
「そう。現に、−−−既に釣りはかかっていたらしい」

アサシンはこちらにチラリと視線をよこして、にやり。笑った。

「さてと、かすが。‥俺たちもこの誘いに釣られてみるか?それとも、傍観するか?」
「もちろん、戦うに決まってるだろう!」
「勇ましいねぇマスター。俺は白兵戦が苦手なアサシンなのだがな」
「‥やはりおまえは使えないな」
「今回は誉められなくて残念。‥ではかすが、今回は傍観という形でいいな?」

アサシンはそう言い放ち、私を改めて担ぎ上げれば、早々に地を蹴って飛び立った。このサーヴァントで勝てるのだろうか‥。私はアサシンを横目で見ながら深くため息をついた。









「こんな夜遅くにどこいくんだい、アーチャー!」
「決まっているだろう、戦いにだ」

うげぇ、とカラスはちいさく舌を出す。

「あのなーアーチャー、確かに聖杯ほしいのもわかるけどさー、その、なんていうか、暴力、だめ、絶対!‥だろ?」
「‥私のマスター、ならば貴様はなぜ私を喚んだ?これは戦争だ!」
「‥あのさ、アーチャー、なんでそう、傷つくような事ばっかりしようとするの?」

ああ、またカラスの戯れ言が始まったとわたしは深いため息を吐く。

「戦争は戦うものだ。傷がついて当然だろう」
「なんでさ!なんで戦争なんかするんだよアーチャー!だって世界はこんなに綺麗なのに!」

やつの頭の中はお花畑でもあるのだろうか。

「戦争やらなければいけないほどにこの世界は危険に陥っているなのかい?絶対の危機があって、戦争をしなければならないの?」
「それは‥、‥危険故にやむを得ず武器を取り始めるのではない。戦争は、そんな自己防衛だけでははじまらない、マスター」

とんだ甘いマスターに引き当てられたと、最初から感じていたが。まったく、とんでもない。甘いすぎて、吐き気がしそうだ。

「始まりの戦争はいつだって人の欲故だ。現に、ほらな、今の戦争もまた、人の欲から生まれたものだろう」

何でも願いが叶うという聖杯。それをかけ、一組になるまで殺し合う、戦争。故に、勝者には聖杯が贈られるのだ。

「‥ばかなはなし、だよ」
「‥なんだと?」
「だから!願いを叶えるせいはいだかしょうはいだか知らないけどさ‥!女の子が殺し合う理由にはなんないよ!」

鶴ちゃんも、アーチャーも、何考えてるんだよっ、と我がマスターはどうやらお怒りのようだった。
‥鶴ちゃん?

「‥マスター、つる‥とはなんだ?」
「‥俺の友達だよ。今意識不明なんだ。多分、その子聖杯戦争参加して、誰かに襲われんだと思う。死なないように治療した跡はあったけど‥まだ目を覚まさないんだ。」
「‥はぁ、貴様はほんっと救えぬカラスだな‥」

治療したやつもしたやつだが。その人間が、またはぐれサーヴァントと再契約する、という考えもあるというのに。この時代の人間は、甘い者ばかりなのだろうか。
‥戦争だというのに、笑い話にもならない。

「いくぞ、マスター。この建物から魔力を感じる。どうやらここに、サーヴァントがいるようだ」
「えっ?ちょ‥アーチャー!?ほんとにいっちゃうの?危険だよっ!つかここ学校じゃんか!」
「マスターはここに通っているのか?」
「いや‥ちがうけど‥」
「ならばマスターの身が知れたというわけではない。問題ないな、いくぞ」
「いやっ!ありありですけども!」

わたしのマスターである、前田慶次という男は、ぐじぐし文句をたれながらも、それでもわたしの後を駆け足で追ってきた。
戦うのは反対だが、わたしが戦うのはもっといやだと、そういえば言っていた気がする。
‥とんだカラスに当たったものだ。
わたしはこれからの事を考えては、思わず涙を流しそうになった。













「よーこそ。よく俺の誘いにノってくれたな。」

学校のグラウンドの中心、アーチャーを出迎えたのは、銀髪の男。そのただ一人だけである。アーチャーはその男を見据えながら、一つ眉を上げて言う。

「貴様、マスターはどうした」
「あん?ああ‥うちのマスターはちと野暮用でよー‥っていう冗談付き合えるような顔してねーな、アンタ」
「答えない方針ならばいい、貴様を倒した後、探し出してそいつも倒すのみだ」
「おーおーよろしく頼むぜ!うちのマスターはちと厄介でよ。俺とは気が合わねーんだよ、だから是非ぶっ飛ばしてやってくれよ!‥まっ、」

俺を倒せたらな、と男はどこからか槍のような大きな碇を出現させ、肩にどかりと担ぎ上げる。それを見た瞬間、アーチャーもまた、どこからか二丁の銃を両手へと出現させた。

「碇‥?なんだ、貴様ふざけているのか。それが武器なのか‥?だとしたら、貴様はいったい何クラスなんだ、ランサーか?まさか碇使いということはあるまい?」
「さぁな?そちらこそ、銃士とはな。銃士のクラスなんぞ、ないはずだが?」
「そうだな‥イレギュラーかもしれんぞ?わたしも、貴様もな」
「ハッ!‥そりゃあイイねぇ‥予想できなくてワクワクしやがる」

では、いざ、とお互いの武器を握る手に力が籠もる。アーチャーのマスターである慶次は、二人の闘気に圧倒されたまま制止の一言も口にすることができなかった。今から殺し合うのだと、わかるようなこの殺気。恐ろしくて心臓がばくんばくん、と悲鳴をあげている。

両者が足に力を入れながら踏み込む。
まさに今、お互いに飛びかかろうとした時である。

ガサリガサリ、と音と大量の魔力がその場に通った。










アサシンには気配遮断スキルの他に、気配察知スキルが備わっている。霊体であるサーヴァントだけではなく、人間の気すらも拾うアサシンは、ふっとこの場所から、自分ら二人と今監視している二匹のサーヴァント、一人のマスター、その他にもう一つの気を感じる事に気づいた。

「マスター、人の気配だ」
「どこだ?しめたな、あの銀髪のサーヴァントのマスターかもしれない」
「‥いや」

どことなく、アサシンは馬鹿にしたように口端を高く持ち上げては首を振る。

「魔力を一切感じない。これだけ気配を探っても魔力を感じないとなると、‥一般人だ」
「なっ‥!一般人だと!?今何時だと思っているんだ!」
「まだ九時だぞ、かすが。」

そういってアサシンは、身を隠した長いマントから手を出す。真っ黒に染まったそのまがまがしい手は、皮膚なのか何かを身につけているのか、はっきりとしない。かすががその手に釘付けになっていれば、アサシンは指を折り曲げた。ぼきん。骨を鳴らしているようだ。まるで今から戦うような準備をはじめるアサシンにかすがは首を傾げる。

「何をしているんだ、アサシン」
「アンタも知っているだろう。魔術、戦争、または協会に関係のない人間には口封じを徹底することがルール、てな」
「!‥まさか」
「なに、暗殺は得意分野だ」

そこで得意げになるな!とかすがは叫ぶ。アサシンはやれやれ、と手を上げ降参のようなポーズをとった。

「唯一の得意に得意げにならんでいつ得意げになればいいんだ」
「アンタ‥まさかだろ?まさかそれしか‥?」
「暗殺の他にも毒殺なども得意なのだが‥‥マスター、あれだ。口封じの命を」

そういってアサシンが指差した先。体育倉庫付近で佇む、青年が一人。どうやら、塀越えで中に入ったようだ。
その青年は、ただただ立ちほうけていた。あの2つのサーヴァントの気に、驚きと、恐ろしさで動けないでいる。
かすがはその青年を知っていた。よく知っていた。わからないわけがない。彼は、幼なじみで、一番の友人で、そして何より、かすがが唯一守れる、救える、救いたい、大切な、

「‥かすが!やつが正気に戻ったら逃げる!‥っもう俺はいくぞ」

そういって彼の元へと急ごうとするアサシンに、思わずかすがは、無我夢中で手を掲げ叫びあがった。


「まて‥!令呪より命ず!彼を殺すなアサシン!!」












その魔力は、令呪使用による魔力放出からだった。それをいち早く察したのはアーチャーであった。即座に方向転換し、銃の一丁を物音と、魔力を放出したと思われる数メートル離れた木の上へと狙いを定める。

「あん?だれだ、戦いの邪魔立てするやつはよ」

銀髪の男は、脱力したように碇を地面に落とすように差し込みながら、そこへ問いかける。アーチャーは睨みつけながら、黙殺する。


「失礼。うちのマスターがとんでもないことしでかしてな」


そう言って出てきたのは、黒のマントを何重にも着重ねた、黒いマスクで顔を隠した、言うならば黒づくめの男だった。

「邪魔するつもりはなかったんだ。こちらはこちらで情報収集するつもりでな、傍観を徹底するつもりであった」
「はっ、こそこそと嗅ぎ回っていたということか。最弱サーヴァントの汚名をそのまま被るつもりか?アサシン?」

アーチャーの問いに、アサシンと呼ばれた黒づくめは苦笑をしながら肩をすくめる。銀髪のサーヴァントはほぅ、と感心を示したように、目を細めながらアサシンを見つめる。

「気配ぜんっぜん感じなかったぜ!なるほど、アサシンクラスは気配遮断スキルを持っているのか」
「‥たしかに、そこだけならば誉めてはやろう。わたしですらも、貴様のマスター共々気配を察知出来なかった。マスターをも補修できるとはな」

「‥ふふ。ありがたき幸せ、てな。有名な武霊であるライダー、三大騎士クラスであるアーチャーに誉められたのでは、少し鼻が高くなる」

アサシンのその一言に、アーチャー、そして銀髪の、ライダーと呼ばれたサーヴァントはピタッと固まる。

「‥なるほどな、てめーのこそこそレベルはそーとー高ぇって事だな」
「よくぞわたしをアーチャーと見破れたなアサシン。さて、姿を現したと言うことは、わたしたちと三つ巴をするということだろうな、アサシン?貴様の得意そうな暗殺類い、わたしには通用しないぞ」

「おや?言ったはずだが?俺はアンタらの邪魔立てをするつもりはないのだと」

そういってアサシンは、唯一ともいえる、黒ではない色の、真っ赤な髪をかきむしるようにがしがしと音を出す。

「俺のマスターがいらぬ命令をしてしまって、困っているところなんだが、なに、アンタらが心配することはない。ただ一般人の見学者が増えるだけだ。」

そういってアサシンがちらりと視線を向けた先には、遠くでこちらを見つめる青年が一人佇んでいて。
青年がはっと気がつき、素早く身を翻して壁を登り、外へ出、その場から逃亡する

「ちっ!一般人に見つかったか‥!わーてるよマスター!今から消しにいく!」

念によるマスターからの指示を受けたのか、ライダーはその場にいる誰ともなくそう叫べば、霊体化し姿を消す。

「アーチャー!いくな!」
アーチャーのマスターである前田慶次は引っ付きそうなほどの痛みが生じるくらい大きな声でアーチャーの動作を制止させる。
ライダーと同じように動こうとしていたアーチャーは、即座に自らのマスターへ鋭い視線を投げつける。

「ルール、には‥従うべきだぞ‥マスター‥!」
「‥アーチャー、聞かないと、これ、使っちまうぞ」

これ、と指すのはもちろん令呪の事で。それを聞き、アーチャーは身を固くした。

「こんなくだらないことで令呪を消耗するつもりか‥!必要な際に足りなかったらどうするんだ‥!」
「だから‥!とりあえずもう銃を下ろそう‥?な‥!ライダー?てやつもいなくなったし、その、えーと、真っ黒いお兄さんも戦う気ないみたいだし‥」
「‥‥っ」
「そうだな。俺は出来ればそちらとは戦いたくはない、アーチャーのマスターに同意の他はないな」

アサシンの声が呑気に夜の学校を通る。アーチャーは最後の砦を切り札に言う。

「アサシンを倒す、チャンスなんだぞ、マスター‥」
「‥アーチャー、」

前田慶次は己のサーヴァントを真っ直ぐと見つめる。考えを変えるつもりは毛ほどもないらしい。アーチャーは諦めたように、首を左右に振りながら銃の具現化を解いた。

「‥アーチャー」
「マスター、貴様の方針は気に入らない。考えが幼稚、愚かだ。しかしわたしが貴様のサーヴァントである事には変わりはない。よってわたしは、貴様の方針に従おう‥」

契約は絶対だからな、とアーチャーは腕を組みながらそう吐き捨てるように付け加える。
そんなアーチャーの態度でも、そのアーチャーのマスターである前田慶次は充分に満足そうである。

「ありがとう、アーチャー」
「‥礼を言われる筋合いはない。それより、話を少し脱線しようマスター。何よりわたしは、こちらから動かないそいつが気になって仕方ない。」

そいつ、とは勿論アサシンの事だろう。アーチャーの言葉を聞き、前田慶次もきょとん、と呆然になってしまった。

あれ、そう言えば何故彼は一番最初に一般人の気配を察したのに、口封じといかなかったのであろうか


「言ったろう?うちのマスターがとんでもないことをしでかした、と」

アサシンはアーチャーらの意図を読み取ったのか、わざとらしく小さいため息を吐き出しながら告げた。

「‥とんでもないこと?」
「先ほどの令呪使用による魔力放出と関係があるのだな。」
「そういうことだ。うちのマスターはどうやらあの一般人がお気に入りらしいな。」
「‥殺すなと命じられたか。ふっ、お互いマスターには悩まされるな」

アーチャーの言葉に、アサシンは苦笑をする。アンタのマスターならまだ気が楽さ、とアサシンが言う。


「そういった能天気のマスターなら、隠れて何かしらしでかしても気がつかない事が殆どだからな。うちのマスターはだめだ、全部に気を張っている」
「陰で命令違反か、貴様、それでも生前に名を残した者か」

少し目をキツくしたアーチャーに、ニヤリとアサシンは笑う。
その笑み見た瞬間、前田慶次はぶるりと震えた。悪寒にがくがくと足の膝が鳴く。

「生憎、俺には誇りやプライドというもんがなくてね。そんなもの、俺を生んだ女の腹の中に忘れてきた」
「誇りがないなど、まるで脳がないカラスのようだな、貴様」
「そうかもしれないな、黒くて、汚れても気にならない、鳥」

そう言って笑うアサシンは、まるで本当のカラスのようにマントを翼のようにひるがえし、空へと舞い上がる。

「では俺はこれで。うちのマスターが一般人の救出のため飛び出して行ってな。ライダーにマスターが殺されてはかなわん。そろそろマスターの下へ戻るとしよう」

マントの暗黒が、アサシンの体全体を包み込んだと思えば、それは、夜の闇へと消えていった。
そして、先ほどまで戦慄が切って落とされそうだったその場所は、ただ静かな夜の学校と化していた。













「佐助‥っ!とまれ!わたしだ!」
かすがの声に、全力で走っていた青年、猿飛佐助は足を急停止し、勢いよく後ろへ振り向いた。

「かっ‥かすがっ!?‥はぁ、はぁ、なん‥で、っはぁ、そんな、ことより、今のっ」
「いいか、っ佐助!‥っはぁ、はぁ、よく、きけっ!」

かすがは、呼吸を整えながら、佐助へと近づき、彼の両肩を力強く掴んだ。そうして彼の両目を真っ直ぐ見つめるなり告げる。

「今、さきほど見た事は、今すぐ、忘れろ‥!全部だ!誰にも口外してはいけない、何もなかった、お前は今日、家から出なかったんだ」
「なっ‥かすが‥どういう‥ていうか、今さっきの学校にいたやつら、もしかしてかすがとなんか関係あるの‥?」
「だから!忘れろと‥!」


「そーはいかないぜ、嬢ちゃん」


かすがは、佐助を庇うように彼の前に立つと、何もあるはずのない空(くう)を睨みつける。

「その声は‥先ほどのライダーだな?」
「ご名答!」

声と同時に、見覚えある銀髪が瞬時に具現化する。
かすがや佐助よりも遥かに長身なライダーは、背を屈んでにこりと笑う。

「なんだ嬢ちゃん、あんたは関係者なのか!‥つーことは、そいつはアンタの陣営と考えてもいいんだな?」

まぁ一般人だろうがそちら側だろうがどの道殺すんだけどな。
ライダーはどこからか学校に居た際見た大きな碇を具現化させ、軽々と片手で振り回しては肩に担ぎあげた。

「くっ‥」
「かすが‥、なにがどうなって‥」
「大丈夫だ、貴様はわたしが守る。
‥‥―――アサシン!」

かすがの叫びに返事をするように、黒い霧が立ち込め、そこから赤い髪の毛が揺れながら現れる。

「‥側に。」
「相手はライダー。貴様が苦手とする白兵戦だろうが、先ほど居たアーチャーよりかはまだましのはずだ!いいか、ライダーに騎馬物を出させたら詰む。貴様は素早さだけはいいからな、ライダーが騎馬物を出す前に決着をつけろ」
「‥はぁ、なんてマスターだ」

そう言ってアサシンはため息をつきながらも、両手に真っ赤な槍を取り戦闘の体制を整える。

「一度言ってみるが、かすが、そいつを差し出して逃げるという手もあるんだぞ」
「もう一度令呪を使われたいのか!」
「‥やれやれ」

わかりましたよ、とアサシンは苦笑し、ライダーへと向き直り、槍先を彼の心臓部分へ向ける。

「ほぅ、アサシンが槍使いとはなぁ?」
「なんだ?おかしいか?」
「ああ!これは楽しめそうだな!」


そう会話を交わせたかと思えば、次の瞬間、二人の姿が消えた。
彼らが立っていた中央で火花が散る、瞬間に彼らはまた現れる。アサシンの槍がいくつもの攻撃を瞬時に繰り出される。ライダーは身を固め防御の姿勢をとっていた。

今だ、とかすがは感じた。

「佐助!チャンスだ、そのまま逃げろっ!」
「え‥ちょ、かすがは」
「わたしならアサシン‥あの黒い男が守ってくれる!貴様ははやくここから立ち去るんだ!」
「で‥でもさ」
「いいから行け!いたら迷惑だ!」

その言葉に、佐助はぐっと歯を食いしばる。どうしようかしまいか迷っていた際、声が聞こえた。

「マスターの言うとおりだ。お前がいたら邪魔の他にならない。かすが、が心配なのなら、お前がこの場から消えろ」

アサシンの声だ。言葉を吐き捨てながら、更にまた槍の矛先を突き刺す。
いけっ!とアサシンが鋭く叫ぶ。佐助は一瞬躊躇ったが、かすがと目が合い、彼女の真っ直ぐな視線に促され、渋々承諾する。

「‥っ!‥な、なぁアンタ!かすがの事、頼んだからな‥!」
「誰にモノを言ってるんだ、猿飛佐助」

佐助の声に、にやりとアサシンは笑う。
それを見、佐助はかすがに一瞥を送ると、その場から駆け出した。








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