ろぐ | ナノ





むかしむかし、あるところに、片目の男がいました。
男がなぜ片目なのかというと、それは男が幼いころに、ひどい病気にかかり、ひとつの目が腐りきってしまったからでした。
きれいな顔立ちの男でしたが、片目しかないので、本当のおかあさんには気味悪がられていました。
男は何度も何度も自分のおかあさんへ、愛を贈りました。
しかし、おかあさんからは一度も愛が帰ってくることはありませんでした。

なので、男は伝えても伝わらない愛などいらないと、そう思いました。














男はあるとき赤鬼に出会いました。
赤鬼は、この世界では珍しい優しさを持った鬼で、そして、純粋な心をもってました。
男はすぐに赤鬼と仲良くなりました。
男は、赤鬼がすごく大好きになりました。一番の友人だとそうおもいました。
男も赤鬼も、二人だけで遊ぶのを楽しく感じていました。
熱くなりすぎて、山や川を壊したことも少々あります。
そうなるときまってお互いにがく笑うのでした。

ある日のことです。赤鬼がいいました。

「某には、大切な者がいるのです。愛おしく、そして守りたいものが。ずっと、そばにいてほしい存在が。」

そう真面目な顔で、赤鬼がいうものですから、男は思わずどんなひとなのかを聞きました。
赤鬼はその人については何もいいませんでした。
男はさらに聞きました。

「その想いを伝えたのか?」

すると赤鬼は答えました。

「いいえ。まだでございまする」
「なら、いつ言うんだ?」

すると赤鬼は、どうしてか幸せそうに微笑みかけながら、男にこう言ったのでした。

「いいえ。伝えるつもりはありませぬ。これからも、きっと」

男は、赤鬼の意気地の無さに怒りました。
むかしに男は愛が欲しかったのですが、おかあさんからもらうことはできませんでした。
赤鬼は、あろうことか、愛を欲しがろうともしません。なにも伝えないまま、全てなかったことにしようとしていました。

だから男は赤鬼に怒りました。

「伝えられないくらいのちっぽけな気持ちなのなら、一生黙っていればいい。」

怒ってそう言えば、赤鬼は泣きそうに小さく笑ったのでした。













あるとき男は緑の中からカラスを見つけました。
そのカラスは冷たい目をしていて、うその笑顔ばっかりうかべていました。
カラスはいつもいつも木の幹に立っていたり休んでいたりしていました。
カラスは一人で幹に座っていたものですから、男はそれがすごく寂しそうなのだと思いました。
男は訪ねました。

「おまえはどこからきたんだ?」

するとカラスは目をほそめて言いました。

「よくおれさまが潜んでいることがわかったね。でも、あんたなんかにはしゃべらないよ。」

カラスはどうやら男のことが大嫌いのようでした。どうしてかと思いましたが、男はぴんときました。赤鬼です。赤鬼を傷つけたせいで、カラスは怒っているのだとわかりました。

「An-‥‥あいつと仲いいのか?」

そういえば、カラスは一瞬びっくりして、しかしすぐにこういいました。

「おれさまには心がないから、あの人と仲良しにはなれないよ。」
「どうして?いいじゃないか」
「おれさまは、真っ黒い影なんだ」

さらにカラスはいいました。
あの人は光で、自分は影なのだと。
自分の全てはあの人だけなのだと。
しゃべらないと最初言ったはずのカラスは、優しい目で赤鬼のことを話すのでした。
男はわかりました。
カラスは赤鬼を愛しているのです。
男はカラスに聞きました。

「その想いを伝えたか?」

カラスは答えます。

「いいや。言えないよ。」
「ならいつ伝えるんだ?」

するとカラスは、泣きそうな表情をしながら、こう言いました。

「いいや、言えないよ。これからも、ずっと。」

男はその言葉に怒りました。
むかしに男は愛が欲しかったのですが、おかあさんからもらうことはできませんでした。
カラスは、あろうことか、愛を欲しがろうともしません。むしろその愛を恐れているのでした。なにもできないまま、全てを無くそうとしているのでした。

だから男はカラスに怒りました。

「伝えられないくらいのちっぽけな気持ちなのなら、一生黙っていればいい。」

怒ってそういえば、カラスはおかしそうに、苦笑したのでした。












戦がはじまり、男と赤鬼は敵同士になってしまいました。
だから、男は赤鬼とは全然遊ばなくなりました。山も川も平和でした。
ある戦のことです。
男は速い馬で走っていると、目の前には赤鬼が立ち尽くしていました。
こちらを真っ直ぐみつめ、ただ立ち尽くしていました。
両手には二槍の槍。瞳には強い思いが。
何かを決意したような眼差しでした。

その戦の総大将だった男は、思いました。赤鬼の首をとらなばいかんと。なぜならば、敵の総大将は赤鬼だったからです。

誰かが合図したわけでもありません。男は馬から飛び上がり、赤鬼は走りながら槍を奮いました。
それからは金属のこすれる音が何回も聞こえましたが、やがては、あっけなく赤鬼が倒れてしまいました。
倒れた赤鬼を見下ろしながら、男は聞きました。

「想いは伝えたのか」

そう聞くと、赤鬼はにやりと笑って、首を振りました。
そして、赤鬼はこう言ったのです。


「川の向こう側まで、もっていくつもりさ。あの人がくるまで、ずっと持っとくつもりだよ。」


赤鬼はそう言って、初めて男の前で本当の笑顔を見せて泣きました。そうして、ゆっくりと死んでしまいました。
赤鬼の姿はそこにはなく、羽がたくさん散っていました。














男がまた馬を走らせていると、今度はボロボロになった赤鬼が、必死に前から走ってきていました。
顔をぐしゃぐしゃにして、今にも泣き出しそうな子供のようです。母親と別れ迷子になっているのでしょうか。

「よう、真田幸村」
「‥伊達、政宗‥‥」

赤鬼は槍を構えました。しかし、さきほど見てきたあの赤鬼とは違い、ぶるぶると震えています。

「そこを、どいてくだされ、どうか、通してはいただけぬか‥‥」
「HA、なぜだ?」
「‥‥‥失いたくないものがあるのでございます。」

そこで男は全てがわかってしまいました。
赤鬼の大切なものは、あのカラスだったのです。
赤鬼は、カラスを愛していたのです。
途端に、男はやりきれない気持ちになりました。
馬鹿なのだと思いました。
赤鬼もカラスも、ただの馬鹿だったのです。男はそう思いました。
あの日、伝えれば、彼らは閉ざされていた愛を受け取ることができたのです。

誰かが合図をしたわけでもありません。男は馬から飛び上がり、六本の爪で、赤鬼をひっかきました。赤鬼は、我に帰り、槍でそれを受け止めました。
それからは金属の音が何回か聞こえ、山は崩れ、川もぐしゃぐしゃになり、しかしあっけなく赤鬼が倒れてしまいました。

男は倒れた赤鬼を見下ろしながら、聞きました。

「想いを伝えたのか」

そう聞くと、赤鬼は、苦笑しながら首を振りました。
そして、赤鬼はこう言ったのです。


「川の向こうで、あやつを待ちます。それまでは、この想いは、某が持っておきましょう。それまでは、あやつには渡しませぬ。」


赤鬼は、そう言って、初めて泣き顔を見せて笑いました。そうして、ゆっくりと死んでしまいました。










それは、遠いむかしむかしのお話です。
なので、男には、その後のお話はわかりません。
あの赤鬼とカラスがお互いの想いが伝えられたかどうか、わからずじまいだったのです。
男は長生きしましたが、最後に死ぬときまでも、あの二人はきちんと再会できただろうか、気持ちを伝えただろうか、と不安で仕方がありませんでした。
だから、男は最後の意識に願ったのでした。
彼らが、愛し合えるように、と。




















「伊達ちゃん!聞いてよ!休み時間に旦那に呼ばれてさ、おれさま、おれさま、旦那に告白されちまったよ!!ね、ちょっと聞いてる?」
「政宗どの!某は言ってのけましたぞ!ありがとうございまする政宗どの!貴殿が相談にのってくれなかったら、某は、某は、一生佐助に想いを伝えられなかったのでは‥‥!」
「ちょ‥‥おーげさだよ旦那ぁ!おれさまはちゃぁんと旦那の気持ちわかってたぜ?ただ旦那が言ってくれるのを」
「わかってただとぅ!?い、いつからだ!佐助!」
「入学式らへんかなぁ…びびびっと」
「それではおまえは初対面からすでに俺を見抜いていたと申すのか!!さすがは佐助だ!」
「やだなぁ旦那、ほめないで」
「さすが俺の佐助だ‥‥!」
「だ、だんなぁ‥‥!」
「佐助‥‥‥!」
「だんなぁ‥‥‥!」
「佐助ぇ‥‥!!」
「だん‥‥ってなんさ伊達ちゃんニヤニヤしちゃってキッモ」


「oh.sorry‥‥懐かしくなってな」














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伊達は真田主従が好きなのです。
ひとりだけ、記憶ある伊達ちゃん。



あい

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